表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染Vtuber、暴走するってよ  作者: 日陰浴
激唱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/160

蜃気楼の晴れ間

 一体全体何が起こってるんだ••••?

 赤上さん主催のイベント?が始まってから数分、俺は困惑していた。

 何があったのか、それは事を少し前に遡る。

        ◆◇◆◇◆

 俺は赤上さんが去って早々、グラウンドの隅にある柱に近づいて座り込んだ。

 ボールがグラウンド外に出ない様に設置されている網は日陰にはなり得なず、俺はなす術なく真夏の焼ける様な日差しに晒される。

 こんな炎天下だから勿論テントはあるのだが、何でわざわざこの中から離れたかは理由がある。

 赤上さんの集まりは軽く見ても100人は居て、そんな中に混じる事はかなり厳しいと感じたためだ。

 大人数の中にいるのはかなり疲れるし、ましては彼らは赤上さんの友達だ。きっと一癖も二癖もあるに決まってる。

 とは言っても暑いものは暑い。俺はぼやく。

「あっつ••••こんな事なら帽子ぐらい被ってきたら良かったな」

 美納葉なら帽子が無くても変わりはないんだろうなと俺は思うと、ちらり、美納葉のいるグラウンド中央を見やる。

 奴は案の定、帽子も持たず全速力でグラウンドを駆け回っていた。

「うわぁ••••蜃気楼の先で残像作ってるよ••••」

 相変わらず化け物で安心感すら覚える。

 そんな風に独りごちていると、俺の頭上へ急に影と聞き覚えのある声が刺した。

「ど、どうしたのそんなところで?テント入らないの?」

「あ、ナナヤさん。••••いや〜どうにもこの数の人に馴染める気がしなくて」

 そう言うと、ナナヤさんは「ああ〜」と何処か納得した様な声を上げ、横目でテントの方を見やる。

 釣られてみると、一つのバーベキューコンロを囲んで数十名の人達が肉をつついている様子が見られた。どうやらこのイベントはバーベキュー会らしい。

「さ、最初は僕もこの数に馴染めるか不安だったなぁ••••。ま、まぁ皆気のいい奴だから、ち、千隼くんもきっと大丈夫だよ」

 ナナヤさんはそう言ってサムズアップしてみせる。

 それからナナヤさんと軽く談笑をしていたが、数分経ち、また一つ人影が近づいて来た。

「おーい!肉焼けたぞ〜!ナナヤと••••あー透の友達の子!確か、千隼くんだっけ?」

 随分とガタイのいい男性が、こんがりと焼けた肉の切れ端を乗せてある紙皿を持って、ナナヤさんの横に立った。

 彼はその皿をずいと差し出すと続ける。

「ほれ。暑いんだし、テントの中で冷たい物でも飲みながら食べな?熱中症は怖いぞ?」

「り、リュウジくんもこう言ってるんだし、い、行こうよ」

 どうやらガタイの良い方はリュウジという名前らしい。

「あ、はい」

 そして俺は二人の圧に耐えきれず頷くしか無かった。


 

