違和感
<配信が始まりました>
「ご機嫌いかが皆々様!延暦寺 小町です!」
「どうも。滑舌が大分良くなってる自覚が出てきて、自分でも驚いている本能寺 我炎です」
『本能寺と延暦寺、配信をしてるやんけェ!?』
『どうしたゲリラ配信なんて』
『↑こいつらならやりかねんぞ』
『でもまだ水曜日やぞ。流石にスパン早くない?いやまぁ我々からすると嬉しい限りなんだけど』
「唐突ですまんな?えーっと、配信については、まぁ追々ツイートする予定なんだけど、今週末の定期配信がなくなりそうだから前倒した感じだな」
「うたてさんがね『今週末は空けといて』って言ってたからね」
「あ、先に言っておくけど。俺達もまだ何をするかは知らないぞ?」
「うたてさんの事だからスタジオとか借りてたりしてね?」
『じゃあ日曜日は配信がないのか』
『配信頻度を高くしてもええんやで?』
『↑高校生やぞ。多いくらいや』
「うーん夏休みだし、頻度を良くしてもいいかもな。まぁそれもうたてブートキャンプが終わってからだけど」
「え!やったぁ!じゃあブートキャンプが終わったら配信毎日しようよ!」
「極端!?頼むから週に3日ぐらいで我慢してくれ!?」
「ちぇっ•••••!」
『いや草』
『延暦寺に答えは二種類しかないのかよw』
『↑二個もあるだけマシと思え』
『↑信頼なさすぎるやろ』
『↑ある意味信頼してると言える』
『信頼と不信は対義語に見えて同じものだからな』
「コメント欄で哲学が始まってんだけど••••?」
『人は一体どこから来てどこに向かうのだろう』
『↑絶望から来て破滅へ向かう』
『↑闇が深そう』
『知とはなんなのか』
『↑知は力だよアニキ!』
『聖属性魔法って"聖"属性なのに"魔"法なのは何故なのか』
『珍しくリスナーがボケる流れで草を禁じ得ない』
『トロッコ問題』
『生命とはどこからどこまでが生命なのか』
『死とはなんなのか』
『ほら本能寺、早く今日の企画を始めないと哲学の問題が増え続けるぞ』
コメント欄が哲学の教科書みたいになってしまった。
このままだと枠の内容が変わってしまう。
「あーえと、今回の枠はですね。ずばり朗読枠です」
「いやね!このブートキャンプで私達も表現力を鍛えた訳ですよ!なんでね!ちょっと特訓の成果を自慢しようかな、と!」
そう言うと、隣にいる美納葉がイナバウアー並みに胸を張る。すると連動して、ノートパソコンの画面に映る延暦寺のアバターが反り返る。現実とは違い、イナバウアーにはならないのだけど。
『朗読会か』
『まともな小説なんだろうな?』
『墨塗り教科書とか読み出さないだろうね?』
『↑やっぱり信用なくて草。というかそれAIKOKUの領分やろ』
『↑おいそんなこと言って、AIKOKU組が来たらどうする!?』
大和 ムサシ『ボクハ ホ兵 ダヨ。』
あきつ 隼『ボクハ シチョウ兵 ダヨ。』
『↑ほら来たァ!?』
『↑兵タイゴッコするのやめてもらっていいですかね?』
『ドヤる延暦寺可愛い』
『自慢』
『成程、つまり成長を見せつけて悦に浸りたい訳ね』
『↑言い方ァ!?』
「うーんまぁそんな感じ」
「酷くない!?」
「実際悦に浸りたいだけだろ」
「ぐ•••••••まぁいい!とりあえず今回はこの本を朗読するから!」
「へいへい。••••何朗読するか聞かされてないけど」
『聞かされてないのかよw』
『案の定』
『いつものことやな!ヨシッ!』
『罪と罰とか?』
『老人と海とか?』
美納葉は脇に置いてあった鞄に徐に手を突っ込み、一冊の本を取り出して言う。
「うーん残念!今回読むのはね〜『走れメロス』!」
『太陽の十倍で走るニキじゃん』
『さらっと犬を蹴飛ばしてる人だ』
『小川を飛び越える人やん』
『身から出た錆のくせに友達に肩代わりしてもらって、尚且つ道中で挫ける男、メロス』
『↑ボロクソ言われてるの草』
『まぁ元ネタの熱海事件が、ねぇ••••』
『元ネタ調べたらメロスを王道熱血主人公に見れなくなるぞ』
『↑片鱗は元の文からある程度分かるけどね』
「メロスの扱いざっつ!?」
「じゃ、とりあえず読み始めるね?ナレーターと王とセリヌンティウスとフィロストラトスは本能寺がやって!」
