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幼馴染Vtuber、暴走するってよ  作者: 日陰浴
シンライ復活編

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土砂降りは青空に

 目の前に座る三人の女性。

 そのうちの二人の顔を見た時、自業自得だと、そう思った。

 そしてそれと共に、確かな安堵を覚えた。

『やっと裁いてもらうことができる』と。

 けれどその安堵を嫌がっている、自己中な自分もいた。


        ◆◇◆◇◆


『事情を教えてください』とライバーのうちの一人が俺に言った。群雀蘭という活動名の女性だった。

 やめてほしい。心底そう思った。

 俺には貴方達に事情を話す権利なんてないのだからと、そう思った。

 そもそも俺は、断罪しか受けるつもりはなかった。

 けれど、どうにも違うらしい。

 彼女らはそんなつもりは毛頭なく、ただただ話し合いがしたいとのことだった。


 ••••嫌だ。

 そんなものはいらない。

 俺が悪者で、貴女達は正義の味方。それでいいじゃないか。

 俺は消えたいんだ。

 「逃げる」じゃない「消えたい」んだ。正真正銘、この世から。

 けど消えたら、崩壊した会社がさらに壊れる。そう思ったから消えなかった。

 けれど今ならどうだ。

 今目の前にいる彼女達がなんとかしてくれる。

 会社をなんとかしてくれる。

 きっと、今より良い方向に。

 俺は必要ない。

 なら俺は消えていいじゃないか。

 消えることができるじゃないか。


 だから。


 俺に対話を求めないでくれ。

 これ以上、この()に居させないでくれ。


 俺を許そうなんてしないでくれ。


 そう言おうと思って、顔を上げれば、二人のライバーの顔が見えた。

 その顔にはやはり恐怖が見て取れたが、それ以上の覚悟を感じた。

 俺は、言葉を飲み込んだ。

 恐怖を覚えてまで、俺と対話しようとしてくれているのか。

 そんな相手に俺の言葉はあんまりじゃないか。そんな風に思ったから。

 そんな不義理はしたくないから。

 だから俺は一度だけ、対話しようと思ったんだ。

 最後に罵倒ぐらいしておいた方が、彼女達にとってもスッキリするだろうと思って。

 


「実は——————————————」


 それに。

 俺が悪いことは、

 俺がこれから消えることは、

 きっと変わらないのだから。


        ◆◇◆◇◆


 話し終えた俺に放たれた言葉は、予想だにしないもので、また、許容するにはあまりにも厳しいものだった。


『••••誰が悪いとか、そんな話ではなかったんですね』


 群雀蘭がそう言った時、俺はひどく驚くとともに腹が立った。

 違う、と。

 そうではない、と。

 俺のせいなのだから。

 俺が無知なせいなのだからと。


 その想いを吐露すると、『些事』と言われる。

 些事だって?冗談じゃない。

 俺はあんなにも君たちライバーを傷つけたではないか。

 Vtuberについて調べた時、ライブ配信について調べた時、自分の事務所のライバーについて知った。

 俺が決めてしまった方針は、彼ら彼女らの得意分野に全くと言っていいほど無価値だった。

 シング&ライドのライバー達全ての配信を見てそう思ったんだ。間違いない。

 それなのに、彼女らはそれを些事だと吐き捨てた。


「違う••••••••」


 気付かぬうちに、そんな言葉が(こぼ)れた。

 俺は辞めたいんだ。この世を。

 俺じゃあの(親父の)場所には無理なんだ。

 俺の罪は全部背負って消えるから、だから立ってくれよ。

 俺の代わりになってくれなんて言わない。

 ただ親父の代わりにシング()&ライド()を引っ張ってくれよ。

 ただそれだけでいいんだ。

 だってラリアーと群雀蘭、君達はこの崩壊した現状を変えようと行動しただろ?