 場所を移動し、俺はテントの中に置いてあった折り畳み椅子に腰を下ろした。

 するや否や、畳み掛ける様に赤上さんの友人が押し寄せて来る。

「おー!一緒に来た子!」

「どーゆー経緯で透と合ったの?」

「もう一人の子とは付き合ってるの?」

「肉でも食べようや?何がいい?カルビ?タン?」

「最近の透、どんな感じよ?」

「夏休みの課題終わった?」


「えっ!?ちょっ!?」

 一斉に言葉の雨霰(あめあられ)を浴びせられ、困惑を隠せない俺は、赤上さんが去っていった方向や、美納葉の方向へ助けを求める様に視線を送るのであった。

        ◆◇◆◇◆

 そして現在に至るという訳である。

 俺は横をちらっと見る。

 そこには美納葉がちょこんと椅子に座って眠りこけていた。くそう。助けを求めたのに肉に懐柔されて、そしてすぐに寝やがって。

 早くも、俺の周りには80人程の人数が輪になって包囲網を作成している。

 そうして矢継ぎ早に質問攻めされるのだ。しかも割とVtuberとしてスレスレの。

 どうやら彼らは俺が赤上さんに連れられて来た事から、俺がVtuberと見当をつけているらしい。ちくせう。大正解である。

 不幸中の幸いだったのは、俺達二人がトワイライトの運営から「もうあんたら自由でいいよ。自分達じゃセーブできないわ」と言われているところだ。


「二人とも普段何してんの?配信?」

「あ、あー••••まぁ配信は週に2回程してますね」

「なぁなぁ!そっちの美納葉って子、彼女さんか?」

「違います。絶対に違います。こんな化け物と付き合える訳ないじゃないですか」

「お、おう」



 そんなこんなで、俺は受け答えをしていると、こんな問いが投げかけられた。

「さっき配信って言ってたけど、見た感じ高校生っぽいし大変でしょ?何か最近で何かあった?」

 その言葉を聞き、俺の中で何かが詰まった。

 思い出すのはついこの前の事。


 視聴者から中々に不評であった朗読配信、そして買い出しの時のナナヤさんとの会話で得た違和感。

 あれは多分繋がっているのだろう。俺が個人で感情を完結しているのと。


 人の感情は自分の感情を変質することは至らず、自分は自分の感情のみで動く。

 普通の人間とは隔絶していると言っていいほど、その考えはおかしなものなのだろう。

 ナナヤさんの時は疑惑だけだったが、朗読の一件で確信に変わった。

 きっと、本来ならば、人の感情・思想は自分の感情に何らかの影響を与える。そして人は変わっていくのだ。それこそナナヤさんの様に。

 

 急に黙り込んだ俺に、周囲の人々は心配した様子で声を掛けてくる。

「••••どうした?なんかあったか?」

「ち、千隼くん?」


 無理もない。さっきまで話していた人間が黙りこくるのだから。困惑を抱かざる負えないだろう。

 どうすべきか、話すべきか?

 けれどこんな考え方、理解できるものだろうか?

