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*♡異世界恋愛♡*

真面目で内気な令嬢は、友人にうまく利用された挙句、最愛だった人にも裏切られました。

作者: 虎娘

「あなたのことなんて、はじめっから友人だなんて思っておりませんでしたわ。うまく利用させていただきましたの。むしろ、感謝していただきたくってよ!!」



卒業を迎えたある日、唯一の友人に放たれた言葉は刃となって彼女の心に突き刺さった。

学園生活において、同じ時をともに過ごすうちに打ち解け、友人とも言える存在、のはずだった……。



どうしてこんな事になってしまったのか……。



◇*◇*◇

マーガレット公爵家の長女としてこの世に誕生したカンナ。

両親からの愛情を受けすくすくと成長。

3年後には妹が誕生し、絵に描いたような幸せな生活を送っていた。


人見知りで内気な性格のカンナには、幼い頃より家族ぐるみで親しくしていた同い年の令息、マックレーン公爵家の次男アドルフがいた。

彼とはごく自然に接することができ、幼いながらも彼に対して恋心を抱いていた。


「カンナ、大人になったら僕のお嫁さんになってくれる?」

「もちろん!!」

「良かった。断られたらどうしよかと思ったよ」

「断るわけないですわ。わたくしもアドルフのお嫁さんになりたいと思っていましたもん」

「僕は兄みたいな騎士になって、必ず君を迎えに行く。だから、誰も好きになってはいけないよ」

「わかったわ」


お互いの気持ちに嘘偽りはない、……この時のカンナはそう思っていた。


(なんと酷な約束を……)



