隣の席のいつも目が死んでいるダウナー系美少女の西条さんは俺にだけやたら話しかけてくる
俺の隣の席の西条さんはいつも目が死んでいる。
常に眠いのか不機嫌なのか判断出来ないような顔で登校してきて、授業を受け帰っていく。
そんな西条さんだが、最近何故か俺にだけ態度がおかしい。
「石田、教科書」
授業中、西条さんが俺の方に机を寄せてきてそう言った。
西条さんはよく言葉を端折るところがあるらしく、言いたいことを理解するには少し慣れが必要だ。
今のは教科書を忘れたので見せて欲しいという意味らしい。
「あ、いいっすよ」
俺は窓際の方に教科書を寄せ、黒板の文字を再びノートに書き写していく。
ふと隣から視線を感じ左を向くと、西条さんが俺の顔をジッと見つめていた。
「……あの、俺の顔になんか付いてる?」
「石田は優しい、どうして?」
「ん?」
西条さんは何が言いたいのだろう。
もしかして俺が彼女に親切にする理由を聞いているのだろうか?
確かに西条さんはその雰囲気ゆえに周りから1歩引かれたような接し方をされている。
こんな小さな事でも彼女にとっては優しいと感じるのかもしれない。
「んー別に理由はないけどね。まぁ強いて言うなら西条さんが可愛いからじゃない? 知らんけど」
自分で言ってクサすぎるとは思ったが、正直な気持ちである。
西条さんは控えめに言っても美少女だ。
それこそ学年で1番可愛い(当社比)と言ってもいい。
そんな彼女に優しくするのは紳士として当然だといえよう。
「……そう」
俺の言葉を聞いた西条さんがそっぽを向く。
……流石に今の発言はキモかったか。
耳が少し赤くなっている彼女に申し訳なく思いながら俺は授業に集中する事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「石田、あれ取って」
「石田、一緒にご飯」
「石田、帰ろ」
それからというもの、西条さんがなにかにつけては俺に話しかけてくるようになった。
俺としては嬉しいかぎりだが、別にイケメンというわけでもなくコミュ力が高いわけでもない平凡な俺に超絶美少女の西条さんが話しかけるメリットがあまりないように思える。
とある放課後、俺は隣を歩く西条さんにその事を聞いてみることにした。
すると、西条さんは少し考えたような素振りを見せた後。
「秘密」
そう言って見せる少しイタズラっぽい笑顔に俺の胸が高鳴る。
「……西条さんってそんな顔も出来たんだ」
「石田だけ」
また西条さんの耳が赤くなっている。
もしかしてこれは照れているのだろうか?
……ということは教科書を見せたあの時も?
「石田」
そんな事を考えていると西条さんが俺のほうに手を差し出してきた。
「え?」
わけも分からず困惑している俺に、再び彼女が手を差し出してくる。
「繋ご」
……………………。
これはもしかして手を繋ごうと言っているのか?
でもなんで急に?
てか付き合ってもない男女で手繋ぐことある?
もしかして西条さんは俺のことが……?
……いや、落ちつけ。
それは俺が汚れているだけで西条さんは純粋な友人として手を繋ごうとしているのかもしれない。
そうだ、そうに決まってる。(この間0.02秒)
「あ、いいっすよ」
俺は脳内で激しい自問自答を繰り広げた末にそう言って西条さんの手を握った。
ひんやり冷たい彼女の手は夏場にはとても心地良い。
その際勢い余ってお互いの指と指が絡みあい手のひらが重なる繋ぎ方、いわゆる『恋人繋ぎ』になってしまったが、ここで動じたら変な奴と思われかねない。
落ち着け俺。
「あ、恋び……」
西条さんが何か言っているが気にしていられない。
冷静だ。
冷静にいくんだ。
……手汗大丈夫かな?
《西条side》
「~~~っ」
夜、ベッドに横になりながら私はぬいぐるみに顔をうずめ悶えていた。
何故あんな事を言ってしまったんだろうか?
急に手を繋ごう、なんて。
しかも……こ、恋人繋ぎ。
自分でも分からない。
最近はずっとそうだ。
……私はあまり他人と関わるのが得意では無い。
表情が乏しいせいか別に不機嫌な訳でもないのに気を使ってくる人間ばかりで、逆にこっちが気を使ってしまうからだ。
それでも彼だけはそんな変な気遣いをせずにずっと接してくれた。
だからだろうか、彼にだけは普段の自分なら絶対に言わないようなことを言ってしまう。
気づけば彼を目で追ってしまっている。
胸が苦しい。
ぬいぐるみをギュッと抱きしめる。
「すき」
つい口からこぼれ落ちる言葉。
どうでもいいことは言えるくせに、なんでこの一言が言えないんだろう?
「石田」
そう口にするだけで自然と口角が上がってしまう。(他人から見たら全然変わってないかもしれないけど)
明日はなんて話しかけよう?
「おやすみ、石田」