虹のステージ 1
「俺達、ちょっとトイレ行ってきます」
「お、行ってきなー」
「あっ!私も行く!」
先輩とマネージャーさん達に一言投げかけた後、俺と夕は扉を開けて廊下へと出る。
AIKOKU組の演奏が終わると、次の演奏まで少しの休憩の時間が与えられる。
第二陣••••つまり企業勢の発表の前にも休憩時間があった。
案外休憩のスパンが短いのか、と思われるかもしれないが、実際には必要な休憩時間だったりする。
というのも、企業Vtuberの発表は(事前に渡されたプログラムを見る限り)大人数でのものが多い。
特に次のライブを行う『シング&ライド』は全てのライバーが参加を予定している。シング&ライドの総勢というと、35人だ。
そんな大所帯だからこそ、機材だったりやそれぞれのライバーの調整だったりに準備の時間が必要なのだろう。
トイレへ向かう道中、夕が問いかける。
「シンライの次は私らだよね?」
「確かそう。一番最初は夕たち2期生で、二番目に俺達2.5期生、そんで最後に1期生に繋ぐ形だったはずだ」
「そこは新入りが最初でしょ••••ああプレッシャーが••••!」
頭を抱える夕。
「そのプレッシャーがあるからお前ら二期生を最初にしたんじゃね?ある意味期待されてんだろ」
「その期待が分かってるからプレッシャーなんだよ••••!掴みどうしよう••••」
夕のその台詞を聞き、頭に不安がよぎる。
Vtuberになって初めてだ。ここまで広い舞台は。
大人数とコラボはしたことがあるが、それはコラボ相手の視聴者に絞られる。
だから事前にコラボ相手の視聴者層を調べておけば対策のしようは全然ある。
しかし今回は業界全体、なんならそれ以外からも視線が向けられているイベントだ。明らかに規模が違う。
だからこそ俺達はどんなアピールをすればいいのか。それが夕や俺達が悩む理由だろう。
もういっそAIKOKUみたいに求めるものを絞りに絞った方がいいのか、と思いながら廊下を歩いていると、ドタドタという音が聞こえてきた。
「「ん?」」
『どいてどいてどいてぇぇぇっ!!!!』
音の方向は正面。
目を凝らすと、そこには大量の人、人、人。
人の集団がまるでバッファローの群れの様にこちらへと走ってくる。その数は10は確実に超えている。
このままじゃ轢かれる!?
そう思った俺と夕は慌てて通路の傍にペタンと張り付いた。
「「わぁっ!?」」
どたどたどたどたどた!
埃を立てながらその集団が通り過ぎると、俺達はペタンととその場に座り込んだ。
軽い恐怖体験で尿意など吹っ飛んでしまっている。
「な、なんだったのあの勢い!?」
「知らないよ!?」
人の群れが走り去っていく様子を目を白黒させながら眺める俺達。
そんな時、声が投げかけられた。
「あっ!本能寺くんと夕だ!」
「ほんとだ」
「「今度は何!?」」
ばっ!と背後を振り返ると、二人の人影。
そこには見知った顔があった。
咄嗟に俺達は二人してその人の名前を叫ぶ。
「「ラリアーさんと群雀蘭さん!?」」
◆◇◆◇◆
走り抜けた集団の後ろから出てきたラリアーさんと群雀蘭さんは「や」と手を挙げる。
二人は駆け寄ってきて「どうしたの?そんなとこにへたり込んで?」とラリアーさんが言う。
「いやぁ、さっきの大集団に驚いちゃって」
頭を掻きながらそう説明すると、二人は顔を見合わせて「ああ••••」となんとも微妙な表情を見せた。
「ごめん。あの子達ウチの子」
群雀蘭さんが言う。
「ウチの子?」
つまりシング&ライドのライバーということか。通りでたくさん人がいる訳だ。
俺達の目的地と同じ方向から走ってきたのを見る限り、彼ら彼女らもトイレ行ってたのだろうか?
そう思ったけれど、ここでどこか違和感を感じた。
今はシング&ライドの人達のライブの準備時間のはず。
直前にあんな大人数で移動するなんてあるのだろうか?
