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 今日あったことを話すために、父の帰りを待つことにした。

いつもは待たずに寝ていなさいと言われるので休日くらいしか顔を合わせないのだけど、さすがに人にお世話になったからには父に説明せねばと起きていた。父が帰るのはだいたい夜も更けた10時くらいになるだろう。父はどんなふうに俺の話を受け止めるだろうかと少しドキドキしながらも、いつもはもう布団の中にいる時間でちょっとうとうとしながら時計をにらめっこする時間が続いた。


眠気覚ましに洗面台で水で顔を洗って居間に戻るとちょうどアパートの玄関の鍵がガチャガチャと音をたてはじめた。がちゃりとドアを閉めてカギをかけ、居間に顔をのぞかせた父は自分が起きてることにだいぶびっくりしてうおおと声をあげた。


「びっくりした、起きてたのか」


「うん、ごめんね。報告しておかなきゃいけないことがあって」


「どうした、学校のことか?いつもちゃんと聞いてやれなくてすまんな」


 そういうと父さんは食卓の椅子を引いて席についた。俺はいつもの父さんとは向き合う形で座っている。


「あのね、今日お惣菜屋さんで会った吉井雨音さんっていう中学生のお姉さんが夕飯をご馳走してくれて」


「お。そうなのか。しっかりお礼はしたか?」


「もちろんご迷惑にならないか聞いて、お金出そうと思ったんだけど断られちゃって」


「あらら、今度父さんからもお礼をしないとな」


「それで………」


 この先がめちゃくちゃ言いづらい。これからご飯をお世話になるって父さんは怒るだろうか。


「どうした?まだ続きがあるのか?」


「いや………あの………これからご飯を雨音さんの家で一緒に食べないかって誘われたんだよ」


 このころはまだ遠慮があって、吉井さんとか、雨音さんとか呼び方がよそよそしかったな。でもこの時は本当に緊張した。普段何度も人に迷惑をかけちゃいけないって父さんには耳にタコができるくらい俺にしつけていたから。


「………うーん、そうか………そちらのお宅はご両親やご家族の方とか柊が行ってご迷惑じゃないか?」


「うん……多分」


 この後、一生懸命雨音ちゃんの家のことについてや、雨音ちゃんがどんな人かどんな印象だったかとか何よりご飯がとってもおいしかったことを父に矢継ぎ早に説明した。


「そうか………父さんも挨拶するからお世話になってもいいと思うぞ。何よりお前にしっかりした食事をさせたいのだが、父さん料理下手だしなかなか一緒に食事する時間も取れなくて申し訳ないと思っていたんだよ」


「ほんとに?!本当にいいの?!」


「ああ、でもくれぐれも失礼のないようにな。あと向こうのお家の負担になりそうならすぐ自宅でご飯食べる生活に戻るんだぞ。それから食費については俺が吉井さんのお家に渡すことにするから………連絡先を………ってもう聞いておいてくれたのか」


 もらってあった連絡先のメモを渡す。じわじわと心に広がるあったかい気持ちに顔の筋肉が緩みだすのを感じた。ここ最近のことで一番うれしい。友達とサッカーして勝つより、授業で図工の時間があるよりずっとずっと嬉しかった。雨音ちゃんの美味しいごはんが食べられる。あったかいごはんが食べられる。


 冷たいごはん続きで、本当に気持ちが死にそうだった。お腹は満たされても心が本当に飢えてたようだった。心が満腹になるのを感じた今日、この幸せを何度だって味わいたい。………それと父さんもやっぱりこの食生活に申し訳ない気持ちをもっていたんだなとちょっと心にチクっとささるものがあった。

父さんと二人の生活になにも不満なんてなかったのに、なんだかおいしいごはんに飢えてたなんて父さんを責めているようになってしまったかな。


 父さんはさっそく翌日の良い時間に電話してお礼とお世話になるお電話をしたようだった。次の一人の食事の日、ちゃんと食費は受け取ってもらうようにしたぞといって茶封筒にお金を入れて持たされた。


 放課後、雨音ちゃんの家までの道は完ぺきには覚えてなかったのでお総菜屋さんの前で待ち合わせすることにした。そのことも父さんが電話で説明しておいてくれた。スキップでもしたいような気持ちを抑えて、あくまで冷静に、はしゃがずにお惣菜屋さんまでたどりついた。

まだ雨音ちゃんの姿はなくて、お惣菜屋さんのおじさんに柊くんよかったなとか声かけられるのを愛想笑いで相槌打ちながら姿が見えるのを待った。15分ぐらい待った所で、雨音ちゃんが息を切らしながら小走りでこちらに駆け寄ってきてくれた。


 姿が見えた時、約束はちゃんと本当だったと安堵すると同時に、買い物袋にパンパンに野菜やら肉やらを詰めて両腕に下げてることに驚いた。夕飯の買い出しをしてからここまで来てくれたんだ。










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