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幼馴染Vtuber、暴走するってよ  作者: 日陰浴
シンライ復活編

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82/159

談判直前

 ()()うの体で逃げ込んだ、俺達の事務所トワイライト。

 無事シング&ライドの社長はトイレに放り込まれ、現在は洋式便器でぐっすりである。最悪の事態は避けられたと言えるだろう。

 それを見届けたラリアーさんはレンタカーの安寧に胸を撫で下ろし、俺と美納葉と夕の三人衆は流れるようにマネージャー(皆山さんと啞我凪さん)に土下座を繰り出した。

「「「申し訳ございませんでした!!!!」」」

 二人の視線がビシビシと背中に刺さる。痛え。

「••••••••••••拉••••致••••!?••••ラチ、ラチ、」

 チラリと様子を伺う為に首をもたげると、いつもの腹痛だろうか、皆山さんが腹を思い切り押さえながら何やらぶつぶつと呟いている。

 その呟きの全容は全くと言っていいほどこちらには伝わらないが、マイナスな内容なのは少なくとも分かる。

 申し訳なさが身体に溢れかえる。

 すると、啞我凪さんが呆れた表情で口火を切った。

「••••••••全く、何をしでかしてるんですか••••」

「喋った!?」

 まさかこの人が人語を喋っている場を見ようとは。••••ってそうじゃない。

 このまま弁明をしないままだと、ケータイの110番をプッシュされて、速攻でお巡りさんのところへゴートゥーである。いや、別に弁明をした所で犯罪なのは変わらんのだが。

「流石に拉致はウチの事務所でも庇いきれませんよ?」

「いや、これには事情が••••」

 しどろもどろ。

 今の俺を表すのにぴったりな単語である。

「そ、そうなの!そう!理由があるの!」

 夕も同じようで、冷や汗を流しながら右手左手をわちゃわちゃと、せわしなく動かしている。

 対する啞我凪さんは腕を組んだ状態で、未だ地に伏せる俺達を見ている。

 実際はそうでもないのに、その視線が絶対零度に見えるのは、俺の気分が私を待つ罪人と同義だからだろう。

「••••事情ですか?まぁ一応聞いてみますけど、流石に拉致ですし、言い逃れは厳しいですよ?」

 そうして彼女は次の言を促した。

 まさに蜘蛛の糸、最後の希望だとばかりに、俺達はそれにしがみついた。

 一人ずつ、一人ずつ、今回の件について語っていくのだった。

        ◆◇◆◇◆

 そして、言い終わった。

 全員、焦っていたのか、必死だったのかは分からないが、一人一人が言葉少なに互いにをフォローし合うという奇妙な形で説明は完了した。

 今は、ただ固唾を飲んで皆山さんと啞我凪さんのアクションを待つのみである。

 少しの静寂が場を占有した後、その口を開いたのは。

「••••ァ」

「「「••••『あ』?」」」


「ァヴアギヌリュッチ゛ョンウジャヌススキャアベッヌヌアシュルハベアアアアア‼︎‼︎」


 人の皮を纏った化物であった。

 とどのつまり、そうだ、今の会話が啞我凪さんの琴線のどこか先っぽに触れてしまったのである。

 その姿、まさに四足獣。

 手足を振り回し、言語かも知らぬ何かを叫び散らし、動き回る。

 その様に、俺と夕と『やっちまった』と後悔の念に追われ、対照的に美納葉は『やったぜ』といった様子、ラリアーさんは『ヒイッ!?』と小さく悲鳴をこぼして尻餅、皆山さんはストレスで、どこから出したかよく分からないエナドリのロング缶を3本程空けた。

 美納葉が俺達の方を振り向き、嬉々とした表情で言った。

「『そんな事情があったならさっさと言ってくださいよ!誠心誠意協力させていただきます!嗚呼!Vtuberを救う手助けが私にできるなんて!』だって!よかったね!」

 その台詞に、ラリアーさんはドン引きした表情で反応を示す。

「••••何で何言ってることが分かるの!?」

「うーん••••ニュアンス?」

「ニュアンス!?」

 美納葉が少し考えをする素振りの後に、さらりと回答。ラリアーさんはますます異次元の存在を見るような視線を美納葉に向けた。因みに美納葉、『ニュアンス』という曖昧な表現をしているが、その実、ガッツリと奇声の意味を理解しており、何なら話せている。ラリアーさんの視線は正しい。

