表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染Vtuber、暴走するってよ  作者: 日陰浴
シンライ復活編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/159

拉致成功!けど?

 用務員さん二人組をトイレの個室に押し込んだ後、俺達は廊下をさらに進み、そして階段を駆け上がっていた。因みにこの過程の話だが、用務員さんの片方は洋式の便器の数が足らなかった為、和式である。可哀想に。

「千隼!あと何階?」

「んなもんかぞえてねぇよ!そもそもこのビルの最上階に社長室があるんだから、階段が無くなるまで走れば済むだろうが!」

「ごもっとも!」

 何で階段なんだ?と思う方もいるだろうが、エレベーター、エスカレーターはリスクが高過ぎるからである。あんまり動きたくない現代人は基本的に階段なぞはあまり使わない。ましてや仕事で疲れている人々だ。少しでも休む暇が欲しいの現実だろう。

 さて、そうこうしているうちに、階段に切れ間が見えてきた。

 その先には、「どどん」と言ったふうに鎮座する社長室————————というのは無く、普通にオフィスの入り口が配置されていた。

 ずらりと陳列されているドア、「会議室2」「会議室3」「給湯室」など書かれたプレートが複数、そして一階の廊下を過ぎる時に見かけたドリンクバー。

 部屋の数は目測でも15はあるだろうか?

 最短で社長室を見つけても5分は掛かるだろうか?

 俺がそんな風に考えていると、美納葉はげっそりとした様に息を吐き出した。

「うへぇ••••意外とたくさん部屋がある••••」

「いやそりゃそうだろ••••曲がりなりにも会社なんだから。8階にあるってのを知ってるだけでも全然マシだ」

「まーそーだけどさ••••?普通ラスボスの部屋はもっと、こう、どでん!ばぁん!みたいな感じじゃない?」

「言いたいことは分からんでもないが、お前は社長の事を何だと思ってんだ」

 俺は美納葉に問いかける。

 すると奴は淡々とした表情で、けれど妙に厭な空気を漂わせて言った。

「ラリアーさんたちのトラウマを再発させて、病ませた諸悪の根源」

「間違っちゃいないけど、なんかお前のニュアンスは違うように感じるだよなぁ••••」

「絶対第二形態に進化して『世界の半分を貴様にやろう』とか言ってくるタイプだよ!」

 俺の勘は大正解だったようだ。

 というか、さっきの厭な雰囲気はなんだよ。負けたか?そのゲームをプレイしてた時にでもこっぴどく負けたか?それはお前のレベル上げ不足だ。

「どこのドラゴンなクエストだ馬鹿」

「そんで最後にはワー○進化して、そこから別のやつと合体するんだよきっと!」

「デジ○ンじゃねーか!何でその二つが混同してんだよ!?」

「ん?ジョグレ○進化の方が良かった?それともオーバレイネッ○ワークを構築したほうがいい?」

「何でそうなる!?それに後者はそもそも作品自体が違うだろうが」

「楽しかったぜェ!お前との友情ごっこォォ〜!」

「真ゲス••••?嘘だよな••••?ってこんな事してる場合じゃないだろ美納葉!」

 てか何で俺たち、不法侵入した会社で呑気にアニメネタで盛り上がってるんだ••••?

 仮にも社長を拉致るつもりなんだろ••••?

「そうだった!んじゃ二手に分かれて社長室探そうか?千隼はあっちの通路で、私はこっちの通路!」

「いんや、分かれるんならそれよりも美納葉が通路の左側、俺が右側を確認する形で分かれて進んだ方がいい」

「同じ通路を二人で確認するの?ちょっと時間かかるくない?」

「毎度毎度立ち止まって首を振って確認する方が時間がかかる。それなら流れ作業で確認できるこっちの方が早い」

「成程ね。おっけ。んじゃ一足先に始めとくね」

 言うや否や、美納葉はクラウチングスタートの構えを取り、走り出す。

 すると、その姿が陽炎のように、その場からかき消えた。

 俺も走り出そうと構えていると、美納葉が数秒前に居た場所に現れる。

「終わった!」

 

 •••••••••••••••••••••••••はっや。

 

「••••あのう。もうお前だけでいいんじゃね?」

「うん。多分千隼よりも早いよ?右側もやろっか?」

「••••••••よろしくおなしゃす」

 刹那、美納葉が再び姿を消した。

「ただいま!」

 戻ってきた。

 そして美納葉はそのまま、俺に言った。

「見つけたよ!社長室!」

        ◆◇◆◇◆

 件の社長室は階の隅っこにひっそりと配置されていた。

「社長室の割に影薄すぎない!?」

「あー多分、この会社社員メインで考えられてるんじゃないかな?」

「うっそだぁ!?」

 美納葉の台詞に、俺は軽く驚く。

「いや、この階だけでも休憩室だったりトイレだったりが割と沢山あったよ。何なら託児室とかいう場所も」

「託児室!?」

「その名の通り、作業に集中する為に子供を預ける部屋だろうね。子連れ出勤ができるから、子育ての為に収入源の一つが途切れたり、減ったりすることを抑制できる」

••••何でそこまで社員に優しいのにライバーには優しくないんだ••••?」

「それが一番の不思議なんだよねぇ••••。ラリアーさんが言ってた『社長交代での方針転換』だけでここまで変わるかなって所なんだよ」

「まぁ••••確かに不自然だわな。けど、拉致ってお喋りしちまえば分かる話だ。行こうぜ美納葉」

「千隼••••台詞がただの悪人だよ••••」

 ••••え?マジで?

