気付き
<配信の続き>
◆◇◆◇◆
動画が終わると、再びカウントダウンが流れ始めた。
数字が減っていくに連れて、場に妙な緊張感が流れる。
"3"
"2"
"1"
"0"
カウントが0を切った時、どこに止まるかわからない賽が投げられ、舵は大きく切られた。
「さぁさ皆ちゃん皆くん皆様!お立ち合い!影縫 ミナトだよ!何でか今日はライバーズとかいう沖合に来ちゃったけど、まっいっか!」
「ご機嫌いかが皆々様!延暦寺小町です!」
「どうも。本当は断って静かに引退しようと思っていたのに、この幼馴染が勝手に契約したせいでここにいる本能寺 我炎です」
『影縫!?引退したんじゃ!?』
『ファッ!?』
『死ね』
『ほんとゴミ。図々しい』
『生きていたのか!?』
『なんでお前がいるんだよ』
『さっさと失せろよ』
『延暦寺、お前もか』
『↑何故にカエサル』
『カエサルのカイザー煮込みエンペラー和え』
『↑急にどうした?』
『本能寺w』
『おいサラッと引退発言するなよw』
「っ・・・はい。ということでね。俺達がストライキで誕生した、トワイライトプロダクション・ライバーズの2.5期生だよ」
「いやー!楽しみ!・・・・じゃあ、君達二人には殺し合いをしてもらいます」
「急にデスゲーム始まっちゃったよ」
「戦え・・・・戦え・・・・」
「何故に仮面○イダー龍○」
「二人とも、話が脱線してる」
「分かった。話を戻そう影縫くん。・・・・その前にこいつの意識を止めないと」
「お、戦闘か!?楽しみだ!来いよベ○ット。銃なんて捨てて掛かってこい」
「・・・・あの、皆には見えないと思うんだけどさ、本能寺くんがさ、今鞄から模造刀出して構えてる。あと延暦寺さんは笑いながら拳で対抗しようとしてる」
「うわぁ!?折れたァ!?」
「えー・・・・たった今、本能寺くんの刀を延暦寺さんがへし折りました」
『このコメントは削除されました』
『そうか、影縫は元々トワイライトに受かってたから打診が来たのか』
『↑だからといって元リーク系を入れるのはナンセンスだろ』
『このコメントは削除されました』
『モデレーター頑張ってんな』
『↑仕方ない』
『模 造 刀』
『何故模造刀を携帯してんだよw』
『バトルジャンキー・・・・』
『折れたァ!?』
『おい今マジで折れた音が聞こえたぞ!?』
『そこまで原作再現するなw』
『延暦寺はディスパイ○ーだった・・・・!?』
『↑マジかファイナルベ○トの飛翔○しなきゃ』
「はいはい二人とも、本当にいい加減しようか?」
「承知。・・・・今の内です!」
「むご」
「鮮やかな手際で猿轡噛ませないで!?」
「でも今しないとコイツ妨害してきますよ?ほら今も噛み切ろうとしてる」
「それもそうか・・・・?そうなのか?・・・・・・・・まぁいいか。えーと、じゃあちょっとした情報を話して、枠を締めたいと思います」
「思いまーす」
『猿轡』
『何でそんなもの持ってんだよ!?』
『このコメントは削除されました』
『あれ、もしかして影縫ってかなりの常識人?』
『↑せやで』
『このコメントは削除されました』
「えーと、まず今回誰も予想してなかったデビューだったので、影縫 ミナトと本能寺 我炎、延暦寺 小町のSNSをそのまま公式アカウントにしました。・・・・多分もう公式の名義になってると思う」
「これは動画サイトでも同じで、以前から使っていたチャンネルでそのまま活動していきます」
『本当だ、チャンネルにトワライ所属の文章がある』
『SNS見てきた。ライバーズ所属になってる』
『このコメントは削除されました』
「はい、一区切り行きましたね。これで最後かな?それじゃあ配信を終わろu「ちょーっと待った!!!!!」
「くそっ、もう猿轡を噛みちぎりやがった!この化け物め!」
「は!?」
影縫くんが最後の締めに入ろうとしたタイミングで美納葉が叫んだ。ケブラーじゃ駄目なのか!?奴の口はワニか何かなのだろうか?
