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沖谷幸生にしあわせを  作者: 椋木美都
第1章『沖谷幸生と篠木威弦の出会い』

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 第14話『篠木威弦の企み』

車好きである威弦も無論ナンバープレートの分類番号についての知識はある。しかしここで幸生の所見に乗っかる訳にはいかなかった。


「幸生はあれが天ぷら(偽造)だって思ってんのか」


「え?天ぷら?」


――その俗称は知らねーのかよ!


「はぁ……俺の方で調べとくからもう帰れ。腹減ってんだろ?」


「あ、うん分かった。ありがとう」


威弦の「送ろうか?」という誘いを丁重に断り、幸生は大人しく帰路に就く。1人夜道を歩く中ずっと足音や気配を探り、頻繁に後ろを振り向いてみるが――アパートまでの一本道はいつも通りの静けさだった。


(=^・^=)

深夜のダーツバーにて。威弦はくたびれた体をカウンターテーブルに預けた。


「威弦……すげー疲れとるやん」


「どう?『ストーカー撃退作戦』順調?」


「…」


――幸生が周辺ウロついてたのもストーカーの目に怯えてたってことか。なら順調……。


数日前。威弦は過去にストーカー経歴がある男性と接触し、幸生を付け狙えと命令した。手っ取り早く彼女の心を手に入れる為に始動した計画名は『ストーカー撃退作戦(仮名)』である。その名の通り、ストーカ被害に遭って怯え悩む幸生を威弦が助けるというもの。彼氏役、護衛……肩書は何でもいい。口実を作って物理的距離を更に縮め『自分が頼れるのは威弦しかいない』という状況を作り上げる。威弦は友人から思いつきで言った案を聞いた時、その縋る思いが恋心に変わる――まではいかずとも、幸生が威弦に心を開くには十分有効な手だと考えた。


まずはジャブで非通知着信と非通知SMSを使い、幸生に『絶対誰かに狙われている』と思わせる。頃合いを見て威弦がストーカについての悩みを引き出す予定だったが――薄々予想していた通り、幸生は大量の通知如きでは顔色一つ変えなかった。それどころか……。


「ストーカーの前に天ぷらナンバー見つけやがった。しかもそれ全然別件だしよ……下の教育どうなってんだクソが」


「あー構成員のミスか」「写真が晒される前に分かって良かったな」


威弦はつい数分前まで失態した構成員を折檻していたのだが――まだまだし足りないと言わんばかりの目を海飛に向ける。


「機嫌悪ぃのが見て分かんねーのか?言いたいことあんならハッキリ言えよ」


「……その子ってそこまでしないと威弦のこと好きになんないの?」


「あ゙ーそうだよ!」


威弦以外の5人が『断言した……!』という顔をする中、本人は半ギレで語気を強める。


「薬盛って体から堕とす方が100倍楽なのにお前等が止めるからこんならしくねぇやり方でやってんだろ!いくら待っても全然チャンス来ねぇからこっちから作ってんだよボケ!大体アイツもアイツだよ……!何であの時正直に『誰かに尾けられてる』って言わねーんだよ。ナンバープレートとかほっとけ!」


「い、威弦!分かってる!今のはカイトが悪いな!?」「カイトも反省しとるけぇその手ぇ放せ!お前とカイトが暴れたらこの店終わる!」


まだ心に余裕がある海飛が素直に謝罪し、剣吞な雰囲気が和らぐ。威弦は先週、酔った勢いでこの場にいる5人に幸生と平を別れさせたことを漏らした。彼は当然のように非難を集中的に受け、亜錬の『これ以上暴走する前に一旦距離置を置け』という発言に激昂する。そして互いの頭が冷えた結果――『全力で応援する代わりに威弦が幸生にしたことを逐一隠さずに報告する』取り決めを交わしたのだった。


――あの時は威弦が俺らの目が届かないとこで拗らせないのを優先したけど……。


蹴りの衝撃を受け止めた腹を抑えて海飛は思惟にふける。


――覇弦にも隠し通すの大変なのに。


このメンバーの中で海飛のみ、覇弦に威弦の情報を流していた。しかし威弦が原因で幸生と平が別れたことと、威弦が幸生にストーカーを仕向けたことは話していない。そして海飛は、今後も隠し通すことが吉だと判断した。


――言ったら絶対反対側に回って威弦を抑え込みそう。まぁ威弦があんなに女の子に執着してるの初めて見たし。


「なんかアイツ会う度に可愛くなってんだよ……いつか本当にストーカーされそうで怖い」


「もう諦めて告白しろよ」


「はぁ!?恥ず……むずがゆいんだよ言えるか!」


「分かる」「怖いよな……」「威弦にもピュアなとこあんじゃん」「それでも行くのが勝者への道じゃろ!」


――俺だってその子と上手くいってほしいよ……あくまで普通のやり方で。


海飛は静かに溜息を吐き、威弦と幸生の先行きに不安を覚えた。


(=^・^=)