 俺よりぴったりだよ。


「社長はもう無知じゃないんですから、それは罪じゃないんです!」


 ラリアーが口を開いた。


「私は、『無知が罪』なんじゃなくて、『無知であり続けて、見て見ぬふりすること』が罪だと思うんです」

「見て見ぬふりをすること•••••」


 ラリアーの言ったことは要するに、『俺は罪人じゃない』ということだった。

 やめてくれ。

 その言葉は俺にとって気休めにもならない。

 屋上から飛び降りる直前の人間に「死ぬな!まだ未来があるだろ!」と漠然と引き留めるのとなんら変わらない。

 決意を固めた人間にとって、その言葉はかえって苦痛だ。

 何十人、いや、社員を含めると何百人かも知れない。それらの人生を狂わせた俺は消えるしかないんだ。

 いたら禍根が残る。


「けれど、今貴方は私達に向き合っている。だから大丈夫です。ここから変えられます」


 変える、ね。

 君達二人は、今更俺にここに居ろっていうんだろ。

 心のベクトルの方向が違うんだ。

 君達は前を向いてる。

 俺は後ろだ。

 過去だ。

 過去に後ろ髪引かれるどころか、全身どっぷりと浸かっているんだ。

 過去に所在すら無い、君達とは違うんだ。

 崩壊して尚、前を向いている君達とは違うんだ。

 だから。


「••••けれど俺は人を縛った。不自由にした••••それは事実で••••だから••••」


 自嘲混じりに願いを伝えようと、口を開いた。


『親父の場所に立ってくれ』と言うために。


 ドラクロワの自由の女神の絵みたいに、導いてくれと伝えるために。


 ••••息を吸い込んだ、その時だった。


「私は昔、ダンスの講師にセクハラをされました」


 唐突に群雀蘭がそう言った。


「••••え」


 全く何が言いたいのか分からなかった。

 文脈もかけらもないのだから。

 しかし彼女は朗々と、言葉を紡いでいく。

 その言葉には何故か怒気を感じた。


 彼女の独白は、自身の過去だった。

 過去に囚われてなお前に進もうとする者の言葉だった。

 彼女は、俺と同じ過去に居る人物だったのか。驚いたが、やはり前を向いている以上、俺は似ても似つかない。


 そう思っていると、彼女は一通り話し終えたのか、口を閉じる。


 かと思ったらまた開いた。


「つまりなにが言いたいかというと••••••」


「過去に不自由になってないで、さっさと前を向いて私達の今の不自由をなんとかしてくれませんかね?ラリアーが言うには社長は今、無知じゃないんですよね?」


「••••••••••っ!」


 『過去に不自由』。

 その言葉が妙に響いた。

 不自由。

 そうなのか?俺が。

 俺のせいだろ。

 俺がやらかして、俺が皆を抑え込んで、不自由にして••••あれ。

 俺の中にある、『抑え込んではならない』って、誰の言葉だっけ。


「さっさと前向いて、変革!もがけば不自由も自由に変わるんですから!」


 ••••そうだ。

 親父の言葉だ。

 俺じゃない。

 囚われたのか?俺は、過去に。

 そういえば、あの時、親父は『俺"とか"に頼れ。引っ叩いて正気に治してやる!』って言ってたっけ。


 ••••ああ、今分かった。

 俺は親父に頼りすぎてたのか。

 勝手に親父を俺の柱にしてしまった。

 知らず知らずのうちにまた流されて、親父の考えだけを信奉するただのハリボテになっていたのか。

 ごめんな、親父。勝手に重荷を背負わせて。


 視界が曇る。

 抑えていた何かが(あふ)れそうだ。

 

 ぽたり。

 