 下手を打てば、異端者のレッテルを貼られ爆発物、いやそれ以上の扱いを受けるやも知れない。

 少し話して分かった。確かに彼らは器が広く、この上なく善良だ。

 きっと受け入れてくれるだろう。••••だけど、


 すると、



「さ、3人いれば文殊の知恵!こ、こっちは100人以上!き、きっと大丈夫!」

「おれでよけりゃ、話聞くぞ?」

「誰しも最初は不安がるのは当たり前!さぁさお姉さんたちに言ってみな?」

「んだ。大丈夫だ。任せなさい」



 彼は全員、一つの欠けもなく、力強く頷いた。


 ここで言わなければならないのだろう。ならないのだ。

 俺は決意の紐を固く結びつけ、口を開いた。

「あの、」


        ◆◇◆◇◆


 そして。

        ◆◇◆◇◆

「う、うーん•••••ど、どうしようか?」

「成程なぁ••••?感情かぁ••••うーむ難しい代物(しろもん)抱えてたなぁ」

「何はともあれ、話してくれてありがとな!」


 俺は違和感を持った事、自分の考え方が変だと気付いた事、とにかく全て話した。

 それを聞いた彼らは大きく首を捻っている。


「まぁ兎に角だ。これは呑気にバーベキューしながら話すもんじゃねーな」

 リュウジさんは腕組みをしながらそう言う。

 彼は「誰か紙とペン持ってない?」と徐に聞き、そして借りた紙とペンをテーブルに広げる。


 そして彼は俺の話を纏め始めた。

「軽く確認だ。千隼くんは人の心は分かる」

「ええ、分かります」

 俺は頷く。

「じゃあ次だ。けれど、千隼くんは人の心・思想を自身の心・思想に影響させることができない」

「はい」

 再度頷く。

「つまり千隼くんは感情移入ができない」

「はい」

「んじゃまぁ、目標ははっきりした訳だ。千隼くんを感情移入させればいい」

 単純だろ?といった風に辺りを見渡すリュウジさん。

 そんなに簡単に事が進めばいいのだが。

        ◆◇◆◇◆

 そして、かなりの時間が流れた。

 彼ら自身の経験を語ったり、俺自身の目線を変えてみたりしたりしたのだが、一向に変化が見られなかった。

 途方に暮れる、というやつである。


 その時である。


「あー••••そもそも、千隼くんがそうなったのは何が原因なんだ?」

 誰かが困った様に放った言葉が一雫、騒めきに波紋を作った。


「そ、それだ!ち、千隼くん!千隼くんがそうなったのって何が原因なの?さ、さ、些細な事でもいいから、か、考えてみて!」

 ナナヤさんがエウレカ!と言わんばかりに俺に聞く。

「原因、原因ですか••••」

 俺は思考を回す。

 一体いつからこの考え方なんだろうか。中学?小学?いや違う年齢の話じゃない。もっと根本の何かだ。

 ずっと昔から俺に付き纏っていて、俺に影響を与え続けていた何か————————、




「•••••••••••••••••••••••美納葉」


 ぽつりと(こぼ)す。

 そうだった。この考え方の根本は美納葉だった。思えば、昔から美納葉は他人の感情などで行動を変化させた事はなかったじゃないか。

 そう。グラウンドに大穴を開けた時も、職員室をハイジャックした時も、静止する先生や俺の言葉を意に介してはいなかった。


 俺の溢した言葉に彼らが反応する。

「待ってくれ、他人から影響を受けて今の状態になったのか?」

「そ、それなら千隼くんは人の心・思想に感化されてる!つ、つまり、あ、あのなんていうか、その」

 俺はナナヤさんの言葉を心の中で引き継ぐ。


 つまり、


 俺は感情移入ができる。


 俺はずっと前、美納葉の思想に感化されてから、『人の心・思想は自分の行動を変えない』と思い込んでいただけという事なのだろうか?

 自身を囲っていた壁は、幻影だったのか?


 ナナヤさんが言う。

「そ、それなら、じ、自分でも知らない内に感情移入をしたことがあったかも知れないよ!」

 リュウジさんも言う。

「ほら!なんかないか?自分が他人の為に感情を起こした事」


 いつだ、人の為に感情を出したのは。

 Vtuberになった時?••••違う。

 自分のリスナーに迷惑を掛けたくないと思った時?••••••••違う。

 影縫くんがトワイライトに入った時?••••••••••••違う違う違う。

 全部的外れだ。

 けれど少しずつ近くなって来た気がした。


 この場にいる人が諭す様に言ってくる。

「誰かの為に怒ったこと、泣いたこと、笑ったこと、何でもいいんだよ」


 誰かの為に怒ったこと、身内()が炎上した時に怒ったことしか•••••••••••••••••••••あれ?


 そこまでに至ると、俺は、俺の脳裏にかかる(もや)がやっと晴れた様な気がした。


 そうだ。夕が炎上した時、俺は何を感じた?


 自分勝手なコメントの発言に、嫌悪を感じた。

 白々しい言葉の数々に、空しさ、悲しさを感じた。

 そして何より、八つ当たりの様にぶつけられる理不尽な炎に対して、()()()()()()


 ••••そうか。分かったぞ。



 ••••。

 ••••••••。

 ••••••••••••••。



「•••••••••••ああ••••••」


 どこか清々しい何かを感じながら、俺は呟いた。


「俺、出来るじゃん•••••」


 蜃気楼の先に晴れ間が見えた気がした。

 

さてさて!千隼が覚醒したと同時に美納葉のやばさが浮き彫りになって来ましたね!

最後まで読んでいただき、感謝です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