 彼女は俺の方に助けを求めるようにこちらを向くが、俺にもどうしようもない。

 ••••••••最近ちょっとずつ彼女の言葉が分かるようになってきたのは内緒にしておこう。

        ◆◇◆◇◆

 そして、俺達は美納葉を通して、啞我凪さんと会話をする。なんともひたすらに奇妙な光景である。

「ドゥスズレェレバエィナガジ?(協力するとは言ったものの、何をすればいいですか?)」

「そうですね、睡眠薬の時間もギリギリですし、できたらこの事務所に話し合いをする為の部屋を一室を借りれたらなぁ、と」

「マァズズゼ(任せてください)」

 啞我凪さんはサムズアップのつもりか、一瞬両手を持ち上げ飛び上がる。四足歩行だから明らかに不審な動きだ。恐ろしや。

 すると、さっきまで後ろでエナドリをぐびぐびと飲んでいた皆山さんが声を挟む。

「ちょっと待ってください!流石にそれは上が許しては••••!?」

「ニャバラァステルドブッドガェナャズ(止めたら潰す)」

 啞我凪さんは、もっともなことを言って静止する彼を威嚇する。今まさに皆山さんの喉笛に噛み付かんとする勢いだ。

「酷い!?俺一応あなたより先輩なのに!?」

 皆山さんは目を剥いた。不憫である。

 そして彼は啞我凪さんの威嚇を見て『あっ、もうこれ無理だ』といった表情をすると、最早ヤケクソと言わんばかりにエナドリを新たに数本取り出して一気に飲み干す。

「ああもう!分かりましたよ!分かりましたから!さっさとしましょうよ!」

 叫んだ彼の瞳は瞳はガンギマリであった。

 ••••俺と夕は、ラリアーさんが「何この事務所••••」と呟いたのを甘んじて、そして粛々と受け入れるしかなかった。

        ◆◇◆◇◆

 暴走状態の啞我凪さんと、エナドリ中毒によりヘヴン状態の皆山さん。まともな判断の出来ない二人によって、直談判のための場所はセッティングされた。

 そこは、俺達が夕の炎上騒ぎの後に招集された部屋、つまり俺達がトワイライトに所属する羽目になったいつぞやの場所であった。

 『会議室』。そう書かれた部屋の扉には『使用中』のプレートが貼り付けられていて、中には大人数を収容するために、無機質な白いテーブルと、白い折り畳み椅子が配置されている。いずれも合成樹脂製で作られているのが、いかにも効率重視といった様相を醸し出している。

 俺、美納葉、夕、ラリアーさん、そしてシング&ライド社長は、前者の四人と後者の一人という形でそこに対面で座っていた。

 シング&ライド社長••••いや、一 環太(にのまえ かんた)は最初こそ混乱に陥っていたが、ある程度の時間が経ち俺達から説明を受けるのと、状況をなんとか理解できたのか、表向きは落ち着いた様子をみせている。

 『表向き』と表現したのは、彼の表情が明らかに不穏だからである。青白く、暗い。今にも土気色になりそうなぐらいに。それは何か危うく、恐ろしい策を立てているのか、何なのかは俺達には分からない。

 分かるのはさっき述べたように『不穏』。ただそれだけだ。

 どちらにしろ、窮鼠猫を噛むという言葉がある通り、何を相手がしでかすか分からない状態だ。気は抜かないでおこう。


 対面に座っているが、まだ何も始まっていない。

 話し合いが始まるまでには、まだしばしの余裕があるからだ。

 というのも、今回の重要人物たるラリアーさんが「少し待ってて貰えますか?呼びたい人がいて••••」と言ったからである。

 こちらとしては早く進めて終わらせたい所ではあるが、彼女がそう言うなら仕方がない。

 詰まる所、ラリアーさんの招き人が扉を開いたら、事が始まる。それが合図となる。


 数十分が過ぎた。

 場は未だ無言。ましてや向かい合う相手と視線すら合わせてはいない。

 そんな緊迫した中、俺と美納葉の額に一筋の汗が流れた。

 緊張とかではない。

 ただ感情を本物にする機会がすぐそばにあって、焦っているのだ。

 変わりたいと願っているのだ。

 今みたいに、こんな時でも己のことを考える、そんな自分から脱却するきっかけになると、なって欲しいと。

 そんな、成長したという確かなる確証を、求めている。


 そしてその時は着々と迫っていた。

 ちゃっ、ちゃっ、ちゃっ、と壁掛けの秒針がそれを急かす。


 そして——————————————



 キィ。



 パタリ。


 扉がその時を告げた。

最後まで読んでいただき、感謝です!

次回は、とうとう始まる直談判回です。そしてシング&ライドのこれからにとって大きな一歩となる予定です。

どうぞよしなに。

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