やっぱり美納葉は化け物。はっきりわかんだね。
VOMKというイベントに参加することになった。
どうやら歌のイベントらしいが、詳しくは分からない。
分からぬものは調べなければなるまい。ということで、現代電子機器の本領発揮である。
パソコンをオープンセサミして、ネットの波に乗ってサーフィンをするのだ。•••••字面を派手にしても、実際はかちゃかちゃと機械をいじっているだけだな•••••••••うん。一々面倒くさいから今度からやめとこ。
さて、そうしている間にも情報は粗方集まったし、その内容を要約してみよう。
VOMK。
Vtuber original music karaokeの略で、「誰でも気軽に参加!」を謳い文句とするVtuberの歌唱イベントだ。曲はどれでもいいし、人数制限なしのなんでもござれ。
参加条件は簡単。"歌ってみた"または"オリジナル曲"を一つ以上投稿していること。
去年に第一回が開催され、今年は二度目。
人数制限なしと聞くと日程などの色々な問題が生まれそうだけれど、イベントはもとより数日に分けて行う予定なため問題がない。
◆◇◆◇◆
「うーん•••••」
俺は頰杖をつきながら、溜息をこぼす。
溜息の訳はそこまで深刻ではない。単純なものだ。ただ、そこまで行くことが大変なだけ。
「うーん••••••••••••」
再び唸り声を上げる。因みに、これまでにこの光景を五回程繰り返しているのは秘密だ。ここが自室で良かった。
「千隼〜!さっきから溜息を何回もついて何してんの?」
••••訂正。秘密は漏洩したようだ。
「••••美納葉。いつの間に侵入した」
戦闘状態に入りながら、俺は辺りを見回す。
•••••うん。•••••••••自室••••だよな?俺の見間違えじゃなければその筈だ。別の場所に転送されたとかそんな訳じゃない筈だ。
「なんで罠が起動しなかった?????」
鳴子、有刺鉄線、赤外線センサー、撒菱、ワイヤートラップ、トラバサミ。我が家の守護者たる彼らの存在意義を問いたくなった。
内心、動揺や焦燥感に駆られまくる俺だったが、なんとか平静を装う事に成功!そのお陰なのかは定かではないが、少なくともこの間、美納葉に隙を突かれることはなかった。
「罠?何それ?」
「まさか罠とすら思われていないとは」
「••••あっ!あの遊具のこと?」
「••••••••••遊具」
俺の自衛が••••••••••••••遊具かぁ。
俺は気が遠くなるような感覚に陥った。
◆◇◆◇◆
「で、結局何しに来たんだ?音も無く侵入してくるぐらいだ。何か用事があるんだろ?」
少し経ち、立ち直った俺は美納葉に問い掛ける。
美納葉はハッとした様な表情をした。
「そうそう!話したい事があったんだった!」
「おい美納葉!?さては忘れてたな!?」
「うん!」
「即答かよ!?」
ややあって、美納葉は用件を話し始める。
「えっとね••••?VOMKの事なんだけどさ?これからどうすればいいかなって?」
「••••奇遇だな。俺がさっき唸ってたのも同じ理由だ。••••というかノープランだったのかよ!?」
「イエース!••••キリスト!」
「喧しいわ!」
「免罪符は?」
「受け付けねぇよコンチクショウ!プロテスタントするぞ!」
世界中のキリスト教徒に怒られろ。
世界宗教人口の約30%だぞ。
俺は美納葉を引っ叩こうと近寄るが、ひょいと避けられる。
諦めに近い溜息を俺はこぼす。
「はぁ••••で?ノープランだから俺になんとかしろと?」
「いや違う!プランはちゃんとあるぜ!」
「一体どっちなんだよ!?はっきりしろ!?」
全くこいつの内面が読み取れない件。
「実はねさっきまでノープランだったんだけど、ついさっきいい方法を思いついたんだ!」
つまり、俺の所に来るまではノープランだったが、今思いついたと。ふむふむふむ••••。
信 用 で き ね ぇ • • • • 。
「やだよ!?俺そんな確証のかけらもない方法!?」
「まぁまぁ••••まだ聞いてもいないじゃん?」
「いやさ?それもそうだけどさ?お前の考えることって何が起こるか分からないじゃん!?」
「ランダムで楽しいじゃん!」
「このクソッタレのギャンブラーめ!」
「人生はね••••••博打なんだよ?」
「うん。ちょっと割合減らそっか?」
「え、安牌の?」
「博打のだよ!?」
美納葉が頓珍漢な発言を繰り返し、それに俺が訂正で殴りつけるという形で、話が平行線を辿る。
そんな中で、また美納葉が一石を投じた。••••一石どころか百石ぐらい投げてそうだけど。
最早、石投げすぎて枯山水できそうなんよ。
美納葉は俺の手首をむんずと掴むと、自室の窓に早足で向かう。
「え、ちょい待て!?窓窓窓!?待て待て待て!?」
「とーにーかーく!ついてこい!」
「ぎゃあぁぁぁああぁぁぁあああ!?!?」
俺を引き摺ったまま、美納葉は窓にタックルを仕掛ける。間違いなく、悪質タックル。••••いや、タックルに悪質も良質もあるのだろうか?