        ◆◇◆◇◆

 俺は掃除用具、美納葉は錠剤を持って社長室の扉を叩く。

「ん?はい、どうぞー」

 男性の声が廊下の側に聞こえる。

 俺達は扉を押し込み、中に入る。

「失礼しますー。掃除に参りましたー」

「ああ、ありがとうございます」

 中では男性が一人、パソコンに向かっていた。

 思っていた以上に若い。20代ぐらいではなかろうか。

 けれどその割には妙にやつれているようで、目の下に濃い隈が刻まれていた。人によっては彼を30代と評するかもしれない。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 俺は男性が向かっているデスクの上を見やる。

 そこは様々な書類で隠れてはいたが、しっかりと白い紙コップがあった。

 よし。美納葉と顔を合わせ、互いに頷く。

 ここからは手筈通り、コップに錠剤を美納葉が放り込み、男性が眠った後に拉致る。それだけだ。

 けれど、ここで問題が発生した。

「美納葉、書類で隠れてるけど紙コップに錠剤入れられるか?」

 俺が小声で話しかけると、美納葉は小さく首を横に振る。

「無理。あの位置なら相当近づかないと書類に当たる」

「まじか。掃除するフリで接近するにしても流石に限度があるもんな••••。どうする?」

「一か八かだけど、社長さんが紙コップを手に取って、飲み物を飲む瞬間に口の中に放り込む。千隼は合図して」

「了解。それじゃその時がきたら雑巾を落とすから。それまでは掃除しとくよ」

「任せたぜ相棒!」

 そして俺達はばらけて部屋の掃除に取り掛かる。


 その瞬間は案外早くに来た。

 社長が紙コップを握り、持ち上げる。その気配を感じ取ると、俺は床に雑巾を落として、美納葉に合図を送る。

 合図はちゃんと届いたようで、美納葉は即座に手の平の中に忍ばせていたと思しき二つの錠剤を指で弾いた。

 それは丁度飲料を嚥下(えんげ)する瞬間だった社長の口に見事に命中し、そのまま飲み込まれる。

 あとは社長が眠るまで掃除を続けるだけだ。


 そしてまた暫くして、社長が倒れ込むようにパソコンに突っ伏した。

 そのまま数分が過ぎる。


「••••寝た?」

「••••••••多分?」

 社長の様子を伺うと、寝息が聞こえてきた。

 顔を見合わせる。

 そして。

「「よっしゃあっ!!!!!」」

 二人して飛び上がった。


 美納葉は興奮した様子で俺に話しかけてくる。

「ねぇねぇねぇ!千隼見た!?私やったぜ!?」

「お見事!まさかあんなギリッギリを攻めるとはね」

「気分はもうインド人を右に!って感じだったよ!」

「うん!全くわからんがとりあえずは成功だ!後はここからラリアーさんの車まで行くだけ!」

「よっしじゃあ早速出よう!」

 美納葉が社長室の窓に手をかける。

「あー美納葉ちょっと待って。ちょっとこれ置いとがないとだから」

 俺は腰の鞄を探りながら、美納葉を引き止める。

「どしたの?」

 美納葉かきょとんとした表情でこちらを見る。

「ちょっとね」

 ややあって、俺は一枚の紙を取り出した。

「何これ?」

「読んでみ?」

「何々••••『少し外に出てきます。社長 一 環太』••••で何これ?」

 美納葉は俺が取り出した紙の文面を読むと、疑問を投げかけてきた。

「社長が急にいなくなったら流石に不自然だろ?だから、外に行ったってことにする」

「成程ねー••••筆跡が若干違うのもそれが理由?」

「おっ分かるんだ。そう。ラリアーさんから事前に社長直筆の文字が載ってる紙を貰えないかって頼んでおいた。筆跡覚えるのに苦労したよ。お陰で徹夜だもん」

「あー、だから寝てなかったのね」

 俺は欠伸を噛み殺すと、その紙を美納葉の手から取り上げて、机に置く。

「そそ。じゃ、これをデスクに置いてっと••••よしもういいぞ!行こう!」

 美納葉はその言葉を聞くと、窓を開けた。


「よし!じゃ、先に私が行くから千隼は後でついてきて!」

 そう言うや否や、美納葉は八回にある窓から外、地面へと全く躊躇なく飛び降りた。

 側から見れば自殺みたいになるだろうが、美納葉にとって、八階はそこまでの高さではないのだろう。

 その証拠に、地上で受け身を取った後、ゆったりと立ち上がって、こちらへ手を振っている。

「それじゃあ!降ろしていいよー!」

「りょーかーい!」

 俺は社長を抱え、窓枠に座り込む。

 勿論。このまま飛び降りる訳には行かない。

 俺一人ならまだしも、人一人抱えて無傷で降りるなんてことは流石に無謀過ぎる。

 ••••なので。

 俺は社長を抱えていた両手を離した。

 社長は物理法則に従って地面に向けて落下していく。

