おしゃべりの独白 前編
私はおしゃべりが大好きだった。
◆◇◆◇◆
私はVtuber。
とある事務所、とあるオーディションを通り過ぎて、そしてとある企業に属した。所謂企業Vtuberだ。
名をラリアー・ルルディリアという。
これは、私の周りの環境、それを取り巻く人の変化。
それの独白。
◆◇◆◇◆
私は画面の向こうの視聴者に向けて声をかけた。
「で、視聴者さんはどうしたの!?」
『お、おう••••』
『いつも通りの食い気味に安心感すら覚える』
『ピクシー引いてるよ、ラリアーさん!?』
「うるさいよみんな!視聴者さんの恋愛相談が聞けないじゃない!」
『コメントの量は諦めなよ〜••••リスナー多いんだからさ〜』
『本来コメントと視聴者が多い方がいいはずの配信なのに、それを真っ向から否定するのは草』
「だって恋バナだよ!?恋バナ!!学生の甘酸っぱい純なる恋愛だよ!?」
『それは理由にはならんぞおい』
『↑いーやなるね!大人になると、まともな恋愛話なんて起きやしないんだ!』
『↑そうだぞ!ピュアピュアな恋愛を見せてくれ学生リスナー!』
『うーんこの、そこはかとないおっさん臭』
『↑ラリアーは花の精霊だぞ失礼だな!』
『↑花の精霊にしては食いつき方が近所のおばさんなんよ』
『↑妖精だから長生きなんだろ』
『ヒント コノハナサクヤヒメ』
『↑コノハナサクヤヒメは神様なんだよなぁ••••』
「皆!?私は割と古株の花の精霊だからね!?花畑に縛られてて暇だから、視聴者の皆がお話し聞かせに来てくれてるだけだからね!?」
『唐突な公式設定』
『そういえばそんな設定だったね』
『嘘つけ。花は大概は一年草だぞ』
『わしらから話しかけに行ってる割には食いつきがおかしいんよ』
『花の精霊ならもっと儚げな感じでよろしく。深窓の令嬢みたいに』
『恋バナで鼻息荒くしてる精霊はいないと思うの』
「恋バナに限っては、あたしゃ興奮するカプ厨だよ。••••それより!続き!話そ!」
私はおしゃべりが大好きだ。
だから、この活動が大好きだ。
電子の波を超えての井戸端会議、沢山の人の「嬉しい」「楽しい」「悲しい」「苦しい」———そんな言葉のせせらぎに身を任せるこの時間が、この上なく愛おしい。
Vtuberという形にしたけれど、それには大した理由はない。
強いて言うなら、先入観なく沢山の人と喋ることが出来るからだろうか。
思うにVtuberはリアルとは違って、見た目だったり、環境だったり、そんな他の何かに影響されにくい様に思える。
勿論、Vtuberにも見る人の好みで印象付けされることはあるけれども、少なくとも"本当に"下心を持って会話を試みる人はいない気がする。
アンチとか、炎上とか、確かに怖い部分もある世界だけれど、私はここが好きだ。
だって、性別なんて関係なしに、そしてなにより現実より沢山の人が集まるんだもの!
私は太陽が心の中にあるようだった。
そんな幸福感が詰まった空をパラソルで飛び回っている気分だった。
ふわふわと。
それ程までに、心のままに言葉を交わせるこの空間が心地いいのだ。
そして数刻が過ぎ。
私は心地よさもそこそこに、今日の配信を切り上げるのであった。
◆◇◆◇◆
配信が終わって、その感想をSNSで呟いた後、私はパソコンを閉じて、椅子から立ち上がり伸びをする。
「ん〜っ!」
今日は結構盛り上がった。そのせいか、いつもより長い間配信をしていた気がする。やはり恋バナは楽しい。
配信は意外と身体が凝る。長時間、同じ体勢で行うからだ。
ゲーミングチェアとかを使っても、負担を軽減できるかぐらいだ。まぁ、ある方が全然マシなんだけど。
「皆と会話してると時間を忘れちゃうなぁ••••。これはイケナイ!」
独りごちると、私は部屋の片隅に掛けてあるデジタル時計をさっと見やる。
22時49分。
••••うん。これなら少し休むくらいの時間はあるかな。
「20分••••いや15分だけ休憩して、そこからレポートでも進めて••••」
夜更かしは美容の大敵とよく言うけれど、私はVtuberだけでなく学生なのだ。美容の神様も多少の無茶くらいは許してくれるだろう。
そう思いつつ、部屋に常時配置している敷布団に寝転ぶ。
レポートを纏める時に流すBGMでも探すか、そう思い、手に持っていたスマートフォンに指を滑らせる。
「ん?」
すると、メッセージアプリの端に赤い数字が一つ。
何やら新しい通知が来ているご様子。
「えーっと••••何々••••••••••?事務所?」
私はアプリを起動するや、その文面に目を通す。
「『重要な連絡を致しますので、出来れば明日の昼に、事務所にお集まり下さい。このメールは全ライバーに同じものを送信しています。明日、どうしても集まれないという方は、後日、予定のある日に———』••••成程?」
メールの内容は、私達、シング&ライド所属のライバー全員を招集するものだった。
シング&ライドは総勢35名からなるVtuber集団だ。それは他の企業Vtuberと比べても圧倒的な人数差を誇る。
多様で、自由な活動が持ち味、自慢じゃないけど、界隈でもそこそこの知名度があると思う。
そして内部では、多様で自由だからこそ、それぞれに合わせたサポートを行ってくれる。いつもいつもお世話になりっぱなしだ。
だからこそ、35名全員集合なんてものは稀だった。
