方向性
配信が終わり、俺はデスクに頭を埋めた。
「づがれだ」
「えー!何で止めちゃうの!」
そうしていると横に居る美納葉が俺を揺すってきた。頭がデスクに擦れて痛くて熱い。消しゴムってこんな気持ちなのかな?
「やーめーろー俺の頭を擦っても何も出ないぞー」
「今から枠取り直そうよ〜」
「枠じゃなくて動画は今から撮るから我慢しろ」
そう。俺はAIKOKUの奴らと俺のミスのせいで動画を撮影しなければならないのだ。
今回のコラボ配信のために交換したディスコードに連絡を入れた。
≪動画撮影の準備よろしくお願いします。≫
今回はなるべく配信の雰囲気の動画を作りたいため、非公開のライブ配信を行って、それのアーカイブを元に動画を作ろうかなと思う。
非公開にするくらいならなら配信しろやと思われるかもしれんが、今のままの空気で公開配信をすると炎上必至なほど右に偏ってしまう。そんなのは嫌だ。絶対嫌だ。あの人達と同じ分類にカテゴライズされたくない。
そう考えていると、ディスコードにそれぞれの連絡が返ってきた。
閑居 かむな≪全員準備できてるぜ≫
≪じゃあ招待リンク送るんで、それをタップして参加して下さい≫
俺は動画サイトでリンクをメンバーのチャンネルに送る。
程なくして、他チャンネルがゲストとして配信に入って、企画が始まった。
◆◇◆◇◆
<非公開配信が始まりました>
「はい。全員戻って来たな?」
「ねぇ本能寺ー!今からでも公開配信にやり直そうよ!」
「死んでも嫌だ」
「じゃあ一回死ぬ?」
「急にサイコパスになるじゃん・・・・」
「一緒に死のう!愛しているの!」
「お前は太宰治か!?というかそんなキャラじゃねーだろお前ェ!?」
「Ilove you!」
「おいやめろ近付くな!離れろ!」
「今だけは悲しい歌、聞きたくないよ!」
「○崎豊じゃねーんだよ。そんなハイテンションで歌うIlove youがあるかよ!?」
「Ilove油〜!」
「ドカ食い気絶部かな?」
美納葉が俺にしがみついて来た。その単語だけでは微笑ましいものだが、実際は身体の穴という穴から内臓が飛び出そうな感覚である。
つまりすごく痛い。さながら地獄である。
けれど、他の面々はそうは感じなかったようで。
「うむうむ。これが青春か」
「てぇてぇ」
「仲良いね〜二人揃って養子くる?」
「このリア充が!」
「ラブコメかららか」
生暖かい目でこちらを見てくる(とは言っても、通話内だが)この人達に同じ責め苦を味わわせたいと思った。というか、誰がリア充じゃ誰が!どっちかというと、「リアルに」「害獣」でリア獣なんだよ。
「あんまりふざけてると、変な所で切り抜きますよ」
「「「「「「「「「ご勘弁を」」」」」」」」」
一瞬で静かになった。
◆◇◆◇◆
「はい。落ち着いたところで、クイズを始めます」
「落ち着いたというか黙らされたというか・・・・」
「閑居。切り抜き」
「落ち着きました」
「パワーバランスがいつの間にか出来てるんだけど・・・・」
「では問題、どん」
≪Q マディバやタタという愛称で親しまれた、南アフリカ共和国の第8代目大統領の名前を答えなさい。≫
「これの答えは"ネルソン・マンデラ"。1993年にノーベル平和賞を受賞したほどの偉人だな」
「流石にこれを間違えるのはないと思うんだけど?」
「それがね影縫くん。いるんだよ」
「どこの閑居だろうね?」
「大和!?ひどくねぇ!?」
「因みに閑居さんじゃないぞ」
「なーんだ」
「何だとは何だ!俺だってこれぐらいできらぁ!」
「閑居さんが間違えたのはその次の問題ですよ」
「えっ!?」
「草」
「流石閑居!期待を裏切らない!」
「はい。では珍回答、どん」
≪アノトガスター・ドラゴンフライ 回答
ネルソン曼荼羅≫
「はい。アノトガスターさんの回答でした。俺としては、何故アフリカ圏で曼荼羅の漢字が出てくるのかが分からなかったです」
「え、この名前って間違ってたの!?」
「誰だよこの人に歴史教えた人」
「ネwルwソwンw曼w荼w羅w」
「いや誰だよw」
「草ァ!」
「急に仏教徒になるやん」
「バチクソにクリスチャン圏なのに曼荼羅があってたまるか」
「皆さんごもっとも。次の問題行くぞー、どん」
「テンポ早くない?」
「早く編集したいからな」
「メタァ」
