プロローグ『病によって想起される病』
2章以降は前作『100万を置いた猫』の続編となっております。ご注意ください。
インフルエンザでぶっ倒れてから治るまで――篠木はほぼずっと私の傍にいた。悪く言えば怖い。うざったい。どっかいって迷惑。だったけれど、体調が良くなるにつれ心の余裕が生まれてからは『病人には近寄らないタイプかと思ってたけど意外と面倒見いいんだな』と思うようになった。
これは私に限ったことではなく、昔から人一倍丈夫な篠木は家族や友人のお見舞い役をよくしていたんだそう。なんだ単なる慣れか。
「――心配かけてごめん。もう大丈夫だから」
「……全然そうは見えねぇけど」
「え?もしかしてまだ熱ある?出る前に熱計ったんだけどな……」
とぼけて平熱アピールをする裏で考えるのは別のこと。
――ねぇ篠木。私、子供の頃から1人で寂しいなんて思ったことないんだ。だって起きている時はずっと傍にお母さんがいたから。それが当たり前で。病院に連れていくのも予防接種も看病も――全部全部、お母さんが……。
その経験がどれだけ貴重なのか。今になってようやく分かった。体調崩している間はずっと『手のかかる子』を見る目をしていても……あの人はちゃんと母親だった。
「1月の時の方が症状軽かったからか?前より顔色悪い……本当に治ったんだろーな」
「……それは」
――だからもっと1人になりたかったのに……。
心が波立つ。篠木の動物並みに鋭い勘が、私の心の病みを見透かしているようで――更に気持ちが悪くなった。
「……篠木がずっと傍で私の弱いとこ見てたから。どんな顔すればいいか分かんないだけだよ……」
歪む表情をマフラーで隠し、私は逃げるようにバイト先へ逃げた。




