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幼馴染Vtuber、暴走するってよ  作者: 日陰浴
激唱編

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そして幼虫へ

「••••にゅ、」

 目が覚めて瞼を開くと、真っ先に感じたのは妙な煙たさだった。

 どうにも瞳の中が痒いように感じてならない私は瞼を(しばた)かせる。

「••••あー、そーいえばバーベキューしてたんだったっけ?」

 幾分かマシになった目で辺りを見渡すと、千隼がバーベキューコンロに向かっていた。

 ••••とりあえず突撃しよう。

 お肉が食べたいとか、動きたいとか、千隼の顔がどこかスッキリしてるとかの御託(理由)はどうでもいい。今必要なのは私がしたいか否かだけだ。

 私は「したい」に即決。まぁ元より答えは無いけど。

 私はクラウチングスタートの体勢を取り、大腹筋に力を入れる。

 千隼に気付かれないように軽く気配を消して、加速。距離も近いし二、三割くらいの力でいいかな?

 それでも数十メートル離れていた距離はみるみる縮まり、私は勢いを落とす事なく千隼に抱きついた。

 千隼は驚いた顔をしながら身体をぐわんと揺らしながら前方———、すなわちバーベキューコンロの方向へ倒れ込んだ。

 これは頭から突っ込むかな、と思っていたけれど、さすが千隼、空中で身体を捻って右へ避けた。

「この野郎••••!全力ダッシュしやがって」

「野郎じゃないし!乙女だし!」

「この餓狼••••••!」

「飢えた狼!?」

「どうせ肉が食いたくてとかが理由だろ。ご丁寧に気配も消しやがってコンチクショウ!」

 そんなにしっかりと気配を消した記憶はないんだけどなぁ••••?

 そんな風に疑問符を脳内に浮かべていると、千隼が私を押し退ける。

「わぁっ!」

 結構な力でしがみついたつもりだったのだけど。他の人じゃあこうはいかない。••••やっぱり千隼しか勝たんということか。つまり結婚。

 ••••それにしても••••千隼に何かあったのだろうか?心なしかいつもよりも明るいし、それに清々しい空気を纏っている気がする。

 でも車の時はそんな事無かったしな••••。

「うわっ!肉焦げてる!?」

 ほらここも。いつもならもっと気怠そうな声音で「うわ••••肉焦げてる•••••」って叫んでるもの。

 もしや偽物••••いやでもあの身のこなしは普段の千隼、寧ろ普段よりキレがいいし。

 私は首を傾げる。

 千隼を見て、首を傾げ、千隼を見て、首を傾げを繰り返していると、背後から声がかかった。

「ん••••?どうしたの?フクロウみたいに首を傾げて」

「うたてさん!」

 何かの気配が迫っていた事は分かっていたけれど、うたてさんか!

 私はうたてさんに事情を話すべく口を開く。

「なんか千隼が変なんだよね〜」

「••••••へん?」

「そう!なんかすっきり?憑き物が落ちた?みたいな感じ!」

「••••••••」

 そう言うと、うたてさんは納得したように頷くと、返事もせずどこかに歩いて行った。

「あーもー。結局なんなんだろー」

 千隼と会話して原因を探ろうかと思う気力も湧かなくなった。拍子抜けというやつである。


 ふと、妙案が浮かんだ。


「うたてさん、何か知ってるみたいだし、追っかけたらいいじゃん!」

 結局何もかも分からずじまい、そんなもやもやする終わり方は嫌だし。

 私はうたてさんに気付かれないように気配を消して、歩み出した。

 ••••なんかこれ探偵みたいで面白そう!

        ◆◇◆◇◆

 駐車場。

 赤上の車の影に被さるようにして、二人の人物が会話しているのが見える。

 そう。身バレさん(赤上さん)とうたてさんだ。

「あやしい〜••••絶対なんか知ってるよあれ」

 私は近場の木に隠れて耳をそば立てる。


「え、千隼くん、何とかなった感じ?」

「みたい。思ったより早かった」

 身バレさんはひどく驚いた様子でうたてさんの言葉を聞く。

「メッセージ、来てなかった?」

「ちょっと待って?••••あっ」

 彼はポケットに入れてあったスマートフォンを取り出すと、何かを見て声を上げる。

「はぁ••••」

「ごめんごめん。気付かなかった」

「で、なんて?」

「えーっと••••『違和感を前から持ってたみたい』、『打ち明けてくれた』、『みんなで解決案を探してみる』、『解決できた』、『美納葉ちゃんは寝ちゃってるから千隼くんとお肉焼いてくる』••••だって」