≪Q ベトナム社会主義共和国の首都の名前を答えなさい。また、由来を答えなさい。≫
「答えは"ホーチミン"。由来は"ホー・チ・ミン初代国家主席にちなんで付けられた"だな。この問題実は、由来だけ答えさせようと思ったんだけど、それだけじゃなんか物足りなくなって、一個増やした」
「余計なことしやがって」
「ん?閑居くん?なんか言った?」
「ヴェッ、マリモ!」
「よし、珍回答行こう。どん」
≪閑居 かむな 回答
名前 サイパン
由来 賽の目に切られたパン≫
≪大和 ムサシ
名前 サイゴン
由来 サイのゴン毛≫
≪あきつ 隼
名前 ベトコン
由来 御国の為に闘った英霊に敬意を示す為≫
「何でこうなるのかなぁ?」
「それな。まぁ添削すると、「ン」しか合ってる部分がないです」
「そんな適当でいいの?」
「知らないよ。・・・・あー、番惜しいのは大和さんの"サイゴン"じゃない?一応ベトナムの昔の首都名だし」
「なんて投げやりな・・・・」
「何でマリアナ諸島がこんなところに来てるんでありますか!?」
「サイパンは場所が違うのではないか?」
「あきつさん、大和さん?自分の回答見てから言ってくれませんかねぇ?」
「サ イ の ゴ ン 毛」
「何なのサイのゴン毛って!?」
「大和さんまで割とまともな珍回答だったのに・・・・」
「↑言うてまともか?」
「まともな珍回答ってなんじゃろめ?本能寺くん?」
「俺が知るかよ・・・・」
「本能寺に疲れが見られる・・・・」
「もう過労死してもいいと思う」
「バーチャル労働基準法の施工頼みます・・・・あ、そうだ。これで珍回答は終わりだぞ」
「あ、そうなの?」
「まぁ、元々40分ちょいの枠に収めるつもりだったしな。と言うことで、告知タイムだ!AIKOKU組から一人一人順番でしてくれ」
俺がそう言うと、他のメンバーがすぐさまミュートをし始める。・・・・こんな所はプロなんだよなぁ・・・・。
因みに個人の面々には事前に「告知します?」と聞いておいた。結果数名が告知があるそう。
「承知しました。我々AIKOKU大日本帝国支部では、オリジナル楽曲『ハッコウ→イチウ』を配信しました」
「皆んなも尊王活動、略して王活に励もう!」
そんなもん励むなよ。お犬様のエサにでもしてしまえ、と思ったが、敢えて口には出さない。面倒なことになりそうだから。
次に閑居さんが口を開いた。ひどくスムーズである。事前に準備しておいて良かったと心底感じた。
「俺の番!俺、閑居 かむなは『VOMK』に向けて楽曲作成を始めるぜ!」
それから次々と告知は進む。
「私の告知は、新グッズ『アノトガスター監修昆虫食スターターパック』の予約が開始したことだよ!来ないかい?こっちの沼へ?」
「コメ=クエです。私が育てた米がいつでも通販で買えます。一家団欒のお供にどうぞ!」
その後配信を閉じる前にする定型文を一人一人言ったのち、枠を閉じる。
正直、動画にするのだから別に要らない部分なのだが、これはもう習慣のようなもので、ついつい言ってしまう。
<非公開配信が終わりました>
◆◇◆◇◆
「・・・・ふぅ」
コラボも無事(?)終わり、俺は椅子にもたれかかる。
デスクの上のスマートフォンを手に取り、コラボ相手にお礼の連絡、SNSにツイートをする。
(そこら辺ちゃんとしないと火種になりかねん)
心配症と言われるかもしれないが、恋愛するだけで炎上する社会なのだ。用心するに越した事はない。
つくづくめんどくさい業界である。
さて、編集をせねば。今週中には終わらせてしまいたい。
どこを切り抜くべきか、どの効果音を使うべきかBGMはどこから借りるべきかと思考を回していると、横に座っている美納葉が口を開く。
「ねー千隼!唐突だけど良い?」
「おーどうした?頓珍漢なことならお断りだぞ」
「収益化したい!」
「登録者は8000ちょいだから・・・・多分申請したらいけるぞ」
「申請よろしく!」
「うっそだろお前!?これ以上仕事増えるの?」
申請ぐらい自分でしてくれよ・・・・。
◆◇◆◇◆
美納葉を家から追い出し、自室に戻る。
ベッドに飛び込むと、俺はため息を一つ取りこぼした。
しかしそれと同時に少々感慨深いものを感じていた。
忙しくて疲れている時って、このように考え込んでしまうことってないだろうか?
