幕裏で
本来ライブのシーンも入れたかったのですが、納得がいかず全消しして書き直しました。
「それにしても大きいねこの会場••••!」
玄関をくぐり中へ入ると、美納葉が今日何度目か分からない台詞を吐く。
「お前そればっかだな。文章力はどうした」
「捨てた!」
「やめてくれ笑えない。お前から言語能力を捨てたらますます化け物じゃないか」
「待って?本当に私のことを何だと思ってるの?」
「言語は通じるけど、価値観やら身体能力やらが180°違う存在」
「••••文章力、小学生ぐらいまで元に戻そうかな」
「やめとけ。さっきの台詞が完全に某探偵漫画のおにぎり小僧になる」
そもそも何で可変式なんだよお前の語学能力。
「うぉ〜すっげぇ〜!千隼〜!うな重何杯分だ!?」
「寄せに行くな」
俺にはそれが建物の爆散フラグに思えてならない。劇場版みたいに爆発されたらたまったもんじゃないぞ。
◆◇◆◇◆
俺達は外靴を脱いで手に持って、踵部分をトトンと地面にぶつけ土を落とす。そうした後、鞄から出したビニル袋に靴を放り込んだ。
会場にはもう随分と人が集まっており、其の数は何十名。下手したら100人を超えるのかもしれない。
とはいっても、ライバーは少数派だ。大半は機材を調整するための技術者や、開催者が用意したスタッフだ。企業勢なら同伴者のマネージャーなどもいるだろう。
勿論俺達もそうだ。啞我凪さん含むマネージャー陣と技術者達は後から合流する予定である。
「えっと••••事前に伝えられた待機場所は••••」
スマートフォン片手に割り当てられた小部屋へ繋がる廊下をうろうろと歩く。
左、右、右、左••••あーもうこんがらがる!何でこんなに部屋数が多いんだ。
完全にスマートフォンに釘付けの状態で何度か迷子になりつつ、歩くこと数分。
「千隼!ここの廊下を右に曲がったらすぐだよ!」
「おー••••よく覚えてたな••••」
唐突に美納葉が俺を米俵のように肩の上に持ち上げて、ずんずんと勝手に歩いていく。
わー。楽ー。同じ所をずっと歩き回ってたから実は疲れてたんだよねー。
••••てか地図を覚えているなら最初から案内をしてくれ。心の中でそう悪態をつきながら通路を右に曲がる。
するとその時。
「千隼〜!早く早く!」
「はいはい。さいですか。俺は一歩も歩いてないから、その発言に果たして意味はあるのか••••ってわぷっ!?」
どしゃあ!
唐突に何かの集団にぶつかった。
その振動で俺は美納葉の肩の上から転げ落ちる。
「痛ったぁ••••!?頭からいったぞ!?••••何事?」
顔を上げると、そこは死屍累々。
十数名の人間が堆く積み上がっていた。
どうやら俺(を持った美納葉)はこの集団と衝突したらしい。
因みに、その衝突を真正面から食らった当の美納葉はというとノーダメージで直立不動だった。
不意に大人数とぶつかったのにこの様子だ。「おかしい」を超えて、なんなら一周回って美納葉らしい。
そうこう思っていると、美納葉に衝突した十数名が、積み重なったその状態のままにわちゃわちゃとお喋りを始める。
「なんかすごい振動が••••!?」
「重い••••あつい••••」
「地震!?天変地異!?」
「いやいや子時。流石に天変地異はねぇだろうぜ?」
「さっすが思考回路がガキンチョ」
「うるっさい!ガキンチョじゃないもん!」
そんな風に俺達そっちのけの会話をしていた彼ら彼女らだったが、状況に気付いたのか、「ハッ!」とした表情をする。
すると、鼠と猫が追いかけっこをする某アニメのようなコミカルな動きで、彼ら彼女らが立ち上がる。擬音にすると『びよよーん!』って感じ。
そんなバネみたいに跳ね上がった人は即座に頭を下げた。
「すみません!よそ見してました!」
「いえいえこっちこそ脇見してしまったので!」
頭を下げ、礼の応酬を幾何か続けた後、ややあって、最後に「すみません忙しいのに!」と口にした後別れた。
去り行く人の群れを横目に俺は美納葉に言う。
「あれもVtuberなのか?」
「あのテンションの高さはVtuberだね間違いない」
「せやろか」
「せや」
「沢山人いたし、企業勢かな?」
「かもね〜」
そしてその場でのはほんとそんなことを言い合ってると、忙しないことこの上ないが、突然に背後の扉から声がした。
それはかなり大きな声で、廊下全体に響き渡る程だった。
「ジャッギャアヤッダダダァアッッ!!!!!」
絶対啞我凪さんである。
間違いない。
「あれって?」
「多分私たちの集合場所」
俺と美納葉はアイコンタクトを交わす。
廊下を反響するその叫びを聞いて、俺は。
『もっと前から叫んでいてくれたら迷子になることもなかったのに』
そう内心呟いた。
◆◇◆◇◆
ドアノブを回して入った先は、見慣れた景色が広がっていた。
発狂する啞我凪さん。
エナドリを既に数十本以上開けている皆山さん。
二期生のバレンタイン=シルフィ先輩に言い寄られてオロオロとしている影縫くん。
頭の上から薔薇の花が降り注いでいる山田 太郎先輩。
それらを見て、止めることもなく爆笑するかぐやま旭先輩。
俺はドアをそっと閉じた。
見慣れている光景ではあるが、流石に限度ってものがある。
俺は深呼吸を一つして、意を決した。
そしてドアノブに再度手をかけようとした時。
「こんにちは〜本能寺でs「来たよ〜!」
バコン!
扉が蹴破られた。
扉の蝶番が綺麗に外れて扉だけが落下する。
勿論、犯人は美納葉だ。
俺は隣を凝視する。
「•••••••••••••••••は?」
ライブまであと少し。
扉の修理というタスクが確定した瞬間だった。
最後まで読んでいただき、感謝です!




