おしゃべりの独白 後編
こんにちは。日陰浴です。
先週は投稿できず、申し訳ございません。
今回の様に、受験など、様々な理由で投稿頻度が落ちることがありますので、「負担なく・比較的早く」書くことのできる小説を投稿致しました!
「幼馴染Vtuber、暴走するってよ」の登場人物の日常エピソードになります!
題名は「幼馴染Vtuber、暴走するってよ はいしんがい!」となります。
URLを載せておきますのでどうぞ!→https://ncode.syosetu.com/n3371jj/
長くなりました。それでは、本編です。
「皆さんにはこれから、アイドルをしていただきます」
その一言により、ざわめきの波紋が広がる。
修学旅行前みたいな浮ついたものではない。驚愕と不安のそれである。
その中で、一人の男性ライバーが手をあげ、口を開く。
「すいません。アイドルと言われても、どういうものなのか••••」
少々焦っているのか、早口気味だ。
彼の問いかけに対し、マネージャーは返答する。
「そうですね。えー、具体的に説明致しますと、Vtuberとしての活動は普段とあまり変化させなくても大丈夫です」
私達の中で、ぴんと張った糸が解けたような、そんなほっとした息が溢れた。
人先ずは、いつも通りでいいのだと。
その中、マネージャーは続ける。
「しかし、アイドルとして活動する以上、皆さんには最低限、ダンスや歌唱力をつけていただきたいと考えています。それに際して、皆さんにはこれからレッスンを週に三回以上は受けていただきます。場所は本社ではなく、スタジオを借りて行う予定です」
何か質問は?と辺りを見渡すマネージャー。
しんなりとした糸は、また急にしぼめられて、その反動はざわめきとなって空気を震わせる。
けれどまだ能天気すぎたのか、私達の口から放たれる波紋は湖畔を揺らし続けるばかりだ。
「レッスン?」「どうしよう俺踊れないんだけど」「私歌できない」••••そんな文言を垂れている。
マネージャーはこほんと咳払いして、再度場を静めた後、また口を開いた。
「少し静かに。今からそれぞれのマネージャーと、皆さんに合わせた方針を決めて貰いますから」
その後に話した内容は、覚えられなかった。いや。覚えたくなかった。
一旦、その場はお開きとなった。
◆◇◆◇◆
それから。私の、いや私達の日々は一変した。
◆◇◆◇◆
ケータイのヴァイブレーションで目を覚ます。
「あ••••今何時だろ••••」
自分が設定した時刻と決まっているはずなのに、置き時計を見やる。
9:46分。
普段ならもう起きていて、場合によっては配信をしている時間だ。
「昨日も結局、配信できなかったな••••」
ここ毎日、事務所の当てがったスタジオでレッスン、レッスン、レッスン。そして疲れて帰ってきては泥のようにベッドに沈むだけ。
元気の源だった視聴者の声も、碌に見ることができないまま、倒れ込んで、タオルケットに捕食される日々。
いや、それは詭弁か。実際は視聴者から逃げているだけなのだから。
仕事用のスマートフォンで、SNSを開く。
視聴者の言葉を探す。俗に言うエゴサーチだ。
「えーっと『最近ラリアーさん、配信してなくない?』••••」
仄白くなった指をスライドさせると、その様な言葉がちょくちょく流れてきた。
無理もない。毎日のように配信をしてた私が突然しなくなったのだ。
目を背けるようにスマートフォンを閉じる。
私は曇り空の頭の中を少しでも晴らしたくて、別の何かで埋め尽くしたくて、当てもなくカレンダーを見る。
「大学は••••あー••••そうだ。••••夏休みだった」
無意識のうちに縋ろうとしたのだろうか。ないはずのものを想像してしまい、ますます靄は増えるばかりだ。
「夕方までレッスンか••••」
マネージャーが言うにはレッスンは週に3回程を予定していたそうだが、私含む一部はダンスが全く出来なくて、ダンス組と銘打たれ、レッスン場へ毎日行く事となった。
それ自体はまだいいのだ。
駄目なのは、自分なのだ。
◆◇◆◇◆
スタジオにダンスの教育担当者さんが声を掛ける。
「ラリアーさん!重心がブレてる!群雀蘭さんはもっと可愛らしく!女性らしさを出して!」