◇*◇*◇

この国では、貴族の質を高めるための教育に力を入れており、多くの令息・令嬢は名門学園に通い、教養や紳士・淑女としての立ち振舞いを身につけることが義務化されていた。


カンナも、アドルフとともに自宅から通えるクライオ学園への入学が決まり、華の学園生活が始まった……。

だが、カンナにとって、学園という場は決して居心地の良い場所ではなかった。

積極的にクラスメイトに話しかけるアドルフとは違い、人見知りな上、消極的な面が出てしまったカンナ。

入学して早々に孤立してしまった。

そんな彼女に声を掛けて来たのがリア・レイナードだった。


「はじめまして、私はリアよ。あなたのお名前は?」

「……はじめまして、リア様。私はカンナです」

「同じ学生同士ですわよ。様はよして。リアと呼んで下さいな」

「わ、わかりました」


クリーム色のふわふわとしたロングヘア―に、蝶をモチーフにした髪飾りをつけたリア。

彼女からはフローラル系の優しい香りもした。

彼女の明るく気さくな態度に、始めのうちは戸惑い気味だったカンナだったが、打ち解けるのに時間はかからなかった。

いつも2人で行動し、学園外でも交流を深めていた。

互いの屋敷を行き来することもあれば、2人で街へ出掛けることも多かった。


「このリボン、カンナによく似合ってるわよ」

「そうかな……せっかくならリアとお揃いがいいわ」

「カンナ~大賛成ですわ」


仲睦まじい2人の令嬢。

この先も一緒に出掛けたり、お茶をしたりして過ごせる……そう思っていた。


◇*◇*◇

学園生活最後の年を迎えた、そんなある日のこと。

リアがカンナの屋敷を訪れ、リビングでお茶を楽しんでいると、突然屋敷の扉が開きアドルフが入って来た。


「カンナ、いるかい?」

「ええ」


急ぎ足でリビングに入ってきたアドルフは、カンナの姿を確認。

カップを持っている姿を見た後、彼女の目の前に先客のリアがいたことに気付いた。


「急にごめん。……おっと、これは失礼しました。先客がいたとは知らず、無礼をお許し下さい」

「お気になさらなくともいいですわ。カンナ、こちらの方は?」

「彼はアドルフ・マックレーン、私の幼馴染です」

「初めまして、リア・レイナード様。私も同じ学園に通う者です。以後お見知りおきを」


アドルフは上体を前に傾け、リアに向かって軽く頷いた。


「あらそうなのですね」

「選択コースが違うから会わないだけよ、ね、アドルフ」

「そうだな。けど、こうしてカンナにリア様みたいな友人ができて良かったよ。このまま1人で寂しい学園生活を過ごすんじゃないかって、心配してたんだぞ」

「なんて失礼な言い方」

「そう拗ねるなって」


2人の何気ない会話を聞き、カンナがアドルフに対して微笑みかける様子を見ていたリア。

ふとあることに気付いた。


「ところでアドルフ、要件は何かしら」

「あっ、そうだった。今日来たのは、来月から俺、近衛騎士団の鍛練に参加することになったんだ。これまでの努力が報われる日が来たんだ。それを伝えたくて」

「すごいじゃない、おめでとう。……けど、無理はしないでね。いくら体力があるからと言って油断しちゃあだめよ」

「おぅ!!ありがとう。じゃあ俺、行くわ。リア様、ごゆるりと」


手を振りながらアドルフは去って行った。

その姿をにこやかに見つめるカンナに対しリアは尋ねた。


「カンナはアドルフ様のこと、お慕いしているのね」

「お、お慕い……そう、ですね」


頬を赤らめ、うつむき加減で答えるカンナを見て、リアはほんの一瞬唇を噛み締め、彼女を睨み付けた。

そんな事とは知らないカンナは照れながら話を続けた。


「リア、私ね、もうすぐアドルフと結婚するの」


この、カンナが良かれと思って話をしたことが、後々に彼女自身を苦しめることになるとは……知らなかった。



◇*◇*◇

学園内では卒業式の後に行われる夜会の話で持ちきりだった。

夜会の1ヵ月前に、男性が女性を誘うのがこの学園における習わしであり、ちょうど今日がその夜会の1ヵ月前。

学園内ではそわそわする令嬢たちがたくさんいた。

あちらこちらで聞こえてくる歓声。

カンナとリアも中庭でその状況を目の当たりにしていた。


「カンナにはアドルフがいますもんね。彼からのお誘いは受けたの?」

「えっ……と、まだ、なの」

「ええぇっ!!」

「リア、声が大きいよ」

「あら失礼」

「リアはお誘い、受けたの?」

「ええ」

「えっ?いつお誘いがあったの?誰?」

「しぃー」


リアは人差し指を立て、カンナの唇へと押し当てた。


「当日までひ・み・つ、よ」


不敵な笑みを浮かべるリアに、嫌な予感を感じたカンナ。

だが、この予感は悲しくも的中してしまうのだった。


クラスの中でも、授業の合間に誘いを受ける令嬢たち。

隙あらば誰が誰を誘っただの、想いが通じただの……、淑女らしからぬ態度であったが、今日ばかりは仕方ないと教師も呆れていた。


その中でも、待てど暮らせど夜会のお誘いを受けなかったカンナ。

授業終了の鐘が鳴り、リアとともに帰ろうと彼女を探すが見当たらない。

仕方なく1人で帰ろう、と荷物をまとめ学園の入り口まで辿り着いた。

すると、目の前には見慣れた人の姿が……。


「リア……?それに……」


カンナの目の前にいたのは、腕を組む仲睦まじい恋人同士のようにも見える、リアとアドルフの姿があった。


「え……っと、2人は……」


この状況を理解しようにも思考が停止しそうなカンナ。

必死に考え、ようやく言葉として絞り出したものの、上手く伝えきれず、今にも泣きだしそうな声で尋ねた。


「アドルフとは婚約しているのよ」

「えっ……嘘……だって……」

「あぁ、カンナが前に言ってたことぉ?だってあれ、小さい頃の口約束でしょぉ。そんなの小さい子ども同士の戯れ事と一緒よぉ。ねっ、アドルフ」


先ほどよりも身体を密着させ、リアはアドルフへ優しく微笑みかけた。


「カンナ。まさか君が、あの時の約束を覚えていただなんて……」

「忘れる……わけ……ない」

「ふ、ははははははは。よくもまぁ健気なことで」

「ア、アドルフ?」

「俺はね、君みたいな健気なお嬢様が、一っ番嫌いなんだよ。可愛げもなければ、そこまで美人でもない。俺は可愛い女の子からチヤホヤされたいんだ。君に何かあるとするならば……こうしてリアと友人になってくれたことかな」

「ちょっとアドルフ、私は友人ではなくってよ」


片手でアドルフの肩を軽くたたきながらリアは言った。


「リア……?」

「あなたのことなんて、はじめっから友人だなんて思っておりませんでしたわ。うまく利用させていただきましたの。むしろ、感謝していただきたくってよ!!」

「ど、ど、どういうことなの!!」

「貴女みたいな人と仲良くなれば、私の可愛さや美しさが引き立てられると思ったの。この3年、貴女と仲良しこよしを演じるのは楽しかったわよ。でも……残念ですわ、これでおしまいね」


