表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染Vtuber、暴走するってよ  作者: 日陰浴
激唱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/159

溶かして加えて固めて砕く

普段慣れない物語より、やっぱりこっちの方が私の性(物語の書き方)に合っていますね。

「二人とも、レポート書いた?」

「うん!」

「あ、はい!」

 俺と美納葉は手に持っていた歌詞カードから視線を離し、近くにあった手頃な台に置く。そして脇に置いていていた一枚のプリントをうたてさんに差し出した。

 このプリント———つまりレポートはうたてさんに歌詞カードと共に渡されたものだ。歌詞に登場する人物の感情やら曲の解釈やらを記入するのである。

 うたてさんはそれをじっと読む。

「••••二人とも、やっぱりプラスとマイナスに振り切ってる。自分の意識(価値観)に乗っ取られすぎ」

「すみません••••」

「そんなに駄目かな?」

「少なくとも、二人とももうちょっと多角的な視点で見れるようにならないと。•••••むぅ」

 特訓が始まって一日が過ぎ、その中で俺達は三、四回程レポートを書いた。けれどうたてさんの返答は何にも変わらない。俺達が悪いのだろうが、どうしても曲の解釈には個人の意見がついてくるものだ。生まれたときから積まれていった価値観がそうそう払拭される訳が無い。

 どうしたものか、とばかりに唸るうたてさん。その背後からガチャリと音がして、赤上さんが現れる。

 彼の手にははち切れんばかりに膨らんだビニール袋があった。袋のロゴを見るにコンビニで買ってきたのだろう。

「手伝いにきたぞ〜!ってああレポートね?どんな感じ?」

「あっちょっと透?」

「まぁまぁ、ちょっとぐらい見せてくれよー」

 赤上さんはうたてさんの頭上からひょいと身を乗り出し、俺達の提出したプリントを掴み取る。••••改めて見るとこの二人の身長差凄いな。大人と子供ぐらいあるぞ。実際には年齢は同じぐらいらしいけど。

「••••別にいいけどさ。」

「どれどれ。『"この世界を敵に回しても君を守るよ"の意味は、"この世界を滅ぼし、散りゆくその様を君と見たい"というもの』••••魔王かな?」

「あ、それ延暦寺ちゃんだね」

 こっわ。その台詞は実際に世界を滅ぼせる立場の台詞なんだわ。うたてさんが否定の言葉を言う理由が少し分かった気がした。

 俺がドン引きした表情をしていると、

「そこでドン引きしてる本能寺くん、かくいう彼もおかしかった」

「えーっと?『"この世界を敵に回しても君を守るよ"という文の作者の意図は、"世界から襲われたとしても、君の側に立ち、共に死のう"というもの』••••死が前提なのかよ。太宰治もドン引きだよ」

 一体どこがおかしいんだ。世界を敵に回すのだから死は決まっているだろ?

 「?」を浮かべる俺達をよそに二人は会話を続ける。

        ◆◇◆◇◆

「••••でもさ?別に自分の考え方で曲を認識するのは別に悪いことじゃあないだろ?」

「けど、流石に普通とは違いすぎる。本能寺くんはネガティブな考えしか出来てないし、美納葉ちゃんはポジティブというよりは価値観が野生動物というか、人の意識を持たない超存在みたいになってる。まだ積極的という部分からプラスに分類出来てるのがマシなぐらい」

「そんなにか」

 赤上はうたてがそこまで言うことに驚き、これは深刻だと思った。

「うん。他の曲にもレポートを書いてもらったけど二人ともスタンスが全く変わらない」

「どんな感じだ?」

 そう尋ねた赤上に対し、うたては一冊のファイルを棚から取り出し、その中から二枚の紙を取り出す。

「確かこのレポートなら二人とも同じ部分に対して記述してたはず」

「この"旅に出よう"って歌詞か?」

「そう。本能寺くんが『死出の旅』延暦寺ちゃんが『強き者を求める旅』。••••因みにこの曲は明るいタイプのラブソング」

「••••••••まじか」

 赤上が天を仰ぐ。

「このままじゃ二人とも人の心を震わせる曲は歌えない。少なくとも『ネガティブでも理解できる』、『ちょっと変だけど分かる』ぐらいにはなって貰わないと」

「そうだなぁ••••二人が何を経験してきたかは知らんが、今みたいに凝り固まってる価値観のままじゃ駄目なのは確かだ」

「二人の価値観を根底から覆す何かが必要」

「うーん••••••••」

 二人は腕組みをして考え込む。


 赤上は他の人よりも友人が多少多くいると思っている。その分沢山の人生や経験を見てきたと思っていた。しかし今回、その中のどの人物にも、本能寺や延暦寺のような存在はいなかった。人間、どこまでネガティブ思考であっても何かしらはポジティブになるものがあるものだ。そして延暦寺、彼女に至ってはイレギュラーな面が多過ぎて判断ができない。


