かつて女子会だったもの。
因みに私は女子会に参加したことがありません。勿論男子会にも。••••というか、女子会の対義語って男子会でいいのか?
時間は少し遡って、女性陣の部屋。
◆◇◆◇◆
私こと下凪 夕と美納葉は、半ば小走りになりながら部屋の扉を開けた。わくわくが止まらない、というやつだ。
対するAIKOKUさん達は私達の後ろからゆったりと歩いてくる。うぬぬ、これが大人の余裕というやつなのか••••!
私達が泊まる部屋は五人部屋というのもあってか、かなり大きめだった。
「わ、広い!」
「ひゃっはー!ほーてーるーだー!」
「うんうん!」
「いい宿ですね。ドイツさん」
「そうですね。ソ連さん」
各々が歓声を上げる。••••まぁ一部の人は歓声じゃなくて、独ソ不可侵条約みたいな空気になってたけど。
私は自分のベッドに座ると、スーツケースを開き、荷物の整理を始めた。明日の持ち物とか色々揃えておくためだ。当日になってから慌てて準備していては目も当てられないからね。
とはいっても、私は明日の予定は知らない。だから財布とかハンカチとかを入れるだけだ。
美納葉はというと、スーツケースをベッドの上へ放り投げていた。美納葉らしいといえばらしい。スーツケースを投げた手が片手だったことについては、最早何も言うまい。
「シャワー空いたよ〜」
カラーシュニコフさんが浴室からひょっこり顔を出した。
何でシャワー?と思うかもしれないけど、私達は空港からホテルまで歩いて移動したのだ。そりゃ汗もかくよね?
それに、日本からグアムへの直行便は四時間程だ。私達は昼の便で出たので、着いた頃にはもう夕方になる。遊ぶのは明日に回すからシャワーを浴びてゆったりする、という訳だ。
少しして、全員がシャワーを浴び終えた。
ベッドにぽすりと寝転がり、呟く。
「••••それにしても、結構歩いたな」
空港から案外遠かったな。やはり地図は当てにならん。
多少の疲れを感じ瞼を閉じた。
私は食事までの間、惰眠を貪るのだ。心の議会が決定した!
絶妙に柔らかいベッドの波に身を任せていると、
「夕〜!!!!!」
「うぐわっ!?」
美納葉がジャーマンスープレックスをかましてきた。ベッドの上じゃなきゃ大ダメージだったよ!?というか、寝転がってる相手にどうやってやったんだ?
「あのねぇ••••?」
「ふふふふふ!」
「私は千隼じゃないんだからさ加減してよね!」
「夕なら大丈夫!」
「どこがだよ!••••って髪ボサボサになってるぅ!?」
「もう一度入ってきたらいいじゃん!何なら三回目ぐらい入った?」
「私は国民的アニメのおさげ髪の女の子か!?」
「♪あたまテカテカ♪さえてピカピカ!」
「♪それがどうした♪ぼくドラえも○!••••じゃない!?」
流されてる場合じゃないぞ私!?
私は美納葉の肩をがっちり掴むと諭すような口調で言った。
「あのね?普通の人にはジャーマンスープレックスをしちゃダメだよ!」
「なんで?千隼は全然大丈夫だったよ?」
「あれは特別だから」
「千隼は凄いからね!唯一私と渡り合える!」
そんな中、AIKOKUさん達が会話に混ざり始める。
「君ら幼馴染に対する扱いひどくない?」
「美納葉ちゃんの台詞がラスボスのやつなんよ」
「中々にバイオレンスな関係だな」
そうかなぁ?至って普通の幼馴染関係だと思うけど?