 涙が机に(こぼ)れ落ちた

 俺はそれを拭うこともせずに、前を向く。

 ぐちゃぐちゃの声で、ぐちゃぐちゃの顔で、言葉を絞り出した。


「••••••••分かった」


 なぁ親父。

 俺、ちょっと遅いけどさ、自分の考えで動くよ。

 さっき、ついさっき。俺がこの場で初めて、ライバーの二人を見た時に、安堵をしたんだ、「やっと消えれる」ってさ。

 けどその安堵、なんか嫌だ、って思ったのを思い出したよ。

 だからさ、親父とは違うやり方で、シング()&ライド()をやり直していいかな。


 会議は終わった。

 この部屋から出ようと、椅子から立ち上がる。

 その時、部屋の窓にちらりと視線が向いた。

 窓の外は、青かった。

 曇天は見る影もなく消えていて、なんなら虹もかかっいて、その虹はそれぞれが個性を主張していた。

 ••••うん。


 いい天気だ。


        ◆◇◆◇◆


 時間は少し遡る。


        ◆◇◆◇◆


「「さぁ朝焼けだ。トワイライトプロダクション」」


 土砂降りの中、そう言ったのは俺達の先輩であり、トワイライトプロダクション・ライバーズの一期生の二人であった。

 二人はそれぞれ傘を差し、雨の中から俺達二人を真っ直ぐ見つめている。


 かぐやま旭。肩まで伸ばした髪をゆらりと踊らせながら、不敵に笑い、こちらに近づいてくる女性。

 山田 太郎。少女漫画から飛び出てきたような金髪の美丈夫で、柔らかな笑みを浮かべる彼の傘は、雨粒ではなく薔薇の花びらがへばりついていた。


「••••なんの用事ですか?先輩」

「そりゃ、動画の収録だね。私達は一応ここの看板だし、色々用事があるわけよ」

「一期生だしね用事が••••ってもう旭ちゃんが言ったね」

 俺が二人に向けて問いかけると、二人してあっけらかんといった様子で返答する。


 俺は彼らに会社の玄関を指差す。

「じゃあ、早くそちらへいったほうがいいですよ。俺達みたいなのに構っていないで」

 そう聞くと、二人は顔を合わせて同時に溜息をついた。

「「はぁ〜••••」」

 呆れた様子のかぐやま先輩は、やれやれと両腕をあげて、お手上げのポーズをした。

「あのねぇ••••こんな辛気臭い顔した後輩をほっとけるわけないでしょ。べつにグリコって案件でもなさそうだし、ちょいと話聞かせてみ?」

 山田先輩はうんうんと頷きそれに同意を示す。

「ほんとにそうだよ。なんか、随分的外れな事言ってたし、流石に見過ごせないかなぁ••••。あと旭。『グリコ(お手上げ)』は多分今時使わないよ?」

「あーもう!揚げ足取らない!••••さ、聞かせてよ?」

 そこまで言うと、かぐやま先輩は山田先輩から視線を俺達に移動させて、笑った。


        ◆◇◆◇◆


 感情移入。辞書で引くと『他人の言葉や表情をもとに、その感情や態度を追体験すること』とある。

 つまり、感情移入をするには相手の立場に立つこと、相手の感情を全て理解することが必要不可欠なのだ。

 そして相手の全ての感情に自身の感情を混ぜてはならない。それをしてしまうと、その感情移入、つまり『共感』は『同情』へと成り下がってしまうからだ。

 『同情』と『共感』。似ているようで全く異なる。

 『共感』は相手と共に感じること。つまり全てにおいて相手と同じことを考えている。感情移入とおなじである。

 けれど『同情』は、自身の立場から相手を見ているのだ。

 今現在、俺たちには『同情』しかできていない。

 ラリアーさんの話を聞いて怒りを覚えた時。その怒りは自分の立場からのものだった。『同情』だ。感情移入じゃない。

 今回の作戦を決行した時。俺達は「偽物の義憤じゃなくて、完璧に相手のことを思う為に」行動した。これも自身の感情が入っている。感情移入じゃない。

 シング&ライドの社長の言葉を聞いた時。彼は後悔していた。苦悩や憂いに満ちた顔をしていて、到底悪人とは思えなかった。悪人というイメージは俺達の感情が作り上げた勝手なもので、それはやはり感情移入じゃない。