学園で初めてできた友人、とも言える存在のリアと、

幼い頃から今日まで、淡い恋心を抱いていたアドルフ。


2人から同時に浴びせられる数々の言葉は、鋭い刃となりカンナを深く傷つけた。


「カンナ、俺はこの通り、夜会のエスコートをするのは婚約者のリアだ」

「私と貴女が出会わなければ、貴女は今頃アドルフと幸せだったのかしら」

「リア、やめてくれっ。虫唾が走る」


カンナは悲しみの涙を流すことはなく、ただただ茫然と立ち尽くすしかできなかった。

その様子を見ていたアドルフとリアは、そのまま仲睦まじく去って行った。

(私には……何も……)


2人の姿が見えなくなると、カンナはその場に座り込み、滂沱の涙を流した。

そんなカンナの目の前に差し出された、白いハンカチ。


「こちらをお使いください」


聞き覚えのある声に思わず顔を上げると、近衛騎士団のみが着用を許される制服を身に纏ったスレン・マックレーンの姿があった。


「スレン……様」

「レディ、我が弟がとんだ失礼を」

「あ、え、っと……」

「何も気に病まなくても良いです、さ、お手をどうぞ」


言われるがまま、カンナはスレンの手をとり、ある屋敷へと連れられて来た。


「スレン様?」

「ここは私が所有する屋敷です。今夜はこちらでゆっくりとお休みください。マーガレット邸へは連絡を入れておきますので」

「ですが……」

「貴女は何も気になさらないで」


にこやかに笑みを浮かべ、これ以上は何も言わないように、と圧をかけているような態度。

彼の笑顔の裏に、どのような感情が隠されているのか計り知れなかったが、カンナは彼の言う通りにしようと思った。

(明日に控えた卒業式と夜会、どのように過ごしましょうか……)