「おいこの子達、心底不思議そうな顔してるぞ」
「やべーなこりゃ」
「千隼くんが可哀想になってきた」
◆◇◆◇◆
それから少しして、美納葉がやっと私の話を理解したみたいで、若干俯きながらぶつぶつと呟いていた。
「そっか••••普通の人にジャーマンスープレックスはダメなのか••••!」
「そうだよ!やるなら千隼だけにしてあげてね?」
「分かった!」
頼んだ千隼!私達普通の人間の盾になってくれ!君の生贄精神は忘れない!••••てかこの会話録音しておいたら良かったな。千隼に聞かせたらどんな反応するんだろ?••••くそう。しくじった。
「この子実は一番鬼畜なのでは?」
「私は少しだけ悪戯好きの女子高校生ですよ?」
「悪戯の意味合いが違う気がする」
「うん••••品行が良くないって意味の悪戯だよね?」
失敬な。私は品行方正です。
◆◇◆◇◆
「それで?美納葉は結局何が話したくて、私にジャーマンスープレックスをしたの?」
「字面だけ見ると中々のパワーワードだな!?」
「えっとね!女子会してみたくてスープレックスったの!」
「『スープレックスったの』!?」
成程、どうやら美納葉は女子会をご所望らしい。
そういえば、配信の時に『てぇてぇ』っていうコメントがあったな。もっぱら女性ライバーと絡んだ時に多かったっけ?今回みたいな女子会も『てぇてぇ』に含まれたりするのかな。
それはそうと、はてさてどうしたものか。私、女子会したことないんだよなぁ。
私が頭を回していると、女子会という単語を聞いてAIKOKUさん達がざわめき出した。
「女子会か!」
「ふっ••••乙女トーク、よろしいか?」
「アレフチーナ、お前もう酔ってるんじゃないか?」
「あたぼうよ!風呂で呑む酒は最高だぜ!」
「このホテルシャワーだぞ。どうやって呑んだんだよ」
「浴びたんじゃない?」
水を得た魚の如く表情を輝かせる三名。••••あんな頭のおかしい配信をしてるのに、ちゃんと女の子してんだなぁ。
んー••••さて。何話そうか?乙女トーク••••ねぇ?恋バナとかでいいんだろうか?というかそれしか知らん。
「やっぱり恋バナとかするんです?」
「「「「恋バナ!」」」」
食いつき凄いな。雛鳥かよ。
「いや〜••••やっぱり女子会なら恋バナだな!」
しみじみと頷く大和さん。
恋愛事情をそんなベラベラ話してもいいのかな?でも昔、女子会での恋バナって牽制って聞いたことがあったような••••?え、まさか私の知り合いに恋慕を?
私の胸の内はさて置いて、女子会が始まったのだった。
「はいはいはい!私!私から話す!」
「おっ!威勢がいいね美納葉ちゃん!」
「私が好きなのはね〜!千隼!」
「「「うん、知ってる」」」
そりゃあんな好き好きアピールしてたら誰でも気付くわ。まぁその肝心な好き好きアピールが動物の求愛レベルなのが玉に瑕だけど。
それから、一人一人が順番で好きな人について話すという、百物語みたいな形式で会話が進んだ。
「断然戦艦長門だな!あの屈曲煙突が何ともチャーミングで••••」
「私はね〜戦艦バイエルンかな!あの38センチ砲が私を惹きつけてやまないんだ!」
「LaGG-3かなぁ!結構好きなんだよあのフォルム!」
「「『保証付きの塗装済み棺桶』って呼ばれてたのに?」」
うん。こりゃ牽制の説は完膚なきまでに消滅したな。身近な人の訳ないもん。何なら人ですらないもん。
「「「私のだからね!取らないでよ!」」」
「牽制だったの!?」
取らないよ。というかもうこの世にないよ。
◆◇◆◇◆
「それでそれで?夕ちゃんは誰が好きなの?金剛?それとも酒匂?」
「いやいやBf109でしょ?」
「I-153だろぉがー!」
「いや知らん知らん知らん!?勝手に軍事好きにしないで!?」
危ない危ない。気を抜くとこの人達に飲み込まれてしまう。
私が意識を引き締めたところで、次は私とばかりに美納葉がしゃしゃり出て来た。
「やっぱり千隼?千隼?」
「はい?」
「夕ならいいよ?ハーレムしよ?」
「何言ってんだテメェ!?倫理観月まで飛ばしたのかよ!?」
「倫理観?」
「おい誰か倫理の月面探査機持ってこい!」
しまった、口が悪くなった。
この子は一体全体何を言ってるんだ?私が準人外代表の千隼を好きになる?あり得ないあり得ない。
私は美納葉と千隼の絡みを檻の外で見れたら十分なのよ。
そもそも、幼馴染で友人の立場じゃなかったら近づくことすらなかっただろうし。
その旨を伝えると、美納葉は信じられないものを見るような顔で叫んだ。
「ええ〜うっそだぁ!絶対千隼のこと好きだよ」
「なんだこのうざい後輩感。すっごいしばきたい」
いつ、どこで、誰がそんなこと言ったんだよ。
「そうだ!千隼に聞いてみよう!ハーレムしていいかどうか!」
「?????」
わけがわからないよ。どういう思考回路したらそんな考えが思いつくのだろうか?