寝返りを打つ。
(もう収益化まで来たのか)
俺達がデビューして三ヶ月、意外に早いものである。
辞めたい辞めたいと思っていたが企業に入ることになり、それも安易にできなくなった。
ここまで来ると突き通すしか無いだろう。そう思った矢先、怒涛のコラボである。いい加減にして欲しい。
・・・・正直、Vtuberになってしたいことも無いしなぁ。
ふと、思った。
Vtuberって何だ、と。
こう、何だろうか、Vtuberとして様々な出来事と出会うと、色々考えさせられるものがあったのだ。
例えば影縫くんだ。
彼は過去で何かあった人特有の危うさがある。そしてそういう人特有の強さがある。
AIKOKUの人だってそうだ。普通の生き方では行けない所にいる人が多い。
少し普通と違う人達がこの業界には多い気がする。あくまでも、"多い"ってだけだが。
類は友を呼ぶ?
違う。
同じ羽を持つ鳥は群れる?
それも違う。そもそも、"同じ羽"を持ってない同士が合った所でその相手が"同じ羽"な場合は少ない。
その後も考え込んだ先、結論。
「受け皿か」
社会からハブられた人も、過去から逃げ出した人も、ただ興味があるだけの人も、それこそ一般人でも。
どんな人間でも受け止める受け皿。
それがVtuber。
今の俺ではそんな浅い考えしか思い浮かばないが、Vtuberの一つの方向性を見つけた気がした。
それと同時に、俺はVtuberとしてやりたいことも少し分かった気がした。
「Vtuber新しい顔。知りてぇな」
俺はベッドから起き上がった。
◆◇◆◇◆
その後、俺は編集を進めていると突然、部屋の扉が弾け飛んだ。
「・・・・美納葉か」
顔を向けると、また何かを思いついたのだろう。顔が輝いていた。
「グアム行こう!」
「は!?」
・・・・?
脈絡、修学旅行にでも出かけたんかな?
すまんが、俺には何がどうなってんのかよく分からねぇ。
「千隼のお義母さんから許可は取った!」
「何してくれるんだあの母親ァ!?」
この際、お母さんの意味が若干違う気がする件は置いておこう。
「ごめん一から説明よろ」
「今回コラボした人が『グアム行くからから来ない?』って」
「アホか期末テストどうするんだよ!?」
「大丈夫!ほんの一週間だから!」
「一週間ならギリギリ挽回できるか・・・・?」
「夕のお母さんも認めてくれたって!」
「あいつも行くのかよ!?」
マズイ。非常にマズイ。あいつらが事件を起こす確率が高すぎる。
俺の中のギャンブラーが「事件が起こる」にオールインしてる。
これ、行かなきゃダメだよなぁ・・・・。
「・・・・分かった」
はい。平穏終了のお知らせ!ラグナロク到来!ギャラルホルンの演奏開始!
俺は半ばヤケクソになりながら編集を再開するのだった。
◆◇◆◇◆
美納葉にグアム旅行を言い渡された時、俺は知らなかった。
こんなツイートが世間を騒がせていたことを。
———————————————————————
AIKOKU本社@Vtuber企業
炎上しました。
———————————————————————
最後まで読んでいただき、感謝です!
今回で企業編は完結です!これからもよろしくお願いします!




