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 雨音ちゃんが家に招き入れた人たちは、3人。恰幅の良い女性と、細身の女性、男性ひとりだった。

服装は簡素なワンピースにエプロンをつけている。男性もシャツにズボンとシンプルだ。


 雨音ちゃんは俺がいる机に椅子を足し、座ってもらうよう促した。

恰幅の良い女性はマキノ、細身の女性はユキ、男性はサイと紹介された。ひとりひとりに軽く会釈しながら、シュウですと返事をする。相手側の反応はにこやかだ。とりあえず大丈夫そうかもしれない。


 マキノさんが、手に持ってた大きなかごを机にポンと置いてお客様用のお茶を出している雨音ちゃんに声をかけた。


 「アマネ、今日も収穫できたから持ってきたわよーって思ったら、いつの間にこんないい男捕まえたのさ」


 「えへへ、同じ国から来ちゃった人で………」


 「あら、ニホンからもうひとり来たのね。こんなことあんまりないけど続くものなんだねえ」


 お茶をすすりながらのほほんと話をしている。そうしていると興味津々という顔で、ユキさんがこちらを見ていた。


 「シュウさん………あなたもニホンからきたのね。ねえニホンってどんなとこなの?」


 「いや、えっと………もう少し近代的な………」


 「キンダイテキ?なんかわからないけどすごいってことなのね………アストロイみたいな感じかしら」


 「アストロイ?」


 「この村の南をずっと行くと大きな都市があるのよ。いろんな店や、家があってすんごいの」


 頭の中で想像しているんだろう、頭の横にもわもわとふきだしがみえるような感じもする。大きな街もあることはわかったけど、ここはやはり市街から外れた村なのだろうということがわかった。


 サイさんは寡黙な感じだったが、困ったことがあればいつでも声をかけてくれていいと言葉少なに教えてくれた。村人三人からの反応はよさそうで一安心した。


 そんなに時間もたたないうちに、お茶は空になりこれから農作業があるからと三人は帰っていった。

俺は何をするべきなのかわからず、とりあえず湯呑みを下げ、机をふくだけ拭いた。雨音ちゃんは、もらった農作物をたらいの水の中につけて、泥を落としてざるにあげていた。


 「さて、これからどうしようか………」

 俺は手持ち無沙汰になり、雨音ちゃんに回答をもとめてしまった。本当はいろいろやるつもりだったし、できれば雨音ちゃんをもとの家に帰してあげたいつもりで来たのに実際にここにきたら何もできることがないような役に立たなそうな人間になってしまった。


 「ここの家の横に畑があるから、農作業と水汲みとかいろいろやる事はあるよ。さて、柊くんがきてくれたから私の労働が少しは減るわね」


 にこっと邪悪な笑みが見えたような気もするけれど、とりあえずもう少し時間を置いてたくさん話をしないと雨音ちゃんの気持ちがわからないかもしれないと、言われた通り農作業と水汲みをやることにした。


 頭に布を巻いて、石がゴロゴロ出てくるような畑を石をどかしつつ掘り返す。それが済んだら、雨音ちゃんと出会えた川まで水を何度も汲みにいっては家の大きなかめに水を満たしていく。


 こんな重労働、雨音ちゃんはこっちに来るまでずっとしてたのかな………とちょっとびっくりした。それに、こっちに来たばかりの時は家もなにもなかっただろうし、本当に苦労してたんだな。


 知らないところで、つらい目にあってなければいいと思っていたけど、これはこれで大変な目にあってたんだなと、俺が少しでも力になれればいいけど………果てのない労働の中で体を動かしているのに頭の中でぐるぐると考えてしまっていた。



 日が高くなるころ、一緒に作業していた雨音ちゃんがお昼の用意してくるからちょっとまっててと言われて、鍬を置いて木の陰で少し休憩を始めた。気温は春のような陽気で、暑くもなく寒くもないちょうどいい天気でよかった。ここに四季があるのかはわからないけど。


 雨音ちゃんが持たせてくれた、木の筒には冷たいお茶が入ってて飲むと喉をすうっと通ってあとに清涼感が残る。緑茶に近い味だけど、その清涼感が労働の後の体に染み渡る。


 一息ついてから、家の方に向かい俺も手伝うことがないか見に行くことにした。

雨音ちゃんも同じように農作業してたんだから疲れてるだろうと思って、家に入り台所を覗くともう盛り付けてる段階だった。急いで手を洗って雨音ちゃんの隣につく。


 「ごめん雨音ちゃん、手伝わなくて」


 「いいんだよ、急にここにきて農作業なんてびっくりしたでしょう?」


 「ううん、サバイバルにはなるかもしれないって、いろいろ勉強してきたんだ」


 「そうだね、たしかにどんなとこか教える方法もなかったからね」


 そういいながら料理が完成して、皿を机に運んだ。皿には見慣れたでっかいおにぎりと野菜のお浸しや卵焼きも乗っている。労働の後でお腹がぐうぐう鳴いている。


 「さあ食べよう。いただきます」


 「いただきます!」


 久しぶりの雨音ちゃんのごはんで感動した。おにぎりは普通のお米とはちょっと違って、プチプチした食感がある。中には野菜の佃煮みたいなものが入っていて味が染みておいしい。野菜のお浸しも、お醤油と野菜の素朴な味がして心が落ち着く。しばらく食べてなかったから、体がぐんぐんと栄養を吸収していく感じがある。


 「これ、お米のおにぎりというか雑穀米かな………プチプチしててめちゃくちゃおいしい」


 「ありがとう、白米よりは雑穀米のほうが手に入るからね。そこまで日本と変わらない食材があって助かってるよ」


 「俺は雨音ちゃんのごはんで育ったからやっぱりほっとするよ」


 「いいんだか、悪いんだか………」

 

 細胞に刻まれてる、雨音ちゃんの味。やっぱりずっと雨音ちゃんと一緒にいたい。胃袋掴まれてるってこういうことだろう。





 



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