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Vtuberダンジョン配信

 みなさんこんにちはー!

 お久しぶりです。初めましての方は初めまして!


 新連載始めてみました!

 良かったらお読みいただけたら嬉しいです。

「ああ、なんということでしょう。わたくし、今日も迷子になってしまいましたわ!」


 ほの暗いダンジョン内を、一人の女子が心細げに歩いている。その姿はカメラによってリアルタイムで配信されていた。


「このままではまたお城に帰るのに時間がかかって、お父様にバレて叱られてしまいますわ。ああ、どうしましょう」


 画面の中にいる彼女は、明るいオレンジ色の髪をカールにしていて、不自然なほど瞳が大きかった。黄色いドレスが印象的な、完全な3Dアニメキャラとして映っている。


 彼女はダンジョン配信Vtuberという新たなタイプの実況者である。Vtuberネームはヒメノンと名乗り、本当の名前は海原琴葉。実はまだ高校生になったばかりで、ダンジョン探索歴は二年近く経過していた。ちなみに配信歴は一年ほどだ。


「きゃあっ。皆様、あんなところに大きなトロルがいますわ。しかも、とっても怖い目でわたくしを睨んでいます」


 怯えたポリゴンフェイスがプルプルとしているが、コメントで反応してくれる人はいない。ほとんどの場合同接はなく、たまに二、三名がやってくれば良いほうだった。


(あれ? 今日ってまだ誰も観に来てくれてなかった? ええー、ちょっと寂しいかも。でもしょうがないか)


 ヒメノンこと琴葉は、同接や登録者がずっと伸びていない。そのことはもちろん残念に感じている。


 しかし、ダンジョン探索自体が大好きな彼女にとって、配信とはあくまでオマケ程度のものだったから、大きく落ちこむほどでもなかった。


 それより今は戦いのほうが重要だ。下手な一人芝居を続けているうちに、身の丈四メートルはあろうという巨大なトロルが棍棒を振り回して近づいくる。目には殺気が宿り、手心を加えるつもりなど微塵もないことは明らかだ。


 相対する彼女はといえば、特に何も持ち合わせていない。つまり素手の状態であった。トロルはすぐに至近距離まで迫ると、自らの肉体に見合うほど巨大な棍棒を、躊躇なく少女に振り下ろした。


 体格差を考えれば、結果は火を見るよりも明らか。しかし、状況は常識を逸脱していた。


「えい」


 気合の声と共に、大きく甲高い音がダンジョンに響き渡り、なぜか棍棒が砕け散ってしまったのだ。


「………?」


 トロルは何が起きたのか理解できず、間が抜けた顔で少女を見つめていたが、徐々に驚きに目を見開いていく。どうやらヒメノンは、自らの拳をぶち当てて棍棒を粉砕したらしい。


「では、次はわたくしから参ります」

「オ!? オ? オオ!?」


 土色をした巨体を誇り、粗末な衣服を纏った魔物は後ずさった。黄色く鮮やかなドレスがひるがえり、回転しながら空を飛ぶ。


「やー」


 声こそ若干気が抜けているが、一気に急降下して繰り出される蹴りは強烈そのものであり、明らかに人間離れしている。


 一瞬で巨大な側頭部に蹴りが決まり、トロルの巨体が吹き飛んでくるくると回りながら加速していく。勢いづいて壁に激突した禍々しき怪物は、仰向けに倒れたまま二度と起き上がることはできなかった。


(あ……いっけない! つい大声出しちゃった。これじゃ全然お姫様じゃないよぉ)


 お姫様のガワを被った少女は、配信画面に向き直るとどうにか笑顔を作る。


「わたくしったら、つい我を忘れてしまいましたわ……って、ああ!?」


 配信画面を見れば、チャットが書き込まれていた。ほとんどチャット欄に動きがないヒメノンチャンネルにしてみれば、これは驚きの光景である。


 すぐに画面に喰いつく彼女だったが、そのチャット内容は、


:初めまして。とても勉強になります。どうやってバトルシーンの合成をしているんですか?


 という、ヤラセ前提としか思われていない文面であった。


「え、えええ!? ち、違うのです。わたくし、本当にダンジョン内で、怖い魔物に襲われて、そして——あ!?」


 辿々しく説明をしているうちに、同接のカウントがゼロになってしまう。


「ああーん。もう! また一人なの? あ、そうだレムちゃん、同接が増えたら教えて」

「カシコマリマシタ」


 レムちゃんと呼ばれたそれは、コンピューターそのままという声をしていた。どうやらカメラ係をしているらしい。


「あーあ、つまんない。今日は宝箱もあんまり出てこないし、帰ろっかな」

「コノフロア内ニハ、モウオ宝ハナイヨウデス」

「あ、やっぱり? じゃあ帰ろ。あ、えーと、か、帰りますわ。皆様、それでは本日もありがとうございま——」


 と、ヒメノンが配信終了挨拶を終えて、カメラのOFFに指を触れかけた時だった。


「きぃやあああああ!?」


 強烈な悲鳴が遠くから響いてきて、彼女はハッとした。明らかに緊急の何かが起こっているのだろう。そう考えた少女の行動は素早かった。


「この声は、あっちかな? 早く行かなくちゃ」


 言うが早いか、素に戻った琴葉が猛烈な勢いでダンジョン内を疾走した。


「……配信ガ終ワッテナイ? 続行? ……今ハ救出ヲ優先」


 レムちゃんと呼ばれていたカメラ係は迷いつつも、とりあえず配信はそのままにして、琴葉を追いかけるのだった。

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