担当者さんは男性で、そこそこがっしりとした体躯だ。因みに教え方が少し怖い。所謂スパルタというやつだ。
スタジオに到着した私は、レッスンを進めていた。
隣には複数名のメンツが、踊っている。私もそうだが、お世辞にも上手いとは言い難い。
そのどれもが体を動かす系統の配信ではなく、歌配信やゲーム配信といった室内で行う活動を主体としているメンバーが殆どだ。
私もその例に漏れず、室内組である。
「はい。一旦ここで休憩を入れます」
教員さんが、一言入れて退場。
私達は軟体動物も顔負けの勢いでへたり込んだ。
「はぁ〜〜〜〜」
「疲れたー!!」
「何で俺らがこんな事••••!」
皆口々に文句を垂れる。
私の場合は文句を垂れることのできるほどの余裕もなく、ひたすら肩で息をしていた。
「ぜっ••••はぁっ••••ぜぇ••••」
「大丈夫?死にかけてるけど」
そんな私に、ダンス組の中でも唯一余裕そうに立っていたマイが私に声を掛けてくる。
「そんなっ••••こと••••ないっ••••」
「嘘つき。踊れない癖にばたばた暴れて。••••無茶してるのバレバレ。何かあった?」
「••••そっちこそ、何か、あった?••••顔色、ずっと悪いけど。マイはダンス上手いし、普段だったらここにはいないでしょ?」
「••••あ••••うん••••」
マイは視線を逸らし、歯切れ悪く言う。
••••駄目だ。ここ最近、マイと上手く話せていない。いつものテンポの良さは錆びつき、続かない。会話なのだから機械みたいに潤滑油を刺すこともできない。
彼女に踏み込んで、話をする事が出来ればいいのだが、そんな事をして、傷付けてしまったらどうする。
さんざお喋りが好きだと言っておいて、肝心な時はこれだ。
仕方ないと思うのは間違いだろうか。人は全部を伝えない。全部を言葉に出してはくれない。なのに分かった気になれる程、私は強くない。そんな言い訳をしてしまうのは、自分がまだ不安を感じているからなのだろうか。
ああ、自己嫌悪で死にたくなる。
もたもたしている内に、マイは「トイレに行く」とこの場を去ってしまった。
私はやり場のない感情を逃すように、壁にもたれかかるのであった。
◆◇◆◇◆
少しの時が過ぎて、担当教員さんがスタジオに戻って来た。
彼は手をパンと打ち鳴らすと、壁にもたれかかって休む私達に声を掛ける。
「はい!練習を再開しますよ!並んでください!」
一同はのろのろと立ち上がり、担当教員さんの前に並んだ。
すると、彼は怪訝そうな顔をする。
何度か首を回し、彼は言った。
「あれ?群雀蘭さんは?」
その声に私達もマイを探し始める。
そう言えば、マイがトイレに行ってからその姿を見かけていない。
私は手を挙げる。
「マイは確かトイレに行ったのかと。ちょっと私見てきますね」
「よろしくお願いします。自分じゃセクハラになってしまいますから••••」
心底申し訳なさそうな顔をする担当教員さん。指導は厳しいけれど、あんまり根は悪い人ではないのかもしれない。
私はレッスン場を後にした。
◆◇◆◇◆
廊下。
節電のためか電気はなく、窓から差し込む光のみが灯りだ。
昼間でも少し薄暗くなっているそこを歩き、私はトイレの前に辿り着く。
手洗い場に入ると、一つだけ鍵の閉まった扉が見えた。
私は「マイー」と声を掛けようとして•••••••
びちゃ、びちゃ、びちゃり。
不自然な水音に出かかった声が止まった。
何かどろりした何かが水面を叩く音。
それに気付くのにあまり時間は掛からなかった。
私が最近聞いたばかりの音だからだ。
「———ぇっ———ぉぇっっ—————」
簡素なドアの向こうから、小さな嗚咽が聞こえる。
ごぼ、びちゃり、ぼちゃ、ぐちゃ。
そして吐瀉物であろう物の響きも。
頭の中で記憶がぐるぐる回る。あの時のだ。マネージャーの言葉だ。
あの後、私もトイレに向かったんだ。
信じられなくて、考えたくなくて、覚えたくなくて覚えたくなくて、駆け込んだんだ。
カタつく足、逆流する胃液、迎え入れるかのようにこちらを覗く便器、詰まったような酸味、喉のひりつき、嫌な音。
マイも同じなんだ。
「——————ぃッ••••」
言えよ。お喋りが好きなんだろ。
動けよ。友達なんだろ。
叩けよ。扉は目の前だぞ。
けれど、
回るはずの唇には歯が食い込み、
動くはずの足は固まり、
