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沖谷幸生にしあわせを  作者: 椋木美都
第1章『沖谷幸生と篠木威弦の出会い』

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 第13話『傾く日常』

新年を迎えて早一週間が経過し、威弦と幸生は――


「なんで黙ってた?」


「な、なんとなく……?特に深い理由はありませんでしたごめんなさい……」


――再開して早々緊迫なムードだった。


幸生は12月30日から4日までイベントサークル『SIG』の同期と一緒に佐古神社の夜勤アルバイトに参加した。彼女は運よく特に仲の良いメンバーと同じ場所に配置され、6日間人生初の業務に励んだのだが……。


「いくらなんでも寝正月すぎんだろって心配した。俺の電話より睡眠の方が大事だって?」


「え、電話には出たじゃん。バイトの休憩中とか仕事前とか」


「午前3時~4時か夕方18時~20時しか電話かけ直してこないのおかしいだろ!あれ休憩時間と勤務開始時間かよ!」


「うん。午前の方はごめんね。全部ちゃんと出てくれて凄いって思ってたよ」


――あとアレだ。言わなかったのはその話題で話が長くなりそうだったからだ……。


幸生は本当の理由を笑顔で隠し、くるっと後ろを向く。


髪につけるやつ(ポニーフック)ありがとう。ちゃんとバイト行く時もずっとつけてたよ」


「あっそ」


――あーーーー可愛いい…………久しぶりの幸生めっちゃ可愛い。


威弦は会えない間ずっと頭から幸生が抜けない日々を過ごしていた。スケジュールの合間を縫って電話しても足りず、顔が見たいという欲が膨らむばかり。どうにか盗撮した幸生の写真で不足分を補い、今日まで持ちこたえてきたのだった。


――2週間会ってないだけでなんでこんな……。


「(久しぶりに幸生に会えたから)反動がヤベェ」


「(体調的な意味かな?)正月病も割と有名みたいだよ。五月病の方がメジャーなイメージあるけど」


「……幸生は?」


「大丈夫。全然休んでないし。忙しすぎて他のこと何も考えられなかったな……正月気分は過去一で味わえたけど」


「そ」


――俺に会えなくて寂しかったとか……コイツが言う訳ねーか。


威弦が勝手に不貞腐れていると、幸生が彼のポケットに謎の袋を入れた。


「あ?なんだよ」


「うわっバレた。いやその、何となくで買っちゃったから……い、いる?」


威弦は交通安全のお守りを見て内心頭を抱える。わざわざ威弦の為に決して安くないお守りを購入するという行為にどれ程の意味が込められているのか――普通なら意識している上でのプレゼントだと考えるのが妥当である。しかし沖谷幸生は一般的な女子大生ではなかった。


――せめて恋愛系だったら告白に繋げられたのに……コイツの場合100%厚意が有り得るってか濃厚なんだよな。マジで勘違いしそうになる。


「……なんとなくって何。俺以外にもこういうことしてんの」


「えっなわけ。ただ皆がお守り買う流れに逆らえなくて、とりあえず交通安全の買ったってだけ」


「押し付けたってこと?」


「そそんなことは……篠木バイク乗るし。ホラ車より事故りやすいって聞くし」


「今まさにチャリ押して歩いてる奴が言うな」


本当(ホット)だ。ま、まぁ誰かにあげる体で買ったはいいけど誰にあげようかなーってなって真っ先に思い浮かんだのが篠木だったから。要らないなら私が……」


「はぁ?もう俺のだが?」


「あっはい」


威弦はお守りを握り潰す前に避難させて口を真一文字に結ぶ。例え消去法でも幸生の『一番』になれたことが堪らなく嬉しかった。


――肩透かし肩透かし肩透かし……あー本当に悪魔みてーな女だな!