カンナはベッドへと倒れ込み、そのまま深い眠りについた。



◇*◇*◇

迎えた卒業式当日。

厳かに式は進む中、これまで一度も休むことなく学園へと足を運んでいたカンナの姿は、どこにも見当たらなかった。



夜の学園には光が灯り、辺りは幻想的な雰囲気を醸し出していた。

華やかな衣装を纏った令嬢をエスコートする令息。

その中でもひと際目を引いたのが、リアとアドルフの姿だった。

彼らの姿を目にしたクラスメイトは、口節に彼らを称賛した。


「リア様、なんてお美しいの」

「お2人ともお似合いよね」

「アドルフって卒業後は確か騎士団への入団が決まってるんだって」

「リア様とも婚約されて、幸せなんでしょうね」

「リア様と仲の良かった……カンナ様でしたっけ、今日はお見えではないのね」

「卒業式にも来られてませんでしたわ」

「夜会へも参加されないのでしょうか」

「誰もエスコートしないだろ」


会話の合間から聞こえてくるカンナのことには耳も傾けず、2人は会場へと足を踏み入れた。

今回の夜会では、アドルフとリアの婚約発表も予定されており、両公爵家親族も招待されていた。

アドルフはその中にいるはずの兄であるスレンを探すも、見当たらなかった。


「リアのことを紹介しようと思っていたのだけど……」

「今日は来られるのですよね?」

「あぁ」

「きっともうすぐ来られますわよ」


しばらくすると、入り口近くが騒がしくなり始め、通路を囲むように多くの人だかりができていた。

聞こえてくる内容から、スレンが到着したのだと思われた。


「スレン様の近衛騎士姿を拝見できるなんて……」

「……スレン様ぁ」


待ちわびていた人が来たとわかると、アドルフはリアを引き連れて歩き出した。


「スレン兄……様?」

「やぁ、我が弟よ」

「そちらにおられる……ご令嬢は?」


スレンと腕を組み、やや俯き気味に頬を染める見覚えのある姿がそこにはあった。


「おっと。紹介するね。こちら、私の愛しい妻のカンナだよ」

「ス、スレン様……」

「すまない。ようやく手に入れた喜びから浮かれてしまってね。愛しい妻はかなりの恥ずかしがり屋なんだ。これで失礼するね」

「兄様っ、お待ちください!!」

「……何かな」


低めの声で答えたスレン。

彼の対応にぞくりと背筋が凍るアドルフ。


「私は急いでいるんだ」

「はい……」


この場にいた全員が、2人の兄弟の間には何やら溝がありそうな印象を受けた。


扉が閉まるのを合図に、会場には華やかな音楽が流れ始めた。

音に合わせるように踊り出す今宵の主役たち。

その中にはスレンとカンナ、リアとアドルフの姿もあった。


各々に夜会を楽しむ中、会場内にアナウンスが流れた。


「クライオ学園をご卒業されました皆様、今宵の宴はお楽しみいただいておりますでしょうか。ここで今夜の主役でありますお方にご挨拶をいただきたいと思います」


ステージへ足を進めようとしたアドルフを制したのは、スレンだった。


「君たちの挨拶はなくなったよ」

「えっ……」


そう言い、スレンはカンナを連れ登壇した。


「今宵はお招きいただき、ありがとうございます。そして皆様、ご卒業おめでとうございます。卒業後の進路は人それぞれかと思いますが、この学園で学んだことを未来永劫忘れることなく過ごして下さい。そして今、皆様の隣におられる最愛の人を大切になさってください。私もこうしてカンナを妻に迎えることができました。これも全て、不出来な弟のおかげです。彼の卒業後は騎士団への入団と決まっておりましたが、彼には不出来さ故に、衛兵としてこの国のために尽くしてもらうことになりました」

「兄様、そんなこと聞いておりませんっ!!」

「そうですわよ、何かの間違いですわ!!」

「口を慎みたまえ!!」


スレンの一喝に会場内は静まり返った。


「本来であれば牢へとぶち込んでやりたいところだが、カンナの寛大な心に感謝することだな」


あの時、アドルフとリアがカンナに対して罵声を浴びせている状況を見ていたスレン。

許せない思いを抱えながらも、カンナの心情を察し妥協したのが衛兵として働かせることだった。


「アドルフ、リア嬢を婚約者として迎えたいのであれば、衛兵としての成果を出し、騎士団へ入団することが条件だそうだ。どのくらい時間がかかるか見ものだな」


この国において、衛兵から騎士団へと這い上がるためには相当な努力が必要であり、今のアドルフには夢のまた夢の話であった。


「アドルフならきっと大丈夫よ」

「君にはわからないよ。衛兵から騎士団になれる確率なんて低いんだぞ」

「努力すれば……」

「何も知らないくせに言うな!!」


これまで仲睦まじい2人の間に亀裂が生じかけていたのを間近で見ていたカンナ。


「スレン様、私……」

「私たちはこのままお暇しようか。ここにいると空気が澱んでしまうね」

「ですが……」

「もう気にしなくていいんだよ。これからは私が君を支える。言ったよね?」

「……はい」

「ほらほら。愛しいカンナ。我が邸へ帰ろう」


ギクシャクした空気を残し、その場を後にしたスレンとカンナ。

2人のことを気にしつつも、この先再び会うことはないだろうと気持ちを切り替え、スレンの後に続いて学園を後にしたのだった。



◇*◇*◇

――数年後。

邸に響く子供たちの声。


「お母さまぁ、早く早く」

「おかあしゃま~」

「はいはい。今行きます」


子どもたちとともに邸の玄関にたどり着いた。

その時扉が開き、愛しい人の姿が目に入った。


「おかえりなさないませ、旦那様」

「ただいま、愛しい人」


彼女を抱き寄せ、唇に優しくキスをした。


「あぁ、お父さま!!お母さまになんてことをぉ」

「おっと、これはこれは……小さきライバルがここにいたな」

「だめでしゅ~」

「ふふふ。あなた達にはいつもしているでしょう?おやすみ前のキス」

「そんなことをしているのか……なんだか妬けるなぁ」

「もぅ、みんなして」



仮令初恋の人や友人に裏切られようと、こうして幸せな人生を送れる。

そう思いながらカンナは日々幸せな生活を送っていたのであった。

虎娘『真面目で内気な令嬢は、友人にうまく利用された挙句、最愛だった人にも裏切られました。』

を読んで下さり、誠にありがとうございます。


この作品を手掛けるにあたり、助言いただきました方々に深く感謝を申し上げます。

本当にありがとうございまいました。


作品を読んで、いいなぁと思って下さったそこのあなた!!

★での評価をお願いいたします。

また感想をいただけますと、私の励みにもなりますので、何卒よろしくお願いいたします。


今後とも虎娘の作品をよろしくお願いいたします。

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