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 頭を整理しよう。

俺はクジラのぬいぐるみを抱えてまじまじと眺めながら整理をはじめていた。 

あのクジラのぬいぐるみは、星の力がどうとか言っていた。そして今日は流星群が見える初日。


 まだ流星群までには日にちがあるけれど、流星群がカギになってることは間違いなさそうだ。それともちろん、このクジラのぬいぐるみも。でもきっと、コイツにただ雨音ちゃんのところに行きたいと願ってもダメな気がする。


 そもそも俺はこの世界中から存在が消えても、それでも雨音ちゃんと一緒にいたいのだろうか。


 いろいろなことが脳内をよぎっていく。友達のこと、学校のこと、将来のこと、父のこと。

 でも雨音ちゃんはそんな事考えることもなく、別の世界に飛ばされたんだと思う。そして、きっと戻る方法がないのかもしれない。戻ったとしても、見知った人がだれ一人自分のことを知らないかもしれない。記憶が戻る補償なんてないし。




 ………俺は雨音ちゃんが好きだ。

 俺を大事にご飯を食べさせてくれて、悩みも聞いてくれて育ててくれたように、俺も雨音ちゃんを守りたい。まだ確証はないけれど、この世界で俺だけが雨音ちゃんをおぼえてる人間かもしれない。それはきっと、このぬいぐるみをプレゼントするときに、たくさんいろいろ願ったからかもしれない。


 なんてもんあげちゃったんだって後悔もするし、雨音ちゃんにあんなことを思わせてしまったのも悲しかった。でも責任感で雨音ちゃんに会いたいんじゃない。大事な人を守りたいだけだ。

 この先ずっと雨音ちゃんが存在しない世界は、大事なピースが欠けてしまったいびつな世界だ。


 次の流星群が起きるまでに、支度をしておこう。

 なんだか昔のファンタジーみたいな世界にいる雨音ちゃんのためにできる勉強と、心残りはあるけれど周りの人にあいさつをして、それから強く強くクジラのぬいぐるみに願ってみるしかない。



 俺は自分のことを周りのみんなが忘れてしまっても、雨音ちゃんを救えるならそれでいいと思う。


 とりあえず、やることを紙に書きだし一旦眠ることにした。

興奮して目がさえていたけど、それでも無理矢理に寝た。やることは決まっている。ちゃんと支度して、もし雨音ちゃんのいる世界に行けたなら、もう子供みたいに足をひっぱりたくない。


 


 次の日から俺は、サバイバル知識の本を片っ端から読み漁った。次の流星群は三か月後ということが分かったので、それに目標を合わせて知識を叩き込む。きっと金稼ぎの方法も必要になるだろうし、俺は手先が器用だと思うから、何かを作って売ろう。


 学校の連中にもなるべく遊んだ。本片手だったけど、悔い残さないように全力で遊んだ。親ともたくさん話した。


 こうしていると気がまぎれるようだったけど、本当は不安もたくさんあった。

本当に行けるのか、そして本当に俺は忘れられてしまうのか。忘れられるということは死よりも恐ろしいことなんじゃないかと頭をもたげるときもあった。


 でも、雨音ちゃんのことを思うとそんな悩みも申し訳ないくらいに思う。

いつも優しい雨音ちゃんが、もしかしたら向こうで泣いているかもしれないと思ったら、俺しか助けることはできないじゃないか。




 ふらふらと悩み、決意し、そしてまた悩んでいるうちに月日がたち、もう一度流星群が現れる日になった。








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