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 とりあえず立ち上がってぐるりと見まわしてみるけど、何もなさそうな山の中という感じがした。

ここがどこなのかもさっぱりわからないし、月明かりだけが足元を照らしている。


 一応月の光が足元まで当たるということは、この木々はそれなりに管理されている木なのかもしれない。適当に生えっぱなしになっている場合は、もっと鬱蒼としているものだとサバイバルの本で読んだ。


 とりあえずここにいても仕方ないし、近くに管理している人がいるかもしれないので荷物をもって、ある程度服の砂埃を払って歩き出そうとする。


 「でもこれ、どっちに行けば正解とか………わかんないな」


 そもそもくじらには雨音ちゃんのところに行きたいって願ったはずなのに、こんな何もない森の中にほっぽりだすのはどういうことなんだ、とすっかりぬいぐるみの顔をしてるくじらをペシっとたたく。

 

 こいつもこの先もしかしたら必要になるかもしれないから、バッグの奥に押し込んで仕方なく勘で歩き出す。


 


 足元は木の根が張っていて、道はでこぼこしている。気を付けて歩いてはいるが、なかなか前に進むのがしんどい。坂道になっているわけでもなく山のどこに向かっているかはわかりにくい。


 一応下っている気がする………ようなしないような。完全に遭難と違いないとわかってはいるものの、夜道では辺りも見回しにくい。とりあえず、カバンの中に入ってたオイルランタンに火を灯し、ある程度の広場を見つけてカバンを置いた。枯れ枝をひろい集め、火をおこして座り込む。


 (思ったよりも、雨音ちゃんに会うのは大変そうだ………)


 持ち物には非常食も入っているが、そこまで大きい荷物を持ってこれたわけじゃないので心もとない。どこかで食べられる草や動物を狩るしかない。あと水も大事だ。日が昇ったら辺りを探索して、必要そうなものをそろえよう。




 うとうとと眠ったようなうたたねをしていたが、あまり寝付けることもなく朝が来た。

気温は暑くもなく寒くもないところだ。かすかに遠くの方で水の音がする気がする。とりあえずそこを頼りに、装備を整えて歩き出す。


 ざくざくと音だけを頼りに、歩き始めてどれくらいたっただろうか。日の光がてっぺんから降り注ぐようになったころ、ようやく川にたどり着いた。ただ、山のような風景からここは切り離されているような、川の向こう岸には、人が通るような通路ができているように見える。


 ここは人も使うような川なのだろう。水を汲んで、ボトルにいくらか詰めたら反対岸に渡る。真ん中あたりでもふくらはぎくらいの水深だが、足元はおぼつかない。コケや水流のせいで、足をすくわれそうになる。慎重にゆっくりと流されないように川を渡っていく。


 あと少し、もう少し………というところで、足を取られる。後ろには、それなりにでかい石があるのに転んだら…!


 「あ!!!」


 「………あぶない!!!」


 バシャバシャと水音をたてて、横になってしまう体を誰かがふわりと抱き寄せた。しかしバランスを崩した体を支え切れるはずもなく、抱きしめられたままバシャリと尻もちをつく。



 「いたたた………すみません、たすかりました………」


 一応お尻は打ってしまったけど、頭をでかい石に打ち付けることはなかった。でも、相手の服もびっしょり濡れてしまっている。いやそうではなく、この世界初めての人………!


 ガバッと顔をあげるとそこには、会いたかった顔がみえた。


 「………雨音ちゃん!」


 「………しゅう……くん………どうして………」


 クジラのぬいぐるみは、一応はちゃんと仕事をしていたのかもしれないなと思いながらも、雨音ちゃんの複雑な表情をみると少しだけ申し訳ない気持ちが湧き上がってきた。


 とりあえず、手をつないで川の岸にもどると雨音ちゃんはしくしくと泣き出してしまった。




 





 



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