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 村人のマキノから村の雑用を頼まれて、俺一人農具を担いで村までの道を歩いていく。荷物の中にはしっかり雨音ちゃんがお弁当と水筒を持たせてくれた。ちょっと疲れたように見えた雨音ちゃんの顔が目に浮かぶ。まぁ、一応俺も手伝っているとはいえ、今までの自分の分にプラスして俺の分も家事が増えてしまったから、単純に疲れがたまってるのかもしれない。今日はもう休むように伝えたけど、言う通り休んでいるとはとても思えないな………と感じている。



 「シュウ、ここだよ。うちの人が腰を悪くしちゃってねえ………悪いけど頼むよ」


 「いつもこちらこそ助けてもらってばかりいるので、まかせてください!」



 ある程度の農具の使い方も覚えたし、てきぱきと畑の作物を取りはじめる。植えてあるものはすっかり抜き取り、畑を耕して置いておく。

あとはもうマキノさんの家の修理や家畜の世話をして、建付けの悪いところは釘を打ちなおした。


 「シュウ!そろそろお昼にしよう!」


 「はーい!今行きます」


 井戸で手を洗い、顔をぬぐって服をばたばたとほこりを落として家の中に入る。ベッドからゆっくり起き上がってきたご主人も席に着いた。



 「シュウ、今日は助かったわ……すまんな、こんな格好で」


 「いえいえ、いつもお世話になってますし大丈夫ですよ。あ、お弁当を雨音ちゃんからもらってきてます」

 

 「おや、そうかい。まぁ少し足して食べていきな」


 マキノさんの料理が机の上に並ぶ。サラダと焼いたベーコンにスープ、パンも美味しそうだ。雨音ちゃんからの包みを開けると、サラダとお肉がたっぷり挟んであるサンドイッチが入っていた。スープをマキノさんがよそってくれたので、ありがたくいただく。


 ここにきてから特にごはんがおいしい。もともと体を動かすのは嫌いじゃなかったけど、部活をそんなに熱心にやっていたわけじゃなかったし、夕飯の支度もあるから遊びもそこそこに家に帰る日々だったから、こんなに体を動かしてくたくたで食べるご飯は、栄養が体の中をぐんぐんかけまわるような感じがして、うまみが舌の上でおもいっきり広がるようだった。


 もちろん、雨音ちゃんが料理の腕をあげたのもあるんだと思う。マキノさんや村の人からレシピを教えてもらったりしたような話も聞いたから。


 「………そういやシュウ、お前アマネのことはどう思ってんだい」


 突然の質問に口の中のものを吹き出しそうになった。エホエホと咳をして、あわててついであったお茶を飲む。


 「ど、どういう意味ですか………」


 「いや、お前たちは同じ国から来たって聞いたけど、もともと向こうで知り合いなんだろ?アマネも見たところいい歳だし、そろそろ結婚をしないと」


 「けけけ、結婚?!」


 「そりゃなあ、女一人でしばらくここに住んでたからいろんなやつが心配してよ。見合いでもさせてやろうってときにシュウがきたんだよ」


 「ああ……まぁ……」


 「こういうのは男がびしっと決めなきゃだめだぞ、シュウ」


 「ああ………ええ………」


 今の時代に合わない話だなと思いつつも、ここは異世界だしそういう価値観もありっちゃありだし、どっちかというと俺がビシッと言いたい気持ちもあるけど………いろいろ複雑なんだよおじちゃん………察してくれ………。


 「見合いさせようとしてた若者がいてな、そいつが結構アマネを気に入ってて乗り気だったんだよな」


 「………え?!」


 「あんまりうじうじしてると、雨音みたいな料理上手の女はとられちまうぞ」


 「はい………善処します………」


 おいしいごはんを一生懸命いろんな思いと一緒に胃に詰め込んだ。雨音ちゃんが結婚?いや、もともとその可能性はあったんだ。歳が七つも離れてたら元の世界だって彼氏のひとりふたりいてもおかしくなかったし、先に結婚して、知らない男に手を引かれてウェディングドレスを着てることもあったんだ。

 お昼を済ませて雑用をひたすらこなしている間にも悶々と頭の中でぐるぐると駆け巡った。でも知ってか知らずか、元の世界では雨音ちゃんの彼氏らしい人を見たことはなかった。むしろずっと俺と料理してた気がするような。ただ、毎日監視してたわけじゃないからいた可能性も充分にあるのだ。大きくなってからはそれこそ、たまにレシピを聞くくらいだったんだから。


 大きなため息と一緒に帰り道をとぼとぼと歩いた。背中のかごに入れた農機具が行きよりもずっしり重く感じるのは、決して疲れのせいだけじゃなさそうだ。いや、もちろんお礼の作物やらお土産があって重量は増しているのは確かなのだけど。


 山間の中にぽっかり明かりが見えてくる。雨音ちゃんが家の中で作業してるのだろう。あたたかな柔らかな一筋の光。ドアに手をかけようと思った瞬間、がちゃりとドアが開いた。


 「おかえり、柊くん。お疲れ様」


 にっこりと微笑む雨音ちゃん。くたくたの体に染み渡る笑顔。頭が回ってなかった俺は、荷物をがちゃりと落としおもわずぎゅっと抱きしめてしまった。


 「雨音ちゃん、ただいま………」


 雨音ちゃんが腕の中で、ぴしりと石像のように固まってるのを感じた。


 「うわぁ、ええ?!俺何やってるんだろ、え?!ごごごごめんね?」


 「だ、大丈夫………つ、疲れて帰ってきたもんね」


 お互い大慌てで体を離して、荷物をひっつかんで家の中に入り、着替えてくるね!と駆け足で部屋に入った。ドキドキと心臓の音が高鳴っているのが聞こえる。顔が沸騰しそうだ。でも、でも。雨音ちゃんは体にすっぽり収まるサイズで、体がふわっと柔らかかった。

 感触を反芻してしまっている自分が恥ずかしくてまたわあああとバタバタしてしまう。早く落ち着いて、いつも通りにしないと雨音ちゃんが余計気にすると申し訳ないから………。それでも少し、触れられて嬉しかった。


 

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