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柊くんが、最近やけに大人びて見える。
背が高くなって、声が低くなったこともそうだけど。もともと出会ったころから礼儀正しくて、物分かりがよくて最近の小学生でこんなにキチンとしてる子がいるんだ………くらいに思っていたのに、成長期に入ってあっという間に私の身長を抜かしていった。少しかすれた少年の声は、しっかりと大人の低さに代わってしまった。イメージするとき、頭の中では少年の姿のままなのに。
最初は小さな弟ができたように感じて、すごく嬉しかった。
きちんと挨拶もして、お箸も上手に持ててしっかりとしつけされてるお子さんだった。聞けばお父さんと二人暮らしだそうで、忙しい中でもしっかりとお作法を教えてもらってたんだなと思った。子供だから洋食が好きかなと思って出したけど、私が普段適当に作ってしまう和食のほうがよく食べてくれた。お手伝いも進んでやってくれて、もしかして子供の標準ってこうなのかななんて思ったけど、家の前の公園で大騒ぎしている同じくらいの年の子を見ると、やっぱり柊くんが特別な気がしていた。
基本的に一緒に遊びに行ったりすることはなかったけれど、食材の買い出しにはそれなりに付き合ってくれた。重そうに持っていた買い物袋も、最近では軽々持ってしまう。お米なんてここ最近自分で持った記憶がないかもしれない。
前はほぼ毎日いてくれた柊くんも、私が教えたり見たり食べたりして味を覚えて作れるようになって、一緒に過ごすことも減ってきた。たまにおじいちゃんが寂しがるから、柊くんを呼び出してご飯を一緒に食べることもある。
私の高校受験の時も、就活の時も、いろいろ差し入れしてくれて本当にうれしかった。お守りや見様見真似で作ったご飯のおかずとかをよく差し入れてくれたし、家でご飯食べるときにはかなり手伝ってくれた。柊くんはまだまだだっていうけれど、もうずいぶん前から料理の要領は身についていて、充分に美味しい料理を作ってくれる。
中学二年の時にもらった誕生日プレゼントのクジラのぬいぐるみも本当にうれしかった。あの時は、まだ知り合ったばかりだったけど誰よりもいろいろ話してた時期だと思う。家におじいちゃんしかいないから、あんまり外で遊びに行くこともなくて、友達もそんなにいなかったから人からプレゼントをもらう機会なんてそうそうなかった。家事に追われていた中もらったクジラは今でも大事に大事に私の部屋にある。抱っこするにはちょっと小さいから、手に包んでよく話しかけたりする。誰にも言えない話は、このクジラが聞いてくれた。
柊くんを男の子として見てしまいそうな自分を、よくないよねって言いながらくじらをウンウンとうなづかせる。そこまで恋愛らしい恋愛をしてこなかったけれど、恋心というのはうっすら同級生に抱いたことはある。教室の自分の席からこっそりその人を眺めているだけで終わった恋だったけど、その時と同じような感情が少しだけ柊くんにあるような気がする。
それでも、6歳も年の離れた子にそういう気持ちを抱いてしまうのはよくないんじゃないかなってずっと思っている。2つ離れてるだけでも結構差があるななんて思っていたのに、社会にでて20歳を過ぎてみると、年の差なんてあんまり関係ないことを思い知らされる。つくづく学生と社会人って違うんだなと思ってしまう。まだまだ学生の柊くんにとって、21歳の私は年齢よりもはるかに上に感じるんだろうな………。
職場で出会いがないわけじゃない。そこそこの会社で事務の仕事を始めた私は、そこそこ仕事をこなしている。上司や同僚、先輩もいて気さくに世間話をすることもよくある。あんまり自分のことを話さないから、ちゃんと会話できてるのかは不安になるけれど仕事場でできた同僚に、出会いの場に誘われることもある。そういう場に出るのも社会勉強だと思っていくこともあるけど、いつもなにかが違うのだ。何が違うって明確に言葉にすることは難しいけど、自分の欠けたピースにはまりそうな人がいないなと思ってしまう。結局は現実逃避のようにいつか自分のお店を持ちたいななんて漠然と考えながら、日々過ごしている。
柊くん、今日来る日だったな。
今日の夕飯は、柊くんの好きな名前のない料理と、グラタン教えてほしいって言ってたから牛乳買って帰らなきゃな。