人狩り行こう!
<配信が始まりました>
「ご機嫌いかが皆々様!延暦寺 小町です!」
「どうも。最近割と何にも起こってないなぁと安心している本能寺 我炎です」
『おー!定期配信でもないのに配信してる!』
『夏休みだからか?』
いつも通りの挨拶をすると、視聴者から少々意外そうな意見が書かれていた。
そう。今日はいつもしている配信の周期とは違った日に配信をしている。
その訳は、コメント欄で視聴者が言うように、夏休みだから時間に余裕があるというのも勿論あるのだが、この配信に対しては少々主旨が違う。
「俺達が夏休みってのもあるんだけど、ライバーズの方針の方が正しいかな」
『方針?お前らって放置扱いじゃ••••あ、そういえば緩和されたんだっけ』
『↑何それどこ情報?』
『↑トワイライト公式やぞ』
『↑ちなこのツイートな▷http://Twitte.com/TOWAILAITO/korekara/869RGM5』
『さんくす!』
俺は頷いた。
「そうそう。ちょっと前に公式がツイートしてたと思う」
「そもそもマネージャーができたのもそれが理由だしね」
『それで出来たマネージャーが奇声を放つバケモンだったと、』
『お可哀想にw』
『↑ちっとも思ってなさそうで草』
『けど、それと今日の配信と何の関係があるんだ?』
「で、そのマネージャーと話し合った時に『これからは新規層を取り入れていこう』って話題になったんだよ」
「だからこの夏休みの配信頻度を増やしたの!」
「グッズ販売もその一環だな。••••まぁ、配信頻度を増やしたと言っても、普段の定期配信みたいに、決まった時間にする訳じゃないから不定期になってしまうけどな。あ、勿論だけど定期配信は毎回ちゃんとするぞ!」
新規層を取り入れようと配信頻度を増やしたとて、いつもの配信ができなければ本末転倒というものだろう。それに、普段の配信が少なくなれば、既存の視聴者に不安感を与え、俺達から離れるきっかけになってしまう。
仮にも企業Vtuberだ、それは避けたい。
『新規層、取り入れられますか••••?あのグッズで••••?』
『↑それな。アンチコメグッズは言わずもがな。指人形はバックボーン見たらドン引きするぞ』
『配信頻度は増えるのね』
『まぁ、夏休みというと子供達が暇時間に動画サイトを漁る時期だしな』
『儂等の子供の時は近所の神社で虫取りをしたものだが••••』
『↑どこのゲームの導入ですか?』
『↑妖怪と友達になりそう』
『↑もう4、5年は前だぞ』
「それで、今回の配信は大人気ゲームモンスターをハントするゲームをします!」
「人狩り行こう!」
「字面が物騒」
『あーね。有名コンテンツで誘導するのね』
『↑この配信のいやにまともなサムネもそれが原因か』
『↑お前らBANされても知らんぞ』
『それにしてもモンスターをハントするやつね••••。個人の感想だけどあれって結構慣れが必要じゃなかった?』
『人を狩るなw』
『一狩りじゃねーのかよw』
『本能寺と延暦寺は初めてやるの?』
「そう!私達二人とも初見プレイ!」
「一応チュートリアルだけはしたけどな。あ、因みに今回二人プレイなんだけど、大型のモンスターを狩る為に、マネージャーさんが事前にプレイしてくれたアカウントを使います」
「ありがとうマネージャーさん!」
そのタイミングで俺はふと思い出す。
「そういえば延暦寺。お前後でゲームの代金払えよ?」
「やだ!」
「毎回俺が出費してんじゃん!」
ここで『企業Vtuberなのに経費で落ちないのか?』と疑問が出そうな所だが、そもそも俺達は経費というのを使えない。そこまでの緩和はされておらず、ゲームなどを買うお金は未だに俺達負担で、とどのつまり個人勢だった頃と同じなのだ。
「だってバイトしてるの本能寺だけだし」
「流石に解せぬ!おまえもすりゃいいだろ!?なんなら店長に紹介するぞ!?近所のガソスタ!」
「ならば質問しよう••••私がまともに働けると思うか?」
「解せた」
『まーた本能寺が払ってるよ••••』
『本能寺不憫タイムですか!?』
『↑来るな腐れドS』
『解せるなw』
『まぁ延暦寺がガソリンスタンドのバイトをしようものなら、大爆発を引き起こして事件を起こしてそうだし••••』
「さて、仕切り直しまして!」
「おい待て延暦寺。話はまだ終わってn」
「クエストいってみよー!!!!」
「あーもう!何なんだよ!」
さらば俺のバイト代。悲しみに暮れる俺などつゆ知らず、ゲームはクエスト開始の音を鳴らし、フィールドには俺達それぞれが作ったキャラクターが立つ。
今回の目標は竜系の大型モンスターを狩ること。美納葉の使う武器は弓で、俺はガンランスだ。
「グラフィック綺麗だな••••!?」
いざ始めてみると最近のゲームの映像の凄さを思い知らされる。随分と年寄り臭い反応だと思うが、俺は美納葉に手を焼いていたせいでゲームとはかなり縁遠い所にいるのだ。仕方なかろう。
『本能寺が老人してる••••』
『一挙一動がゲームなれしてねぇ••••!』
『あれ、延暦寺は?』
おっと。感動していて美納葉の方を見ていなかった。俺は美納葉の操るキャラクターを見やる。
そこにはピクリとも動かない女性キャラクターがいた。
「あれ?延暦寺?どうした?」
若干嫌な予感をしながら美納葉に声をかけると、奴はもの凄いスピードでコントローラーを操り始めた。
美納葉のキャラクターは俺のキャラクターの周囲をくるくると周り、徐に何か筒状のアイテムを設置していく。
「?」
『延暦寺••••?何をして••••あっ』
『あっ(察し)』
『あっこれは••••(理解)』
俺は美納葉が何をしているのかが分からず困惑していると、奴はその筒から離れ、それに向かって弓を構えた。
美納葉のキャラクターがひいふっと弓矢を射る。
それは真っ直ぐ筒に向かっていき••••。
ドカンっ!