「おい待て!?それ殆どの役なんじゃ••••!?」
「私はメロスだからね!」
「お前が一番邪智暴虐の王だよ••••」
◆◇◆◇◆
「"私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。身代わりの友を救う為に走るのだ。王の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。"」
『ん?』
『全く殺されそうな声音じゃねぇw』
『さらさら死ぬ気がなさそうw』
『王を殺してあわよくば王に成り変わりそうw』
『↑どっちが奸佞邪智だよ』
▽▲▽▲
「"ああ、鎮めた••••まえ?荒れ狂う流れを?"」
『待て待てなんで疑問符!?』
『友達が死ぬんやぞ!?急げよ!?』
▽▲▽▲
「"「私を殴れ?••••ちから一ぱいに頬を殴れ?"」
『なんなのこの違和感••••?』
『全くメロスの感情に入り込めてないんだけど?????』
『おい誰だよ表現力鍛えたって言った奴』
▽▲▽▲
「"「どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、お前らの仲間の一人にしてほしい。」"」
『••••••••••。』
『うん••••』
『もう何も言うまい』
◆◇◆◇◆
「どうだった!?」
『どうだった!?じゃねーよ』
『最初から最後まで違和感だらけだった』
『そもそも延暦寺がメロス役は解釈違い』
『↑そうでなくてもおかしくはなりそうだけどな』
『わざとそんな風にやってるように思えたぜ』
『↑わざとならマジの天才じゃん。キャラの感情を捻じ曲げるなんて芸当普通できねぇよ』
『無邪気ダナー(遠い目)』
開けたまま小説を閉じ、配信画面を見ると、コメント欄でなかなかの言われようだった。
正直解せない。
確かに所々詰まったりはしたが割としっかりと読めたはずだ。
「うーん。なんか不評だなぁ•••••••そんなに変だったか?」
「滑舌とか?」
『いや滑舌というよりも••••』
『滑舌やないのよ••••なんなら滑舌はもう一級品レベルなのよ••••』
『もしかしてわざとじゃない••••?????』
『↑天才説は無くなって、天災説が浮上したな』
『↑いつも天災定期』
「何がいけなかったんだろ?」
「さぁ?••••ま、とりあえず朗読は終わったし、枠閉じるか?」
「そうだね!」
『過去一後味悪いぞこれ!?』
『なんだこの何かが取れそうで取れない感じ••••』
『放送事故回だった••••いやまぁ常に放送事故してるけど』
<配信が終わりました>
◆◇◆◇◆
赤上 透の自室。
彼はうたてと通話をしていた。
話題は、延暦寺と本能寺によって先程行われた配信についてだ。
赤上はくしゃりと髪を掻き上げ、溜息を溢す。
「ここで朗読会かぁ••••ほんっと間が悪いなぁ。これじゃあ"間"どころか"魔"だ」
≪私にとっても想定外だったなぁ••••≫
二人同時に溜息を吐く。
そんな風に溜息の応酬が続いていく。
「あちゃ〜••••こうなっちゃったかぁ。まぁ、なるべくしてなった感じではあるけど••••」
≪どうするの?≫
「そうだなぁ••••予定早める?金曜日ぐらいにさ。••••本当は日曜日頃にしておきたかったんだけど」
≪それ大丈夫なの?≫
「全然大丈夫。流れ自体は終わってるから」
≪メンバーは?≫
「今回来るメンバーは金曜日でも大丈夫!予定知ってるし」
≪••••メンバー何人だっけ?≫
その問いに赤上はあっけらかんとした様子で返す。
「ざっと100はいるな」
≪••••相変わらずその記憶力凄いね≫
うたては呆れ半分、感嘆半分で返す。
「うたてだって好きなことは覚えられるだろ?俺は友達の事が大好きなんだ。だから覚えてるだけだよ」
≪••••なんて事ないふうに言うけどとんでもないよ?≫
「そうかなぁ••••?」
≪まぁ、それはそれとして、金曜日にずらすんだったら、私の方も詰めていかないとね≫
「ああ、よろしく頼む」
≪まったく••••過去一大変な生徒さんだなぁ••••≫
二人の会話は続き、その話題は来るべき日に向かって煮詰まっていく。
最後まで読んでいただき、感謝です!