パシビシーン!と軽い音が鳴り響いた。
美納葉は音も無く道路に着地し、猛烈な勢いで走り出した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!?」
砂埃を巻き上げながら走る美納葉に全力でしがみつく。
風圧ッ!?圧倒的風圧ッ!?これ手の力を少しでも緩めたら死ぬッ!?というか少しでもこの化け物の速度を緩めないと死ぬ!?
俺は全速力で口車を回転させた。
「美納葉ァ!?頼むから速度を落としてくれないかなぁ!?というかお前あんな風に窓割ってたのかよ!?」
「速度落としたくなーい!」
「そもそも俺は靴を履いてないんだけどなあああああぁぁぁッ!?」
美納葉が加速しながら言う。
「大丈夫!私は靴履いてるから!」
「あ゛!?それっておまっ!?土足で俺の家入ったのか!?ふっざけんな!?掃除大変なんだぞってぎゃああぁあああぁぁぁぁぁぁッッッ!?」
再加速。
俺は止まらぬ暴走特急に全力でしがみつくのだった。
◆◇◆◇◆
美納葉が足を止めた。
知らないコンクリートの壁に、知らない玄関の扉。
終着点は恐らくアパート。それもかなり古い。
俺が見たことない場所であった。
美納葉は辺りをきょろきょろと見回す俺をスルーして、アパートへと入っていく。
「おい!?ちょい待て!?というかいい加減に腕を離せ!?」
そう。美納葉は未だに俺の手首をガッチリホールドして離さない。おまけに鉞担いだ金太郎よろしく俺を肩に背負い込んでいる。
気分はまるで米俵。機嫌は地獄で鬼瓦、である。
「やだ!だって逃げるじゃん!」
「俺のことをよくお分かりなようで!」
くそっ!どさくさに紛れる作戦は失敗か!
美納葉は話している間もずんずんと進んで行く。
「あーもう!一体全体何なんだ!絶対後で一切合切説明してもらうぞてめぇ!?」
そして、一つの部屋の前で止まった。
ドスンと地面に俺は叩き付けられる。全力で床に打ち付けられたからか、また美納葉にしがみついた時の疲労なのか、はたまたその両方なのか身体が痺れて動けない。
「痛っつぅ••••••••••!」
俺を叩き付けた美納葉は徐に手を挙げ、インターフォンを押した。
「はーい」
扉の奥から声が聞こえる。少年の声だ。
留守番か?と思っているとガチャリと扉が開いた。
そこには————、
「いらっしゃい。美納葉ちゃん、千隼くん••••ってあれ?千隼くん、どうして裸足なの?」
我らがトワイライトプロダクション・ライバーズ所属であり、有能合法ショタ男である影縫 ミナトがキョトンと首を傾げて立っていた。
最後まで読んでいただき、感謝です!
少々、お知らせをば。
今回、次回と通常回が続く事になります。スレッド回はもう少し後になる予定です。