ドアを叩けるはずの手には爪が突き刺さる。
べちょ、ぼと、ぐちゃ、ぴちゃ、ぼちゃん。
•••••••••••••••••かつ、かつ、かつ。
結局。
私は、廊下に出た。
彼女が青白い顔で戻るまで、そこにとどまることしかできなかったのだ。
◆◇◆◇◆
ただ茫然とそれからは過ごした。
習った内容も、何もかもが霧がかかったようだ。
霧もそのままに、私は家に辿り着く。
居住まいを正すことも、何もすることなく、幽鬼のようにゆらゆらと、パソコンの前に躍り出た。
今更、何に縋っているのか、それすら分からぬまま配信を始めた。
◆◇◆◇◆
<配信が始まりました>
「お花畑にいらっしゃい!今日も蜜が欲しいなら、対価が必要、そうだよね?お話聞かせてくださいな!ラリアーさんですよ〜!」
いつもの文言。いつものテンポ。いつもの声音。できているだろうか。
『ゲリラなんて珍し!?』
『久しぶりの配信だー!!!!』
『嬉しい!』
『今仕事だから挨拶だけして帰るぜ』
うん。多分出来てる。
••••ここから。
「いや〜最近忙しくてね!私も大好きな皆と話したくて仕方がなかったんだよね!」
『大好きとはまた大仰なw』
『忙しいってことはVOMK?』
『↑流石にないやろ』
『やっぱり話題は最近の出来事かい?』
なるべく、違和感なく混ぜる。
『VOMK••••うーん今は何とも言えないかなぁ?そうだね〜!視聴者さんは最近何したの?』
ハリボテならいっぱい見てきた。
自分がするだけじゃないか。
『*********』
『****************』
『****』
『********』
••••••••あれ?
「へぇ〜!それは楽しそう!私も連れてって欲しいな!」
『*********************』
『**』
『******』
『************』
••••••••どうして?
「確かに!私は動けないね〜。プランターを作ってもらったら移動できるかもね!じゃあ抱っこして貰おうかな?」
••••何も見えないの?
••••何も聞こえないの?
••••あたたかくないの?
『今日のラリアー、なんか、前と違うような?』
————————————————っ!!!!
「ごめん皆!ちょっとミュートするね!」
◆◇◆◇
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
息が荒れる。動悸がする。胸が萎む。
くるしい。
だめだ。
これは駄目だ。
こういう時に限って、記憶は仕事をする。
覚えたくない記憶は、溢れ出てくる。
▲▽▲▽▲▽▲
「ラリアーさんにはこれから、ガチ恋、つまりあなたの事を視聴者に好きになってもらいます」
「••••それって」
「勿論、恋愛的な意味合いです」
▲▽▲▽▲▽▲
「ねぇねぇ○○さん!」
「ん?どうしたの?」
「○○さんが自己紹介で言ってた××について、話したいな!」
「え!気になるの!?」
「勿論だよ!」
▲▽▲▽▲▽▲
「ねぇ○○さん?そろそろさぁ?」
「あー!××の話?」
「え、違うよ?」
「じゃあ、何の話なの?」
「○○さんも分かっててついてきたんでしょ?ほら、ね?アレだよ」
「何のこと?」
「••••ちっ••••こいつマジかよ••••あーもういいわ。じゃあね」
「え、どういうこと?」
「はじめからあんたが好きなそれ?××だっけ?興味ないんよ」
「ちょっと待ってよ!?本当にどういうこと!?」
「お前とのお喋りなんてどうでもいいんだよ。五月蝿いなぁ、黙れよ」
▲▽▲▽▲▽▲
「ねぇ••••○○さんさぁ?いい加減にしてくんない?」
「あたしたち、あんたのせいで超迷惑してんの」
「え、何が••••?」
「何がってさぁ?あんたが私らの邪魔してんの!」
「□□くんとか、もうちょっとだったのにあんたのせいでおじゃんだよ?」
「ほんっと、いい加減にして?」
「「「お喋りしたいとか、馬鹿みたい」」」
▲▽▲▽▲▽▲
••••やめて。やめて。お願いだから。
よく分かってる。震える手で頭を抑えても、記憶は変わらない、事実は無くならないなんてことは。
だから、止まってよ。お願いだから、静かにしててよ。
このままなら、皆にぶつけてしまう。
いやだ!こんな汚い記憶、あそこにはいらない!