 さらば社長よ永遠に、なんてことはない。

 その為に美納葉がいる。

 奴は瞬時に落下する社長の真下に移動。それを受け止めた。

「よっし!次は俺だな!」

 俺は社長の安否を確認した後、窓に手をかけた。

 ゆっくりとそれを閉める。

 窓が開きっぱなしだったら怪しいしな。特に夏場はエアコンもつけるし。

 そしてそのまま俺は飛び降りる。

 ひゅうう、風を切る音を感じる。

 美納葉みたいに綺麗に着地するのは、俺にはできない。

 このままじゃミンチである。

 勿論そんなのごめんなので、俺は落下しながら、ビルの壁に手を当てて、速度を徐々に落とす。

 幸い、狭い路地裏なので、左右手が届く距離にビルがある。お陰で速度がいい感じに遅くなってきた。

 そして、着地。

 俺はそのまま美納葉に言う。

「急いで車まで向かうぞ!拘束はその後だ!」

 俺達は走り出した。

        ◆◇◆◇◆

 数分後、俺達はラリアーさんの車で揺られていた。

「いや〜これで盛大な悪戯ができたね!!」

 夕がいやにニヤニヤと笑っている。

 こんな時でもブレない奴だ••••全く。


 俺は運転をしているラリアーさんの方を向く。••••隣で美納葉と夕がにっこにこで社長をふんじばっているのはこの際無視しよう。

「それじゃ、どこに行きます?」

「何処••••って?」

「流石に車の中で直談判するわけにはいかないですよ」

「あっ••••たしかに。••••それじゃ近くの公園とかどうですかね?」

「いいですね。それじゃ、そっちに向かいましょう」

 車は方向を変えて進み出した。


「••••あっ!そうだ!美納葉!使った薬返してくれ。確か下剤の方は一つ余ってるはずだろ?」

 俺はふと思い出し、美納葉の方を向く。

 この薬を美納葉に持たせたままにしておいたら、いつそれが悪い方面に使われるか分かったもんじゃない。その保険だ。

 しかし、美納葉の反応は思っていたものと違っていて。

「薬?無いけど」

 奴はポケットから、薬も何も入っていない空っぽのビニル袋を取り出した。

「え!?じゃあどうしたんだ?落としたのか!?」

 もし落としたのだったら非常にまずい。向こうの会社に証拠が残ってしまう。

 美納葉はあっけらかんと言う。

「いんや?使ったけど」

「使った?誰に?」

 美納葉は芋虫みたいにロープでぐるぐる巻きになっている社長を指差した。

 俺の脳裏にさっきの記憶が浮かび上がる。

 そういえば、さっき美納葉が投げた錠剤の影は二つあったような••••。そして俺が美納葉に渡していたのは、睡眠薬一錠に、下剤一錠••••これすなわち••••。


 ぎゅるるるるるるるるるるるるるるる!!!!


 その時、車内で大きな音が響いた。

 その音の持ち主は勿論、社長である。

 俺の顔はみるみるうちに青ざめていく。

 それは俺だけでなかった。事を悟った者、つまりこの車内の美納葉を除いた全員がこの行末に恐怖した。


 俺はすぐさまラリアーさんに声をかける。

「ラリアーさん!?この近くでトイレが使えるところありませんか!?」

「!?」

「何処でもいいんです!コンビニとか!?無いですか!?」

「トイレの置いてあるコンビニはさっき通り過ぎました!ほかのコンビニはトイレの無いものばかりです!?」

 ラリアーさんが悲痛な声を上げる。

「どうしようどうしようどうしようどうしよう!?このままじゃこの車が地獄に!?考えろ俺!?」

「美納葉ァ!?拉致だけじゃなくて尊厳破壊までしでかすとかあんたに人の心はないのかァ!?」

「?」

「この車レンタカーなんですけどォ!?」

 正に阿鼻叫喚である。

 このままでは、社長は拉致中に脱糞とかいう徳川家康も真っ青な尊厳破壊を起こし、車にはその汚物が撒き散らされるという悲劇が起こってしまう。


 ぎゅるるるるるるるるるるるるるるる!!!!


 またカウントダウンが響いた。


「ラリアーさん公園はあとどれくらいの距離ですか!?最終、野でやってもらいます!」

「ま、まだ先です!?」


 希望は絶たれた。

 正に死を待つ罪人の姿で俺達は項垂れている。


 その時だった。


「そういえば!」

「どうした!?」


 夕が希望の光を一筋落とした。


「トワイライトの事務所がここから近かったはず!」

「ラリアーさん!案内します!今すぐそこへ!」

「わ、分かりました!!!!」

 ラリアーさんはアクセルを踏み込む。

 車が急加速する。地獄を回避する為に。

最後まで読んでいただき、感謝です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