 つまり。


 俺達は感情移入ができておらず、人の心が未だ分からない獣ということだ。


        ◆◇◆◇◆


「••••だから俺達は駄目なんです」

「特訓して、やっと分かったと思っていたけど、やっぱりできなかったんだ」

 俺達は二人にそう言った。

 しかし、二人は全く違う声をあげる。

「うーん。私には、君達二人が感情移入ができないとは思わないよ」

 かぐやま先輩は軽く腕組みをしながら山田先輩と意見交換をする。

「僕も概ね同意。僕らが話しかける前に叫んでた、違和感マシマシな感じの言葉が大分気になったけどね」

「違和感マシマシって『相手のことを完璧に理解する。それが感情移入』ってあれ?」

「そうそう」

「大分固いよね。完璧主義者ってやつかな。もっと気楽でいいと思うんだけど」


 俺は二人の会話が理解できず、楯突くように言った。

「••••そんなわけない!人の心なんです。気楽じゃならないんです!」

 そうだ。完璧じゃなければならない。

 俺はそう思う。


「「••••はははっ!」」

 けれど二人の先輩は軽く声をあげて笑った。


「なんで笑って••••!」

「いやぁ、ごめんごめん。けど分かったよ。だから次に私の意見を言わせてもらおうかな?」

 先輩は息を吸うと、


「適当でいいんだよ。人の心との付き合い方なんてさ」


 とんでもない一言を俺達に投げかけた。


        ◆◇◆◇◆


 適当でいい。


 その言葉に俺は混乱する。

 おかしい。

 だってそうだろ。

 人の心は大切なものだ。

 蔑ろにしちゃいけないものだ。

 関わるには一点の間違いもなく、完璧じゃなきゃならない。

 

 先輩はなおも続ける。


「『分からない』って顔だね。けどさ本当に適当でいいんだよ」

「だってさ、疲れるじゃん。完璧を求めすぎたら」


「疲れる••••?」


「そう。相手のことしか考えず、ただひたすらにそのことに気を使いまくる。そんな会話楽しくないでしょ?」


「けど、それを皆していて••••」


「皆がしているの?じゃあさ、みんなが他人の気持ちを全部わかってるってことだよね。それがほんとなら全世界の人間の気持ちが、ぜんぶ同じになっちゃわない?」


「私が思うにね、コミュニケーションって『他人を大切にする』ってことだけで十分だと思うのよ。全て理解しなくていい」


「だって大切に思うってことは、相手の嫌がることは少なくともしないでしょ?それにプラスで『困った時に助ける』が入ってしまえばもう万々歳、お人よし認定されること間違いなしなレベルだよ」


 矢継ぎ早に告げられるその言葉に、俺達は一言も発せない。

 正しいと思ってしまったからだ。

 けれどそれじゃあ、俺たちが今まで思っていたことは、なんだったのだろうか。そんな風な感情が湧き出てくる。


「まぁつまり、相手のことを尊重さえしてれば、基本的におっけー。それぐらい気楽でいいってことだね」

 山田先輩が、そのかぐやま先輩の言葉を纏める。


「••••気楽でいい」

「••••そんなことで、」

 俺達は呟く。

 その姿を見た先輩二人は静かに頷いた。

 そして山田先輩が口を開く。

「二人が他人を大切にしていることはよくわかる。けれど、自分も大切にしなきゃね。完璧主義になって自身を責めちゃ元も子もない。僕は、だからこそ人は気楽な態度でコミュニケーションを取るんだと思うよ。二人の様子を見る感じ、もう分かってるでしょ?」


「••••はい」


 分かった。

 先輩方の言葉で分かってしまった。

 俺達は違っていて、完璧を求めすぎていただけだってこと。


 あーあ。また空回りしてしまった。


 けれど、妙に晴れやかな気分だ。


 美納葉の方を見る。

 美納葉も俺と同じで晴れやかな気分なのだろう、顔についている水滴をガシガシと拭って、笑った。


「あ、雨止んだ」

 かぐやま先輩がふとそう言って、傘を折り畳む。

 それに釣られて俺達が空を見上げると。

 さっきまで土砂降りだった空は見る影もなく晴れ渡り、青い空気がすうっと抜けていた。

最後まで読んでいただき、感謝です!

ちょいと補足を!

環太くんの流れは基本的こんな感じです。

環太の父が死亡。両親が二人ともいなくて頭が真っ白に。

まだ親が死んで混乱しているのに、親の会社継ぐことになる。仕事を辞める。

父のしていた会社の分野が分からず、さらに頭が真っ白になっているタイミングで流されるまま方針が決まる。

自分の決めた方針でたくさんの人が病む。

過度なストレス。

死にたいと考える。今死んだらさらに不幸を起こすので社長を続行。

ラリアー、群雀蘭が抵抗する。

『こいつらなら後を任せられる』と安堵し、死のうと覚悟を決める。

(深層心理では死にたくないと思う)

直談判で自身の本当の気持ちに気づく。


うーん。とても面倒臭い。

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