楽しい場所なんだ!あたたかい場所なんだ!私の場所なんだ!
喜怒哀楽、それだけ、たったそれだけ。そんな純粋な場所に、汚いものなんて入れたくない!ハリボテの感情は入れたくない!
••••やっと得たこの場所、捨てたくない。
私は、私は••••••••••••••••••••••。
ハリボテになんか、なりたくない。
◆◇◆◇◆
『おっ、ミュート切れた!』
『終わった?』
『ちょっと長かったな。トイレか。』
『↑ひどく下世話』
『↑不愉快である』
『↑おいこちとらご飯中やぞ』
「ごめんね〜!皆!ちょっと用事が入っちゃった!本当に少ししか配信出来てないけど、ちょっと今日は終わります!またね!」
『あーね!』
『シンライのマネージャーから電話かメールでもあったのかな?』
『またねー!』
<配信が終わりました>
◆◇◆◇◆
私は配信を閉じ、すぐにスマートフォンを起動した。
プライベートの方だ。
誰かに、誰かに声を伸ばしたかった。
縋りたかった。
泣きつきたかった。
その一心だった。
メッセージアプリを開いて、信頼できる相手を探す。
当てはついていた。
デビューしたての頃、新人だった私にニコニコと近づいてきて、会話をしてくれた。その人だ。
彼女は企業Vtuberだった。
大引退やら何やらで他とは関わってはいけない中、彼女は他のVtuberの配信に出没した。
私みたいな他企業のVtuberの場所にまで。
何でか聞いてみると、
「私は悪戯が好きなんだよね!」
そう返された。
その時、彼女は私と同じで単純に人と関わるのが好きなんだと思った。
下心とか、そういったものは一切なく、人が好きなのだと。
リアルでも話したこともある。
年下だったのには少し驚いたけれど、少ししたらすぐに意気投合した。
ここまでお喋りができた相手はマイ以来ではないだろうかとすら思える程に。
スワイプ、スワイプ、またスワイプ。
———指が止まる。
彼女のアイコンを押してトークルームを開く。
打つのはたった3文字。
それは、軽いけれど重かった。
「———————————お願いッ」
勇気を振り絞り、それに指先を振り下ろす。
◆◇◆◇◆
とある時。
誰かが誰かに声を漏らした。
「『助けて』」
と。
今回の最後で、激唱編の最終話『転換と門出』のラストシーンと繋がりました。
最後まで読んでいただき、感謝です!
追記:『*』と表記されている台詞部分はこの様な内容となっております。(分かりやすくするため、一つ目の纏まりを①と❶、二つ目の纏まりを②と❷で表記しています)
① 『*********』
『****************』
『****』
『********』
❶ 『私、お出かけした!』
『俺はばぁちゃんの畑の手伝いした!』
『受験勉強』
『習い事ばかりだぜ』
②『*********************』
『**』
『******』
『************』
❷ 『ラリアーさんは花畑の妖精やから動けないで
しょ!』
『↑草』
『↑それはそう」
『植え替えればワンチャン?』