 そんなこと考えながら赤上は()()、そう()()を求める。


 そんな彼らの価値観を崩すもの。

 そんな彼らの価値観を溶かすもの。

 そんな彼らの価値観を砕くもの。

 そんな彼らの価値観を(りょう)すもの。


 •••••••••••••。


 ふと、とあるものが彼の脳裏によぎった。

 煮凝りという料理だ。

 ゼラチン質を含んだ魚や肉を煮詰めたスープが時間が経つことによって、冷え固まったものである。

 彼は無性にこれと彼らの価値観が似ているように感じた。

 それならばと。赤上は思う。

 煮凝りと同じならば。


 ()()()()()()と。


 赤上は顔を上げ、尚も思考を回すうたてに対し言の葉を飛ばす。

「なぁうたて、なんとかできるかもしれねぇ。あくまで賭けだけど」

「透、ほんと?」 

「ああ、けどちょっと準備に時間がかかると思うけど、大丈夫か?」

「具体的には?」

「一週間」

「大丈夫。その間に滑舌系統を仕込む」

「よーし、じゃあそれで行こう。••••あ、準備してる間、あんまりお前のとこ行けないかもだけど、その二人との付き合い方、大丈夫か?」

「透が何に心配してるのかは知らないけど、私をなんだと思ってるの?」

「人間関係クソ雑魚」

「ひどい」

 え、と驚いた後に少しむくれるうたて。

 彼女対し、赤上は念押しするかのように言った。というより、実際念押ししていた。

「兎に角、あんまり気を許し過ぎたら駄目だぞ」

「あのねぇ••••私の人の見る目は確かだよ?」

「あー••••まぁ確かに。()()()()があった訳だしな••••••••うん。じゃ、行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」