大爆発を起こした。
「えっ!?ちょっ!?」
複数設置されたそれはどうやら爆弾だったようで、それは大きな音と炎を俺のキャラクターに浴びせた。
連続で続く爆発は一気にHPゲージを削り、やがて俺のキャラクターは死亡した。
「はいぃぃぃっ!?」
「や っ た ぜ」
「ちょいちょいちょい!?延暦寺何してる!?」
「お前を殺す」
「ナンデ!?」
「いや〜この為に弓にして良かった良かった」
『知 っ て た』
『デデン!』
『何なの••••この人••••』
『まさかさっきの「人狩り行こう」が伏線だったなんて••••!』
『見事過ぎる回収で草も生えん』
その後もリスポーンするたびにに爆弾で吹き飛ばされ、晴れてクエストは失敗となりました。めでたしめでたし。
◆◇◆◇◆
一度のクエストが爆殺からの失敗で終わってから、数時間が過ぎた。
俺は未だにクエストが始まっては爆殺されるのを何度も何度も繰り返している。流石に精神が参る。
俺だって逃げようとはしているがいかんせんゲーム初心者である。大体のことは感覚でできる美納葉に勝てる筈がない。
俺は何度目かの交渉を持ちかける。
「いい加減この争いを終わらせないか••••?」
「何故だ相棒よ」
「常時爆発オチ配信では新規層は得られないと思うんだ」
「なるほど••••だが断る!」
『おいこの絵面さっきも見たぞ』
『どこを切り抜いても同じ配信はここですか?』
『こいつ寺じゃなくて実は張作霖とかじゃねぇだろうな?』
『↑張作霖爆殺事件やめろw』
『芸術オタクが喜びそうな配信ですね!』
『↑岡本太郎じゃねぇんだよ』
『爆発だ!爆発だ!爆発だ!芸術だ!』
『ん?何か音が聞こえるような?』
『↑ケータイじゃね?通話音だと思われる』
プルルルルッ!
俺が肩をぐんにゃりと落としていると、誰かから電話がかかってきた。
助かった!これでこの地獄から抜け出せる!
俺は希望に満ちた気分でその電話を取った。
『おいこいつ電話取ったぞ』
『逃げたな』
『爆 殺 か ら 逃 げ る な』
『余程精神にきてたんやろなぁ••••』
コメント欄が何やらざわついているが知るか。これで炎上してもいい。
俺は自身の声をミュートにして、ウキウキと通話を開始した。
「もしもし!」
≪あ、本能寺?配信中にごめんね≫
声の主は夕だった。
途端に気分は希望から絶望のドン底である。
というのも、夕がわざわざ何かを持ちかけてくる時は大体ろくな事にならないからだ。
中学の時は、美納葉率いる全校生徒と学校を占拠し、籠城。最終的に、傍観者的な立場だった夕を介して教師陣が俺に泣き付き、俺対全校生徒とかいう頭のおかしい現象が発生した。因みにこの学校占拠は夕の入れ知恵だったらしく、なんとも酷い出来レースだったそうな。
このように、アイツが絡むと大抵無駄に大きな出来事に発展するのだ。美納葉だけなら俺だけに迷惑がかかるのだが、奴が悪戯を始めるとそれは最早ちょっとしたニュース組まれるレベルで迷惑騒動になる。
しかも、夕の悪戯は面倒事が最終的に俺に帰結するようにしている為、余計に質が悪い。
「••••あー。で?何の用?切るぞ?」
≪••••私と知った途端、機嫌がダダ下がりするのどうにかならない?≫
「ならない」
≪酷っ!••••••••まぁいいや。今はそれどころじゃないし。あ、そうだ。この通話延暦寺に聞こえるようにしてくれない?配信の音は消してお願い ≫
配信全ての音声をミュートにして、通話をスピーカーにした。
夕の声音を聞くに、余りふざけた用事じゃないようだ。
俺は少々態度を改める。
「なんかあったみたいだな。手短に伝えてくれ。配信中に電話してくるくらいなんだ。緊急なんだろ?」
そう言うと、夕は若干安堵したような空気を醸し出した。
≪話が早くて助かるわ。とりあえずだけど———、≫
そして、俺は夕の次の一言に驚愕し、そしてその後大きく振り回される事になる。
≪今すぐ近くの公園に来て!二人の助けが割と、いやかなり必要なんだ!≫
それは、新たなる騒動を迎え入れるファンファーレとなるのだった。
最後まで読んでいただき、感謝です!