どんな人物がストーカーしているのか分からぬまま、幸生は次の日もまたその次の日も――普段通りの日々を過ごす。威弦の独占欲によって盗難と住居侵入は最初から禁止されていた為、実質ストーカーによる心理的ダメージは0だったのだが――とうとう彼女の顔が強張る問題が起きてしまった。


「…!」


――全部、私の写真だ……。


幸生は宛先の無い封筒に入っていた写真を見て驚く。それは驚嘆に近い感情だった。


――おぉ凄い。わざわざ盗撮写真を現像するなんてお疲れだな。にしても私の顔ブス……というか死に過ぎ。目据わっちゃってんじゃん。他撮りの無防備な私ってこんなに陰キャだったんだな……。


幸生は知りたくなかった事実に軽くショックを受け、のろのろとアパートの階段を上った。後に飲みの席で覇弦に『もっと綺麗に撮って欲しかった』と愚痴るのだが――それはまた別の話である。


「はぁ……」


――あの写真、捨てたいけど証拠になるよな。早く終わらせて処分したい……。


「幸生……いつもより顔暗くね?なんかあった?」


バイト終わりの幸生を捕まえた威弦は開口一番、ストーカーの件を話させるきっかけを作った。案の定、彼女は困ったような顔で目を彷徨わせる。威弦は逃がさないと言わんばかりに圧を強めた。


――幸生は良い子で優しいから家族や友達やバイト先に迷惑かけらんねーもんな。いい加減認めちまえ。幸生を一番守れるのは俺だって。


「それとも……俺じゃ頼りなさすぎて相談する価値も無いってか?」


「えっ。いやそんなんじゃ……!」


威弦が予想していた通りの反応を返した幸生は俯いたまま続ける。


「最近、私って可愛くないよなぁ……って実感してしまって」


「……は??」


幸生は固まる威弦の腕を引いてビルから出た。彼女の『どれだけ外見を飾っても中身の可愛くなさが外に滲み出ている』という悩みに対して彼は――


「そういうとこが独り占めしたいくらい可愛いんだろ!」


――噓偽りのない本音をどストレートに伝えた。


「無理して笑ってるとこもバレバレの嘘を吐くとこも下手くそな媚と誤魔化しで乗り切ろうとするとこもそれが成功したらちょっと安心してるとこも滅茶苦茶可愛いの分かってんのか!?大抵の男はな、幸生のそういうとこ見たら勝手に慎ましくていじらしいくて可愛いに変換されんだよ!んなことで悩んでんじゃねぇ!もっと他にあんだろーが!!」


「えぇ。ご、ごめん?」


幸生の口から滑るように謝罪が零れ、複雑な心境のまま恐る恐るといった様子で視線を合わせる。


「あ、ありがとう……なんか自信出てきた」


「……ん」


――早く結婚してぇ……。もう言わせること全部吹っ飛んだじゃねーか!


幸生の上目遣いと安心したような笑みに心臓を掴まれた威弦は首から上を真っ赤にして悶える。彼女の周りに花が舞う錯覚が見えなくなるまで数十分を要した。


「…」


幸生はそんな威弦を盗み見て一つの答えに辿り着く。


――やっぱり似てる。篠木の反応や態度が『付き合っていた頃の元カレ』に……。


平と付き合ったことで学んだ『自分に恋している振る舞いや行動』。幸生はこの経験を活かし、誰が自分に好意を抱いているのかをある程度把握できるようになった。


――えっ篠木って私のこと好きなの?勘違い……であってほしいけれど。


好きにも種類がある。今こうして威弦と居酒屋で飲んでいるのも『ただ仲の良い知人として』だと――覇弦が自分に向ける思いと同じであると幸生は信じたかった。


――単に無害でイジると面白いから私に構っているだけだよね?


「パリパリ麵サラダって夕飯じゃねーだろ。昨日の分も食え」


――私が食べてる時に熱視線を送っているのも、動物の食事シーンを見る感覚と同じで……。


「相変わらず幸生の手首細いな。ちょっと力入れたらすぐ折れるだろ」


――隙あらば私の手首を触ってくるのも、単純に私の暮らしを心配しているからで……。


「クリスマスもSIGで年末年始もSIGかよ。急に2人で会いたいとか言ってくる野郎とか出てきてねーだろうな」


――私の他の交友関係を聞くとちょっと不満そうにしたり、私に近づいてくる男性の陰を気にしたりしてるのも……アレだ。自分だけの玩具を奪われたみたいな感じだきっと!

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