夕も同じことを感じたのか
「なんでみんなして走り回ってるの?もうすぐ発表だと思うんだけど••••撮影所は?」
そう言うと、「やっぱりそうなるよねぇ••••」とラリアーさんが頬を人差し指で掻く。
彼女の仕草に何か問題でもあったのかと不安を抱く。
「何があったんですか?」
「んーいや何かあった、というよりは今から起こすというか••••?」
「ラリアー。別にぼかす必要ないでしょ。••••人を探してるの」
「人?」
人を探しているという群雀蘭さんの言葉に首を傾げる俺と夕。
ラリアーさんはそんな俺達に向かって『にかり』と笑うと、
「まぁライブ見てたら分かるよ!待ってて!うんと魅せてあげるから!」
そう言い、群雀蘭さんと走り去っていった。
◆◇◆◇◆
◆◇◆◇◆
休憩時間が過ぎて、幕が上がる。
幕が上がると、青い空の下にステージが敷かれたきらり明るく映える会場が広がっている。
しかし誰もいない。
一瞬運営の不具合かと観客が危惧するが、そんな時、一つの丸い何かが空を舞ってステージに登場する。
ふよふよと浮かぶそれはシャボン玉。
無色透明に見えて虹に煌めくそれの数は無数で数えると35個ある。
それらはステージの上で少しの間対空すると、一斉に弾ける。
弾けたシャボン玉の飛沫は小さな虹を作り出した。
35の虹は集まり、一つの大きな虹カーテンになる。
そして、そのヴェールの向こうからシング&ライドの面々が姿を現した。
彼ら彼女らは全員で顔を合わせ一息に叫ぶ。
『さぁさご覧あれ!俺たち!私たちの未来へのやり方を!』
『新生シング&ライドの爆進だ!』
声高なその声々は、やけに熱を持って響いた。
◆◇◆◇◆
35人の内、数名が歌い出す。
『" "』
その数名は『歌』をメインコンテンツにした者達だ。
ロックで、ポップで、クラシックで、ジャズで、レゲェで。
それぞれが得意とするものを、それぞれがひたすら楽しく歌う。
そんなに混合したら混沌とした演奏になる。
そうもうかもしれないがそうではない。
彼ら彼女らの歌声は確かに、『生き生き』という形で調和していた。
一人一人が個性を放ちつつも綺麗に混ざる。
それはまるで虹のように青空の下のステージに響く。
●○●○●
歌の中、踊り出す者が数名現れる。
それは『踊り』をメインとする者達。
群雀蘭 マイもその一人。
彼女が得意としたジャンルを誰にも縛られることなく踊る。
その他の面子も同じく踊る。
そう。ただ自由に。
彼ら彼女らの踊りはステージを彩る。
●○●○●
間奏では語りが入る。
ラリアー・ルルディリアのような『会話』を好む者達だ。
ミュージカル?いやいやそれとは違う。
ただ会話を。
もっと会話を。
言葉と言葉の交わり、想いの応酬を最も好み、愛する者達が行う一番の表現。
言葉は音色に重なって、観客に手紙として届く。
観客はその便りをコメントという返事でポストに入れた。
●○●○●
シング&ライドの面々が乗り越えた曇天、その先のステージで彼らは楽しむ。
ただ、自分らしく。
◆◇◆◇◆
かくして、シング&ライドの一曲目が終わりを告げた。
立て続けに二曲目が流れ始める、かに思えたが、シング&ライドの面々は微動だにしない。
彼ら彼女らは瞳をカメラではないどこかへ集中させている。
幾許かの時が経つ。
シング&ライドの面々はついに声を上げた。
『ああもう!早くおいでよ!』
と。
『みんな貴方を待ってる!』
と。
しかし誰も来ない。
ライバー達は痺れを切らし、全員で場面の外へと駆け出す。
「ちょっ!?ちょっと!?やっぱり俺は皆の所には!?」
「貴方がいないと始まらないんだからさ!」
「あーもう!兎に角来いよ!」
ライバー達の声に混じり一人の男性の声がする。
そして彼ら彼女らがステージへと舞い戻る。
誰かの手を引いて。
その人は自作のイラストで、自作のモデリングで生み出された一つのVtuber。
シング&ライドのライバー一覧には載っていないVtuber。
彼に向かって、シング&ライドのライバー達は一斉に言う。
「一緒に歌おう!」
「一緒に踊ろう!」
「一緒に話そう!」
『社長!』
と。
最後まで読んでいただき、感謝です!
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