波乱と帰還
今回でAIKOKU炎上編は完結となります!
地獄の実写で実射配信を乗り越え、俺達はグアム旅行最後の日を迎えていた。のんびりとグアムの街と食事を楽しもうと料理店に入った。
のだが。
「美味ぇ!」
「お客様!?店内でブレイクダンスするのはやめてもらえませんか!?」
店内の机がガッタガタ揺れる。非常に食べにくい。というか皿を落としそうで怖い。
状況を説明すると、美納葉が店内で踊り狂っているのを、日本人店員の方が全力でストップをかけるという絵面である。頼むからやめてくれ。最後ぐらい静かにできないのか。
「あー駄目ですね。この人ご飯が美味しいと踊り出すんで」
嘘である。コイツが踊り出すとか踊り出さないとか、そんなのは俺が預かり知る所ではない。あ、でも、今回は食事の美味さへの舞なのだから多少は嘘ではないのかな?
「だからといって何でブレイクダンス!?ここはストリートじゃないんですよ!?あ、あとご飯が美味しいと言ってくれたのは素直に嬉しいです」
••••何だこの店員、聖人か?普通の人なら店内でブレイクダンスされたら激昂するぞ?
そう俺が考えてる間にも美納葉は止まらない。というか止められない。
止めるにしても、ご飯を終えるまでは待って欲しい。今食事を中断すると、隣の席でキラキラと目を光らせ、タバスコの瓶やらカラシのチューブやらを握り締めている夕に何をされるか分からない。
あとちょっとで食べ終わるから、待ってて店員さん。
そういえば、一緒に来たはずのAIKOKUの人達がやけに静かだな••••?席が足りなくて別のテーブルになったとはいえ、明らかにおかしい。
件のテーブルに目を向ける。
「うんうん!美味しいからね!仕方ない仕方ない!いやー酒が進む!」
「わーい!ビールとソーセージ!」
「あっ!アレフチーナまた酒缶開けてる!?」
「日本酒ってないかな?ヒロポン入りのやつ」
「普通に法律違反ですよ、ヒロポン。ていうかあんた飲んだことないでしょ」
••••俺達を肴に酒を飲んでいた。このやろう。まだ朝だぞ。それに色々とギリギリな発言もしているし。本当にこの人達は現代人なのだろうか?
ダメな大人達はさておき、俺は食事を終えて美納葉を止めにかかろうと立ち上がる。••••おい夕、今溜息ついたの見逃してないからな。
じろりと睨みつけると、夕は顔を青白くしながらスッーっと視界外へスライドしていった。
さて、夕は置いておいて美納葉だ。
俺は視線を夕から美納葉に移すと、片手で倒立した状態でぴょんくるひょい、と回転する姿があった。1990という技だっけ?まぁ、どうでもいいか。
俺はその背後に忍び寄り、身体を支える片腕に蹴りを放つ。
「積年の怨み!くたばれぇっ!」
相手は片腕で全身を支えている状態、それのバランスが崩れさえすれば、頭が床に真っ逆さま、すぐに鎮圧できる。
そのまま頭しこたま打ちつけてしまえ。あわよくばその衝撃で記憶でも無くなってしまえ。記憶がなくなったら"お淑やかな少女"の記憶を植え付けてやる。
振り抜いた足が美納葉の腕に命中するのをこの目で確認すると、ズボンのベルトに巻き付けておいたワイヤーロープを引き抜く。からの、そのままの勢いで捕縛••••の筈だったんだけど••••。
「あらよいっ!」
美納葉は腕を蹴られるや否や、飛び上がり、その後空中で2•3回ほど回転し俺の肩へ飛び乗った••••••••••いや、どゆこと?