「夏だから大きなコラボでもするのかな?」
季節はもうじき夏休み。若者たちの夏だ。
大引退の影響も、少しずつだけど弱くなってきてるし、そういった新しい層を取り入れたいのかもしれない。
それだったら35人全員を呼び出すのも納得だ。
「明日もし全員集まるなら、マイと会うのも久しぶりになるのかな?」
私は同期であり、大の親友である彼女のことを想起する。
素は無口でネガティブな性格の癖に、何でか勝気なキャラクターを演じている私の親友のことを。しとやかで、月下美人みたいな彼女だけれど、ダンスになったら燦然と輝く向日葵のようにいきいきとする彼女のことを。
思い出は深く沈んでいく。
同期と初めて顔を合わせた日。私達の代は、たった二人だけだった。大引退の影響だった。
お喋りな私と無口な彼女、一見噛み合わなそうなものだが、空気感が近いからだろうか、その空間は妙に心地よかったのを覚えている。
私は独り言を溢す。
「最近元気にやってるのかな?」
そう言いつつ、あまり心配はしていない。あの子、最近ダンスの耐久配信してたし。
「まぁいいか!いずれにせよ、明日には会えるんだしね!••••それより、せっかく事務所に行くんだから、マネージャーさんに企画について相談しようかな!」
いやはや、一人暮らしをしてると独り言が多くなって敵わない。••••人恋しいのかなぁ。自覚はないけれど。
明日についてはまた分かるさ。
私は割り切り、レポートに取り掛かるべく立ち上がるのであった。
◆◇◆◇◆
翌日。
私は都内某所に建っているビルにいた。
株式会社シング&ライドの事務所である。
待機室に入ると、ずらずらと人が集まっていた。
あまりにも壮観で、私は声を上げる。
「うわ!ほんとにみんな揃ってる!」
そんな私の背に声が掛かる。
「『うわ』とはなにさ『うわ』とは。もうみんな揃ってるよ?」
振り返ると私の大の親友が立っていた。
「マイ〜!久しぶり!」
「••••久しぶり」
私が駆け寄ると親友は一歩下がった。
「何故逃げる」
「••••陽のオーラが二郎系ラーメン並みにでかいから、つい。••••私陰の者だし」
ぼそぼそと言い逃れる親友。
「誰が濃厚コッテリなオーラだ!?ただのおしゃべり好きだい!」
「それが陽キャなのよ••••そもそも陰キャはそんなに爆音で喋らないし••••」
「むぅ••••釈然としない••••」
私が田舎のヤンキーのバイクがふかす音と同等だと言いたいのか、この娘っ子••••。
彼女は私の親友で同期のVtuberで、活動名は群雀蘭 マイだ。
ダンスを中心とした活動をしていて、これに関してはプロ以上の実力を持っている。
以前、なんでプロにならなかったのか聞いたこともあるのだが、どうにもはぐらかされてしまった。たとえ親友でも立ち入ってはならない場所なのだろう。
「それにしても、何でこんなに集められたんだろうね?ぴったり35人!」
「数えたの?」
「そりゃね〜誰が休みか知りたいし」
「••••一応聞くけど、なんで?」
「今日の内容教えるついでに関係を深めようかと」
「••••」
「ちょっとなんで黙るの!?」
「いや••••すごいなーって」
「そんな抑揚のない声で褒められても嬉しくないよ」
「褒めてないし」
私達の会話は基本的にこれだ。私が口を回して、マイがぼそりと小さく突っ込む。ちぐはぐな噛み合わせに見えて、案外テンポの良い会話。マイのあけすけな言葉。これがどうにもこうにも好ましい。
私達は談笑に興じるのだった。
◆◇◆◇◆
やがて、時間が過ぎて。
35人のライバー達が集まる場に一つの人影———マネージャーの女性がゆっくりと入り込む。
全体を統括するマネージャーの一人で、私も何度か話したことがある人物だ。
彼女は、待機室をぐるりと見渡すとざわざわとしている空間に一言を放った。
「おーい!みんな集まったからそろそろ始めますよー!」
それから何度かその文言を繰り返すと、多少のざわめきは残りつつも、場は静かになる。
女性は何枚かの紙が纏められたファイルを取り出すと、ぺらぺらとそれをめくり、読み上げる。
「えーっと••••今回わざわざ全員に集まって貰ったのは、社長交代によって会社全体の方針が変わったから、です」
方針変更。
その四文字に、私含む35人のライバー達は顔を見合わせる。
『どこが変わるんだろう』 と。
そしてその表情が『まぁでも今までとあまり変わらないだろう』に変化するのには、あまり時間は掛からなかった。
私自身、彼ら彼女らと同じく「特に変化もないだろうし、あまり気にすることじゃないかな」と安直に思っていた。
私達はそれ以上考えることもなく、静かな表情でマネージャーに再び視線を向ける。
「じゃ、端的に言いますねー」
しかし。その安心しきった表情は、次の一言で一変する。
「皆さんにはこれから、アイドルをしていただきます」
瞬間。株式会社シング&ライドの全てのライバーが凍りついた。
それが、崩壊の序章だった。
最後まで読んでいただき、感謝です!
少し後からの追記:さぶいぼ投稿頻度低下に伴い、「負担が少なく」「比較的素早く執筆できる」ものを投稿しました。さぶいぼキャラクター達の日常話です!下にURLを載せてあるので、是非いらして下さいね!
「幼馴染Vtuber、暴走するってよ はいしんがい!」→ https://ncode.syosetu.com/n3371jj/