見たり与えられたりする度に幸生という存在が途方もなく大きくなる。威弦は鋭い舌打ちをして幸生の髪を撫でた。


「じゃあまたな」


「あれ?う、うん。またね」


――急だな……じゃあ今日は夕飯食べないんだ。


駅前でも家の近くでもない交差点で唐突にそう言われ、幸生は初めてのことだと面食らう。威弦はそのまま彼女の耳元に唇を寄せた。


「最近、女子大生ばっか狙ってるストーカーとか変質者が多いらしいから気をつけろよ。自転車でも危ねーから」


「うん分かった。ありがとう」


幸生が穏やかな忠告を受け止めた直後、急に来た寒気に身を震わせる。自転車に乗って帰る中、彼女の頭には――


『俺お守り買お。弟には学業で、父さんと母さんには……金運?無病息災?交通安全?開運?うわどれにしよー』


『あたしもお父さんに厄除けあげよ。あとお婆ちゃんに傘寿守り』


『俺も交通安全を家族分……あと自分用に縁結びのお守り買うか……今年こそ!』


『……!!』


――威弦や変質者が入るゆとりは無かった。


幸生は神社アルバイト終了後、共に働いていた友達と授与所の前にいた。3人が揃って家族用のお守りを選んでいる中、彼女は1人疎外感を覚える。


――お守りなんて要らないし……ましてや誰かにあげるとか。


ふと『家内安全』の紙札に目が行き、幸生は――


『さっちゃんコレよくね?幸運守り!さっきのおみくじ大大凶じゃったし』


『凶の安井君に言われたくない……その後引いたらちゃんと半凶だったから大丈夫』


『どの辺が?さっちゃんも大人しく菜々緒(ななお)と同じの買っとけ!』


『い、嫌だ!どうせ買うなら交通安全にする……!』


――やっつけ気分でお守りを購入したのだった。


「はあぁ……」


深いため息を吐き、心に沈んだ鉛玉を外に出す。幸生は複雑な心情を振り払うように自転車を漕ぐスピードを速めた。


――家族に新年の挨拶できてないとか。分かっていたけどバイト中家族とエンカウントしなくて良かったとか。買う必要のないモノ買っちゃったとか……なんで新年早々こんな感傷的になんないといけないんだろ。


月と街灯が幸生の繊細な部分を照らし、彼女は弱弱しく肩を落とす。


「……」


幸生がアパートの階段を上がり、ドアが閉まるまで――肥大(ひだい)な中年男性がじっとその様子を観察していた。


(=^・^=)

――ストーカーだぁ。


非通知56件。SMS通知94件。電話はかけ直さず、SMSに送られてきた内容を一読した幸生は心の中で呟く。自分が見知らぬ人間のターゲットにされていると気づいてから、彼女は出来るだけ自転車で帰宅するよう心掛けた。


――でもどうしようかな。出来るだけ早い内に特定して話し合わなきゃ。


幸生がストーカによる被害の中で最も嫌だと感じるものは2つ。盗難と住居侵入である。加害者が行為をエスカレートする前に突き止めて接触する――幸生の中に誰かに頼る気と恐怖心は微塵もなかった。


――待ち伏せしてくるまで待つのも時間が勿体ないしな。つきまとってきた時に接触できたらベストなんだけど……。


幸生は漫画やドラマでよくある、『尾行されていることに気づいた登場人物が角を曲がった先で待ち伏せる』といったシーンに憧れていた。彼女はそれを実現すべく、まずはストーカー側に立って行動を予測し始める。


――例えばウチのバイト先から出て来る人を待ち伏せする時、目立たずに全体を見渡せる位置は……こう見るとここストーキングしやすい立地だな。


幸生は残業後、雑居ビル周辺を軽く探索する。有料駐車場に停まっている車の裏、向かいのマンション、自動販売機の裏――そして最後に、雑居ビルに併設されている駐車場へ足を向けた。


――いや寒すぎる……あと潜めるトコは多いけど暗いから夜だと見えにくいな。だからもしバイト先から私を尾けるんだとしたら外じゃなくて、ベタなのはカフェの窓か車内……。


幸生のバイト先周辺に時間を潰せるような店は無い。よって車の中を覗いてみようと近づいたその時。


「幸生」


「わーーっ!し、篠木……」


幸生は意識の外から聞こえた声に驚きの声をあげる。威弦はそんな幸生を冷えた目で見下ろした。


「窓の外から丸見えなんだよ。なに会社の周りウロチョロしてんだ」


「あーー。えっと……」


幸生は言い淀んだ後、恐る恐る右手を伸ばして黒の4人乗り小型乗用車を指差す。


「あ、あのちょうど真ん中に停まってる車……ちょっと変な気がして」


「あ?別に普通……」


――って言ったらコイツ誤魔化して有耶無耶にしそうだな。


「……どの辺が?」


「え、えっとあの車、ナンバープレートの分類番号が『430』ってなってるじゃん。確か普通自動車で『4』から始まるのってキャラバンとか軽トラとか、荷物運ぶ系の車に分類されるんじゃなかったっけ……あの車どうみても普通のコンパクトカーだよね?」


ナンバープレートの分類番号とは、地名の横に表示される2桁または3桁の数字のことである。1桁目が車の種別を示すのだが……幸生の知識通り、小型貨物車を表す『4』の分類番号が小型乗用車のナンバープレートに装着する行いは、この世界においても本来あってはならない犯罪行為。コンパクトカーの分類番号は『5』が正しく、話題に上がっている車は所謂天ぷらナンバーの可能性が高かった。


「……!?」


――何でコイツんなこと知ってんだ!?車持ってねーだろ!


幸生の推測を聞いた威弦は心の中でそうツッコむのだった。

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