蹴られる寸前に腕に力を込めて飛び上がったのはまだ分かる。けれどその飛び上がりで俺の肩まで来るのがおかしい。絶対推進力足りてねぇだろ。
「ふははははは!その程度で私を止められるとでも思ったか千隼ァ!!!!!」
「糞が!相変わらず出鱈目な性能してやがる!」
「会話がどこぞののロボットアニメなんよ」
「黙れ夕!さっきまで虎視眈々と隙を窺っていた癖に!」
「ちっ••••バレていたのか••••!薄々気付いてはいたが••••!」
俺の幼馴染にまともな奴がいない件。誰か助けて。
俺は酒飲みの思想家達と頭のおかしい幼馴染に囲まれ、その対処に悪戦苦闘するのであった。
◆◇◆◇◆
<配信が始まりました>
「ご機嫌いかが皆々様!延暦寺 小町です!」
「どうも。グアムの店でブレイクダンスした挙句、街へ繰り出した馬鹿を止めるのに苦労した本能寺 我炎です」
何をとち狂ったのか、この美納葉が「最後にグアムで配信がしたい!」と言い出した。飛行機まであと2時間もないんだぞ。いい加減にしてくれ。
『まさかまたグアムで配信するとは••••』
『指人形配信再び』
『てかなんて?』
『現地の人とばっちりすぎるw』
『www』
「ブレイクダンスの話はやめてくれ••••思い出したくない••••」
あの後、テンションの上がった美納葉が代金を払うことを無視して街に飛び出したんだ。本っ当に、大変だった。急いで全員分の代金を払って店を出たら、美納葉の姿が見えなかったんだから。
もうグアムの街中を走り回りたくない。最後らへん、足がパンパンだったもん。
『あ〜••••••••••••ご愁傷様です』
『あ(察し)』
『本能寺の声から疲れが滲み出ているw』
『本能寺不憫タイムキタコレ!』
『できればその場面に付き添ってみたかった』
「やめとけ。街中で発狂する現地の不良を見たくはないだろ?」
『一体何があったんや•••••••••••?』
『不良さんのご冥福をお祈りします』
『不良「解せぬ」』
『何を見てしまったんだ••••••?』
「え?そんなことあったっけ?遊んでもらった記憶はあるけど?」
「残念ながら猿叫を相手に浴びせて飛び掛かるのは遊びとは言わないぞ」
「え〜?あの男の子楽しそうだったよ?」
「どこが?迫力で漏らしてたぞあの子。••••あーあと、あの子軽犯罪者だから」
「え?」
『猿叫を男の子に浴びせるなw』
『いやなんで?』
『延暦寺は薩摩藩だった?』
『↑いやまぁ、よく知恵捨ててるし。実質チェストやろ』
『軽犯罪者って••••ひったくりとかスリとかか?』
『↑多分そう。それにしても、延暦寺から物をスろうと思うとは、可哀想なやつだ』
「因みに俺らは男の子って呼んでるけど、全然成人してるおじさんだった」
「でも童顔だったじゃん!」
「童顔だからといって中年なのは変わらんのよ」
「髭ボーボーだったしね!」
『おっさんだったのかよw』
『ショタを想像してたのに••••!』
『いやおじさんを失禁させる猿叫って••••』
『↑冷静に考えたらヤベェな』
『流石我らが狂人、延暦寺だ』
『いやまじでその風景見てみたいわ』
「いや本当にお勧めしないから!?労力半端ないから!?」
『あの準人外の本能寺がそこまで言うのか!?』
『そんなにやばいの?』
「やばい。まず、俺が延暦寺を捕獲してホテルに戻ったのがついさっきなのよ」
『ついさっきって••••今が18時だから••••17時ぐらいか?』
『↑多分そうじゃない?』
『あ、もうオチが読めてきた』
「もう察してる焼き討ち組がいるんだけど••••まぁ恐らくご想像の通りだよ。そう。延暦寺が店を飛び出したのが朝の8時ぐらいだったんだ」
つまり、俺は約10時間、美納葉を探し回った事になる。
『ひえ••••こわ』
『本能寺も大概な体力してる••••』
『10時間ェ』
『軽率でした。あんたらの体力についていけるわけがない』
『本能寺が化け物じゃなかったらどうなっていたことか••••』
『↑少なくとも、街中で延暦寺が暴走していたな』
コメント欄で俺まで人外扱いされ始めた。解せぬ。人外は美納葉だけで十分だろ。
それからの配信は、雑談を中心に行われた。絵面は相変わらず指人形で、ひたすらシュールであったが、まぁ、なんとかはなった。
◆◇◆◇◆
長かったグアム旅が終わり、日本に到着した。
気圧の違いでまだ耳がキンとするが、美納葉に耳元で叫ばれた時よりよっぽどマシだ。
空港と飛行機とを繋ぐ蛇腹の道を進む。
空港から外に出ると、だだっ広い駐車場が顔を見せる。
AIKOKU組は全員酔い潰れていて、互いが互いを支え合う状態である。
彼らと別れて俺と美納葉、夕はバス停のベンチに座った。
やがてバスが到着し、ぷしゅーと気の抜けた音と共にドアが開く。
乗り込んで席に座ると、三人とも疲れが出たのか、途端に眠りについた。
◆◇◆◇◆
親が駅で迎えに来てくれたので、そこで二人と共に車に乗り込んだ。
二人を家に送った後、家に向かう。
家に着くと、洗濯籠にグアムで使った着替えを放り込むと、部屋に向かう。
久しぶりに自分の罠を解除するので、少々手こずった。
部屋に帰るとパソコンを起動し、編集の続きを始める。何しろこの旅行中、まともに動画編集が出来ていないのだ。早く新しい動画を作って投稿しなければ。
今までの動画のウケを確認しようと動画アプリを起動する。
すると、
「あれ••••?」
収益化のお知らせが届いていた。
なんと旅行中に申請が通っていたらしい。
さて、
「これから忙しくなるぞ」
そうして俺達は、Vtuber活動に本腰を入れ始める事になるのだった。
そして、俺はその中でさらなるキワモノVtuberと邂逅する事になるのであった。
最後まで読んでいただき、感謝です!
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