誰か突っ込めこの状況に
3Dお披露目配信が終わった後、俺達二人———、というより美納葉はこの姿に慣れるべく特訓を開始した。
というのもこの配信の後、俺達が3Dを使った際にとある問題が発生したからだ。
それは———、
「すっご〜!見てみて千隼!今度は何もしてないのに腕がもげた!」
美納葉の声に反応して、俺がパソコンの画面を見ると、美納葉の3Dの身体の右腕が胴体と分離し、空中で固定されている。
••••どうにも、美納葉の身体能力に機材がついていけなかったらしく、3Dのどこかしらが変な挙動を起こすようだ。
一応言っておくが、これはさっきのお披露目配信の時みたいに故意に起こしたバグものでない。単純に日常のふとした時の動作に人外の動きが織り交ぜされているせいで起こった事故だ。••••つまり無意識である。
バグを起こした腕をブンブンと振り回して遊ぶ美納葉に近づく。
「あ〜もっと人間らしい動きしろって言っただろ!?」
「え〜!別にいいじゃん!どうせ普通にしててもバグるんだし!」
マネージャーでもあり、技術者でも皆山さんは付き添いでこの場に居るのだが、当の彼もこの光景を見て軽く引いた様子だ。
「人間らしい動きをしろとか、普通に生きてると聞けない台詞ですね••••」
「••••うん。それは俺も思う」
「全く••••御二方といい、山田 太郎さんといい、Vtuberの方々って人間辞めないと気が済まないんですか?」
「あんたも大概だと思う」
「!?••••自分は人間です!!?」
空き缶で壁ができるほどエナドリ中毒なのは人間じゃないと思ったが、その台詞は飲み込んだ。
因みにこの事務所の都市伝説に『一人だけエナドリでできたデスクで働いている』というものがある。まぁ四面エナドリ張りのこの光景を見る限り、多分事実だろう。
因みにこの間、美納葉はどこぞの立体機動する装置をつけたみたいな挙動で宙を舞っていた。
◆◇◆◇◆
少し経ち、俺は美納葉を縛り上げ、床に転がした状態で説教をする。
「さて、話を戻すが••••美納葉。3Dは今後の為にもちゃんと使えなくちゃならないぞ?」
「何でさ〜?バグも案外楽しいものだぜ?相棒?」
「あっ、その状態で会話するんですね」
今の美納葉は、建築用ワイヤーで蓑虫みたいに簀巻きにされた状態だ。コイツが立体機動を繰り返し、さらなるバグが生まれないようにする為の緊急措置である。
まぁ、コイツの身体能力ならたかが建築用の鋼鉄ワイヤー如き余裕ではあるのだが、引きちぎる際にタイムラグが生まれる分、無いよりはマシだろう。
俺は美納葉の問いに返答をする。
••••うまく丸め込めるといいけれど。
「冷静に考えろよ?まずうちの先輩は基本的に全員3D衣装を持ってる。これは分かるな?」
「うん」
「ということは、だ。おそらくいずれライバーズ全員でコラボすることがあるだろう?そんな時にお前だけがバグり散らかした状態だと、沢山の人、主にスタッフさんに迷惑がかかるわけだ」
そこまで言うと、美納葉は「うーん」と少し考え込む。
「成程••••イベントも通常どうり進行しないと視聴者も飽きちゃうかもね。••••あ!でもそのバグを一芸にできたら結構面白くない?」
「だったら尚更バグを制御する必要があるだろ」
「あー••••確かに?••••でもさ、私自身、どこをどんな風に動かしたらバグるか分からないんだよ?難度高すぎやしない?」
無意識の内に人外挙動とか、どこの魔王ですか?
話が途切れそうだから言わないが、内心で全力でそうツッコミを入れた。
それにしても、この幼馴染はやる気を出せば大体のことができるはずなのに、何で今はこうも後ろ向きなのか••••。
もしかして、自分が他人と違うことに落ち込んでいたりしているのだろうか?
そう思っていると———、バチン!
美納葉を縛っていたワイヤーが弾け飛ぶ。
呆気に取られるその間に、美納葉は天井へ飛ぶと天井に設置してある業務用のエアコンに足を引っ掛け、さながら蝙蝠のようにぶら下がる。
「あー!私、身体能力の制御には自信あったのに!正直ヘコむ!」
「「あ、そっち!?」」
俺と皆山さんは『逆にあの暴れっぷりで制御してたの!?』と信じられないものを見る目で美納葉を凝視した。
美納葉は頭をかきむしりながら、尚も続ける。
「幼稚園の頃あんなに頑張ったのになぁ!••••うーん!悔しい〜!」
「••••」
その台詞に俺は無言にならざる終えなくなる。
ややあって、俺が辛うじて絞り出せた台詞は、
「••••うん。まぁ、超能力を制御出来るようになったキャラクターってかっこいいよね••••」
そんなやや的外れなものだけであった。
◆◇◆◇◆
それから、月日は流れ••••といっても言うほど長くはない。精々一日二日だ。
あれ以降、美納葉と俺は3Dの動かし方について特訓を繰り返していた。
そして今日、俺達はとある場所へ来ている。
東京だ。
俺達が普段暮らしている場所は関西圏。ライバーズの事務所があるのも関西圏。最近関わった企業のシング&ライドも同じだ。だから基本的に関東に向かうことなんて殆どない。
じゃあ何故俺達はこんな場所に来ているのか。
それは•••••••••••
「VOMK!だぁ〜!」
そう。今日がVOMKの当日だからだ。
「しっかし、会場おおきいね〜!」
「前は大引退の影響であんまり盛り上がらなかったけど、今回はそれがちょっとマシになったから、結構な人数が参加してるんだろうな」
VOMKの会場は予想していた以上に広くて圧巻だった。
去年のVOMKは秋に開催されたこともあって、大引退とドンピシャに重なり、全然人が集まらなかったそうだ。Vtuberの数がどんどん減っていく状況だったらしいから、それはそうだろう。そんな中でもイベントを開催したのだから運営は肝が据わっている。
俺は美納葉と顔を合わせた後、VOMK会場を見上げた。
「よし!行くぞ!アイボ!」
「おい待てそれは犬型ロボットだろうが。ちゃんと最後の一文字を言え。一文字を」
ちょっと締まらない形ではあるが、俺達の夏の成果の結晶を発表する為、俺達は会場の門をくぐった。
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