「要約」

「千隼くんは前から自分に違和感を持ってて、それを打ち明けたところ、みんなで話し合うことに。その結果、問題解決。千隼くんは復活、ってところかな?」

「••••私もみてないから分かんないんだけど。大まかそうなんじゃない?」

「大まかそうなんじゃないって••••まぁいいか、兎に角後は美納葉ちゃんだけってことね」

「それにしても、最終兵器を使わず終わったのには驚いた」

「わかる。だいぶ根が深そうだったもんね。でも荒療治じゃなくて、自分で考えて理解してもらった方がきっとためになるからさ、よかったんじゃないか?」

「けど美納葉ちゃんは自力では無理そう。最終兵器投入は考えた方がいいよ」

「そうかぁ••••。あれ結構時間食うしなぁ••••速攻で使った方が良い?終わった後で焼肉したいし」

「ん」

「あいわかった」

 頷き合ううたてさんと身バレさん。

 それを他所に私は謎深き会話について思考を回していた。

 千隼、違和感、解決、復活••••それに最終兵器。

 二人、いやここの皆は一体何をしようとしているのだろう。

 どこか陰謀染みた空気を感じるんだけど。

 でも二人の口ぶりを聞く限り、千隼に何かしたというよりは、千隼の調子を戻したって感じなんだよね。

 もしかして、私の知らない所で千隼が調子を崩してたのかな?

 いやでも二人は私についても話してたし、体調の話ならおかしい。別に私は体調を崩してる訳じゃないし。いつも通り健康体だし。

 あーもー埒があかない!

 もういいや!こうなったら強行突破だ!

 


 私は木陰から飛び出すと、二人に向かって声を掛ける。

「うたてさん!身バレさん!何を隠してるの!」

 声に反応してすぐに振り返る二人。

 驚いたような、呆けたような、そんな中間の表情をしていた。

 まず動いたのは、身バレさんだった。

「あっちゃあ••••隠れてたのか」

「勿論!私の目は誤魔化せないからね!」

「まぁ仕方ない。ほんとはもうちょい自然にバラしたかったんだけど。ね、うたて」

 未だ呆けているうたてさんを促そうとしたのか、身バレさんが彼女に声を掛ける。

 そこではっ、とした表情を浮かべるうたてさん。

「う、うん」

 二人はそのまま私に近寄ってくる。

「美納葉ちゃんはどこまで話を聞いてた?」

「『千隼くん、何とかなった』辺りから」

「初っ端じゃん。••••よく気付かなかったな俺。でもまぁ、それなら話が早いかな。••••美納葉ちゃんって、自分の考え方に違和感、というか、他人の考えを自分に当てはめたことあるかな?」

 急に質問を投げかけてくる身バレさん。私は唐突だったからか、その質問の意図が分からず硬直する。

「え?」


「ちょっと透?」

「ハイペース過ぎたのは謝るけど、そうしないと素が見れないからね。ごめん」


 二人が話をしている間、私はその質問を反芻していた。


 他人の考えを自分に当てはめる?どういうことだろう。他人は他人だし。私は私だ。結局のところ私で全て完結するし、そこに何で他人が出てくるんだろう。

 彼の言っている事が反芻して尚、分からない。


 考え込んでいる私を見て、身バレさんが頷く。

「あー••••もう大丈夫。なんとなくだけど分かったから。••••うん。これはうたての言う通り、最終兵器がいるかも」

()()じゃなくて、()()。だよね透」

 二人は溜息を同時に吐くと、未だ混乱状態の私の背に回り、車の方へと押して行く。

 一体何が起こるんだろうか。

        ◆◇◆◇◆

 私は少しだけ背もたれを倒された後部座席に座らされる。

「一体何をするの?人体実験?」

「••••俺を何だと思ってるの?••••まぁいいや。今から美納葉ちゃんには『とあるもの』を辿()()()もらいます」

「透。その言い方じゃ何も分かんない」

「う、でもな••••。まぁいいや。兎に角、始めよう」

 そう言うと、身バレさんはどこからか取り出したか、アイマスクとパソコンに繋がったイヤホンをうたてさんに渡した。

 うたてさんは私にそれを着け、私の耳元で囁いた。

「今から見るのは人生。他でもない美納葉ちゃんの、ね」

 そして身バレさんはその言葉を言い聞かせるように言う。

「そう。これから見るのは美納葉ちゃんの人生。思い出して。人生の記録を」



「それってどういう—————、」



 刹那。私のいた世界は暗転して、私は何かに沈み込んだ。


        ◆◇◆◇◆

 •••••••••••••••。


 長い夢を見ていた。

 長い長い虚像を見ていた。

 長い長い長い旅路を見ていた。


 それは虚偽と苦しみに満ちたものだったり、声と舌に苦しんだものだったり、音を愛して人に愛されなかったものだったり、想いが届かなかったものだったり、空回ったものだったり、笑顔に満ち溢れたものだったり、青い蒼い日常だったり、土臭い努力だったり、仄暗い部屋だったり、賑やかな風景だったりした。