私が宇宙猫になっていると、唐突にルガーさんがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「よし!美納葉ちゃん!今から行こうか!」
「勿論!行くぜ行くぜ行くぜー!!!!!」
言うや否や、どたばたがっしゃんという擬音を残して二人は部屋を飛び出して行った。
面倒くさいことになって来たなと、私は溜息を溢した。
••••一瞬、千隼の発狂する様を煽ろうかなと考えたのは内緒である。
◆◇◆◇◆
「この野郎反省しやがれ」
「やだ!」
「やだじゃねぇよ!」
「ねぇねぇ私まで縛る必要なかったんじゃない?」
「ルガーさん。あんたも同罪です。そのまま廊下で巻かれといてください」
レスリング選手顔負けのタックルを扉に仕掛けた美納葉と、その金魚のフンだったルガーさんをなんとか鎮圧した俺は、簀巻きとなった二人を廊下に放り投げる。
「やめてぇ!衆人環視がきつい!恥ずかしい!」
「スタッフさんが見てるゥ!」
「さっきまでのあんたらの行動の方が恥ずかしいよ!というか、海外に来てまで醜態を晒すなよ!?」
途端に反論と不満を口々に発する馬鹿ども。何様なんだよお前らは。
「お、ええんか?そんな態度でええんか?こちとら天下のAIKOKU様やぞ!トワライを炎上させるぐらい造作もないんやぞ!」
「何で急に関西弁もどき!?てかさりげなくえげつない脅しをかけないでもらえますかねぇ!?」
それ以前に本社が絶賛(物理的に)炎上してる人の台詞じゃねぇんだわ。
「えいっ!」
「あっこいつロープ引きちぎりやがった!?大事なストックだったのに!」
「私は自由だ!!!!!!」
美納葉は扉に再びタックルを繰り返し始めた。ここまでくると闘牛を見てる気分になってくる。まぁ、そんな呑気な代物じゃないんだけど。なんかミシミシ鳴り出したし。鉄製の扉なのに。
あ、マズい。いい加減扉の耐久値が限界そうだ。俺は焦りながら、美納葉をふんじばった。
「HO☆DO☆KE」
「やだよ。そして何でどこぞの決闘者風なんだよ」
ばたばたと暴れ、それを必死に押さえる。
こいつときたら••••客観的に見たらまな板の鯉状態なのは美納葉なのに、実際は俺の方がまな板の鯉状態ってなんかのバグだろ。
まな板の鯉がゲシュタルト崩壊しそうになる俺であった。
◆◇◆◇◆
ドタバタの翌日である。
「さぁ!配信をしようか!」
「はい?」
俺達が観光に訪れた場所で、大和さんが声高に言った。
どうやら配信をするらしい。あれ?AIKOKUの本社って焼けて配信出来なくなってるって聞いたんだけど?
俺は冷や汗を滝のように流しながら、SNSを開いた。
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延暦寺 小町@Vtuber・トワイライトプロダクション・ライバーズ所属
明日配信するよ〜!コラボ配信だ〜!
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大和 ムサシ@Vtuber・AIKOKU大日本支部
明日は延暦寺ちゃん達とコラボだ!••••一応ドイツ組とロシア組も。
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••••あーハイ。
俺はキリキリと痛むお腹に力を入れて、声を絞り出した。
「••••どうやってするつもりですか?」
「ん?配信かい?」
大体予想は出来ていたが、その予想から逃避するように声を続ける。
「はい」
大和さんはさも当然かのように言った。
「実写だよ」
「拒否権を行使します」
「そうか。では特別高等警察を••••」
「おいやめろ!?特高はやめろ!?」
この人が言い出したら本当になりそうで怖い。
「何で実写で配信なんですか!?俺達Vtuberですよね!?」
「意外とする人いるぞ?実写」
「イカれてやがるよ••••」
「大丈夫だ!顔出しはしないぞ!手出しはするが」
「そりゃ顔出ししてしまったらVtuberとは言えないでしょうよ」
というか手出しってなんだよ。暴力振るってるみたいになってるよ。そこは「手を写す」でいいでしょ。
こうして、俺はVtuberなのに実写で配信をする羽目になったのであった。
最後まで読んでいただき、感謝です。
次回は通常話の予定です。