 二人はそんな台詞を交わす、その後、少しの間が開き、二人同時に吹き出した。

「••••ははっ!『行ってらっしゃい』って!なんか夫婦みたいだな!」

「ふふっ••••!夫婦って••••私達の柄じゃないでしょ!」

「それもそうだ」

 ひとしきり笑った後、赤上は玄関先へと歩みを進める。

 その途中、うたてが忘れてたと声を掛ける。

「あ、そうだ。とりあえず何するかは教えてよ」

「まぁ追って説明はするけど—————、」

 赤上は不敵に笑い、言った。


「ゼラチンを溶かす火と、混ぜ込む具材を集めるだけだよ」

        ◆◇◆◇◆

      <配信が始まりました>


「ご機嫌いかが皆々様!延暦寺 小町です!」

「どうも。うたてブートキャンプで絶賛特訓中の本能寺 我炎です」


『始まった!』

『数日ぶり!』

『うわ!?滑舌が良くなってる!?』

『声が滑らか!?』

『イケボとカワボになっとる!?』

『↑元よりイケボとカワボやろ』

『↑そもそもVtuberなんだから声に自信がないとできんやろ』

『日曜日だから、ゲーム配信か』


「そりゃ練習してますから!ドヤっ!」

「あーちょっと連絡、今日はうたてさんの家だし、練習がこれからもあるからゲーム配信はなしの方向でいくぞ」

「まぁそもそもゲーム配信用の機材がないしね」


『ドヤる延暦寺可愛い』

『↑普段の行動見てみて?』

『ゲーム配信は無し。相分かった』

『てかうたてブートキャンプって本当にうたて カエルの自宅でしてるのか?』


「うたてさんの自宅でやってるね!」

「つまり俺は燃える」


『ほぇー••••マジやったんか』

『本能寺w全てを悟ったみたいな声してるw』

『燃えるw』

『いつもの事やろ』


「いや別に炎上は怖くないんよ。炎上で人に迷惑かけるのが嫌なだけで」


『炎 上 は 怖 く な い』

『アンチが怒りそうな発言だなぁ』

『まさかのノーダメージ宣言w』

『実際本当に炎上の効果ないんだろうなぁ••••』

『お前ら、いつも誰かしらに迷惑かけてるだろうが、今更じゃ』


「ひどい!ひどいよ皆!」

「おーい延暦寺ー。嘘泣きやめー」

「チッ、バレたか」

「もうとっくにバレてると思う」


『あの延暦寺が泣いてる、だと!?』

『寺虐かわいい』

『↑寺虐なら本能寺も含まれるだろw』

『知 っ て た』

『話変わるけど、うたてブートキャンプってどんな感じなん?』

『↑確かに気になる』


「あーなんだろ、歌詞の朗読とか、滑舌をよくする練習をしてるよ!」

「補足すると、表現力を鍛えるために朗読して、滑舌を鍛えるためにタングトリルとか腹式呼吸、あと早口言葉をしてる」


『へぇ〜案外普通のことをしてるんやな』

『↑それな。音楽ガチ勢のうたてさんのことだから何か特別なことしてるのかと思った』

『まぁ、うたてブートキャンプに参加した人はみんな「特別なことはしてない。ただ長いだけ」って言ってるし』

『うたてさんってやっぱり楽器沢山持ってるのか?』


「うたてさん曰く『基本大事』らしいからね」

「そうそう!」

「楽器はね••••沢山持ってる。一人オーケストラはマジ。一人雅楽もマジ。••••あ、でも母屋?には楽器はなかったね」

「あれ?本能寺聞いてないの?一応、母屋?に楽器は一つだけあるらしいよ?」

「マジで?そりゃ知らなかった。何の楽器?」

「ヴィブラスラップ」

「••••何それ」

「あのびぃぃぃんっ!ってなるやつだよ」

「あー何となく分かったわ。球体と三角形の板が針金でくっついてるやつな」

「そうそれ!」


『本当にうたてさん一人オーケストラできんのか••••(困惑)』

『さらっと受け入れてるけど、一人オーケストラと一人雅楽って何ぞ?』

『一人オーケストラ・一人雅楽•••うたて カエルの奇行の一つ。オーケストラで使う楽器、雅楽で使う楽器を用いて行う。それぞれの楽器で別撮りで一つの楽曲を演奏し、特に編集もせずに合わせるというもの。編集もせずに動画を合わせただけなのに音のズレが全くないのは大いなる謎。』

『↑知識人ナイス』

『知識人ニキ久しぶり』

『母屋ってことはかなり大きな家なの?????』

『↑そりゃ沢山楽器持ってるし当たり前じゃないか?』

『ヴィブラスラップ•••••なにそれ?』

『あー待って••••知ってるかも、ヴィブラスラップ』

『ヴィブラスラップ•••体鳴楽器の一つ。打楽器。キハーダの代用品として用いられる楽器で、二重L字形に曲げられた針金におもりと、鉄片が入った箱がくっついている。おもりを手で叩く、膝に殴りつけるなどして演奏する。』

『↑知識人ニキナイス』

『あー知識人ニキのおかげで分かったわ』

『野生のウィキペディ○みたいだ』


「でも何でヴィブラスラップ?」

「宗教勧誘とか新聞勧誘とかが来たときに便利らしいよ?」

「嫌な予感がするけど、後学のために聞こう。どんな使い方?」

「ヴィブラスラップを鳴らしながら振り回して踊るんだって」

「あの人何してんの?????」


『何でヴィブラスラップなのかは正直気になる』

『宗教勧誘?』

『いや草』

『勧誘員「貴方は神を信じt••••いや何でもありません(そっ閉じ)」』

『wwwww』

『うたてさんがヴィブラスラップ片手に踊ってるのシュール過ぎるw』


 そんなこんなで配信は続いていき、何事も起こる事なく幕は降りた。

        ◆◇◆◇◆

 その夜、一つのツイートが流れた。

———————————————————————

 青下 不透@Vtuber・友達募集!

 皆!いきなりですまねぇが、力を貸して欲しい。詳しい事は言えないから秘密でお願いな?

 力を貸してくれる奴は下のURLから飛んで、回答をしてくれないか?頼む!!!!!

 http://minanorekisiforms/8867K8H18MA3

———————————————————————

最後まで読んでいただき、感謝です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