 邂逅、離別、そしてまた邂逅。

 時に繋がり、交わり、そして変わってゆく感情。

 喜び、悲痛、怒り、恐れ、驚き、嫌悪。

 愛、誇り、罪悪感、恥、妬み、嫉み、羨み。

 

 運命的な出会いも、その影響も、全て自身の足跡。


 彼らの足跡。

 足跡は私。


 知識なんかじゃあない。


 ••••••••••••••。


        ◆◇◆◇◆

「はぁっ••••はぁっ••••」

 耳からアイマスクがずり落ちる。

 身体から汗が止まらない。車内はエアコンが効いている筈なのに。

 顔を手で拭う。

 びしょ濡れになる。どうしてだろう。

「おっ、終わったか?」

 前方から赤上さんの声が聞こえてくる。

 その方向を見ると、赤上さんとうたてさんが前の座席に座っていた。

 それと同時に、私の顔がルームミラーに映った。


 ぐしゃぐしゃだった。


 汗、涙、鼻水、全部全部入り混じったぐしゃぐしゃだった。


「••••一体、何が••••あったの?」

 掠れ掠れの声で問う。

「そうだなぁ••••逆に聞こうかな?()()あったの?」


 ()()

 そう問われるとどう答えればいいか分からないけれど、これだけは言える。


「いろんな、経験をした」

 それを聞くと赤上さんは頷く。

「うんうん。それでどう感じた?」

「分からない。笑って、怒って、泣いて••••どう感じたかなんて••••」

「ならよかったよ」

 赤上さんは今度は満足そうに頷いた。

「あれは?」

「あれって?」

「私が聴いた••••いや見た()()

「全部本物だよ」

「そっ、か」


 私の中で、人の人生や考え方、心が入り混じってぐしゃぐしゃだ。

 今の顔よりぐしゃぐしゃだ。


 ずっと黙っていたうたてさんが声を上げた。

「今回は、耳から取り入れた内容だけだったけど、()()は五感全部を使って見ているから」

「五感全部」

 あれを全身で。

 すごいな。

 どう感じたんだろう。

 どう思ったんだろう。


 今なら分かる。赤上さんの質問。

『他人の考えを自分に当てはめたことあるか』

 答えは『ない』だ。

 あの時は他人の考えなんて思いもしなかった。

 私は私、他人は他人。他人の考えなんて私に影響を全く及ぼさない。そんな感じだった。

 感情、思想、人生。他人のそれらが自分にこれほど影響を与えるなんて思ってなかった。

 相手の立場に本当の意味で立って、初めて分かったなんて。私は本当に馬鹿だと思った。


 私は二人に向かって聞く。

「ねぇ。私が聴いたあれって何なの?音楽とは違うでしょ?」

「美納葉ちゃんも一度配信でしたことあるんじゃない?」

「え?」

 私がしたことあるもの?

 困惑しているとうたてさんが淡々と言った。

「ASMR」

「と、似たようなものだな。いやぁ••••皆にフォームで聞いて、纏めて、そーゆーのに詳しい友達に手伝ってもらって••••長かったなあ」

「頑張ったのは皆のお陰でしょ」

「手厳し!?何千何万の人生を纏めるのは俺が頑張ったんだからな!?」

「はいはい」

「ひどいぞうたて!?」


 わちゃつきだす二人を他所に、私はこれからの私の事を考えていた。


 私は以前から、他の人の考えや感情を『知識』として捉えてきた。

 けれどそうではなく、そのままそれを受け取って『血肉』にすることを知った。

 私は私、昔から私に根付くこのスタンスはきっと変わらないだろう。

 けれども、その過程で今よりももっと変化できるんだろうな。



 私は二人にあるお願いを投げかけた。


「ねぇ、その音声、また聴いてもいいかな?」


 二人は顔を見合わせると、ふっ、と笑い。


「「勿論」」


 声を揃えてこっちを向いた。

最後まで読んでいただき、感謝です!

美納葉もやっと一皮むけました!

※前回と今回の二人の変化前の思想がよく分からないという方は私のX(旧Twitter)にて載せておりますので、下記のリンクをコピー、貼り付けからのタップでご覧下さい!

https://x.com/hikageyoku_8888/status/1790136287451603325?s=46&t=E5EJekfxwub5e7ABF1LCUQ

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