噛みちぎったと思えば、美納葉はスマートフォンを取り出し、何かを入力する。
すると着信音が鳴り出した。どうやら誰かに電話を掛けたらしい。配信中だぞ。
「聞け!」
「何やってんですか!?配信中ですよ!?」
案の定、影縫くんは困惑する。
その時スマートフォンのスピーカーから音声が響いた。
≪あーあー、ミナトー?聞こえるー?ママだよー。ーnoーママだよー≫
若干間伸びした女性の声だった。
この業界での"ママ"とはつまり、俺達のモデルを描いてくれた人のことを指す。影縫くんに対して自分のことを『ママ』と称したことから、『ーnoー』と名乗るこの女性は影縫くんのVtuberとしての母なのだろう。
彼女の声を聞いた影縫くんは目を白黒させる。
「ーnoーママ!?」
影縫くんの困惑をよそにその声の主はさらに続ける。
≪何度もDMしたのに何ででないのさー≫
「え、ちょ・・・・」
≪こらこら彼も大変だったんだからそう言わない≫
驚いたことに通話相手は二人いた。しかもその片方は自分も聞いたことのある声である。
「その声は我が母、ソハル子ではないか!」
「何言ってんだ白々しい」
≪如何にも、自分は絵師のソハルである≫
「ソハル先生・・・・そのネタ乗っちゃうんですか」
≪懐かしいよね山月記。あと我が息子よ、"ママ"と呼んで欲しいな?≫
「はいはいソハル先生・・・・というか何のつもりですか」
≪くっ・・・・意地でも言わないつもりか!≫
「話聞いてます?」
『猿 轡 を 噛 み ち ぎ る』
『ここだけ会話が少年漫画な件』
『延暦寺は本当に人間なのか・・・・!?』
『通話?』
『待て待て待て、一体誰だ?』
『このコメントは削除されました』
『ーnoー先生!?』
『アイエエエエ!?エシ!?エシナンデ!?』
『ミナトくんのママだ!』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『このコメントは削除されました』
『怒涛の削除で草』
『DM?』
『会話からして、ーnoーママのDMを影縫がスルーしたみたいだけど』
『息子にだる絡みするーnoーママかわよ』
『てか、ソハル先生!?』
『アイエエエエ!?エシ!?エシナンデ!?』
『↑それさっき見た』
『ソハル子wwwww』
『ちょ、山月記w』
『ソハルママノリ良いなw』
『相変わらずソハルネキの声可愛いな、Vtuberならない?』
『どうしてもママと呼んで欲しいソハルママVSどうしてもママと呼ばない本能寺VSダーク○イ』
『↑やめたれw』
≪ま、それは置いておいて。えー、何のつもり、だっけ?そうだなぁ・・・・私はーnoーの付き添いだよ。ーnoーが息子に言いたいことがあるみたいでね≫
「はえー、そうなんですね」
≪そうそう。だからさ、ちょっと二人きりにしてあげようじゃないか≫
「まぁ、良いですけど」
ソハル先生はそこまで言うと、通話から退出した。
俺は美納葉の首根っこを掴むと、配信室の外に放り投げる。
美納葉は投げられながら空中で四回転程すると、着地した。・・・・無駄に器用なことしやがる。
俺も美納葉に続いて、退室する。
ドアを閉めた。
◆◇◆◇◆
「ーnoーママ、」
≪やっと、二人きりだねー≫
「なんか危うい言い方だなぁ。あと二人きりじゃないから。リスナーさんいるから」
≪リスナー?どーでもいいー≫
「oh・・・・」
≪ミナトを嫌いな人たちなんてどーでもいー!≫
「発言が過激すぎるよ!?ママ!?」
ーnoーの発言を聞いた視聴者は悪い方面に沸き立った。
それはさながらダムが決壊するように、罵詈雑言が流れ込む。
それとほぼ同時、モデレーター権限所持者がそれらを消去していく。
『怒涛の展開で頭が追いつかない』
『このコメントは削除されました』
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『このコメントは削除されました』
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「ほらぁ〜!そんなこと言うから皆も怒ってるよ!」
≪私も怒ってるしー≫
「俺は怒ってないから大丈夫だって!」
≪うー≫
「お願いだから怒りは収めて・・・・ね?」
≪・・・・大事なミナトの頼みだー。今回だけだぞー≫
『このコメントは削除されました』
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『影縫とーnoー先生は疎遠になってると思ってたけど、結構仲がいいのか?』
『影縫が悪事を働きまくったのに、許してるーnoー先生優しい』
『↑それちょっと的外れじゃないか?』
『元々ーnoーママはミナトくんのこと大好きだからなぁ。この絡みは久しぶり』
『↑おっ、当時の仲間か?あの時は結構な頻度でコラボしてたもんな』
影縫はため息を吐きながらーnoーに問い掛ける。
「所で、何の話があるんですか?まさか何もないわけじゃないでしょ?」
≪えー?とくに何もないよー?≫
「はい?」
≪何もないよー?そもそも今回の通話は延暦寺ちゃんが勝手に繋いだものだしねー≫
「あの人何でママの電話番号知ってんの?」
≪知らないー≫
「怖いんだが?」
『何もないのかよw』
『どーゆーこっちゃねん』
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『またお前か延暦寺』
『ちょっ!?怖!?』
『クレ○ンしんちゃんの夏のホラー並に怖い』
『↑盛りすぎ』
延暦寺の意味不明さにリスナーだけでなく、当事者すらも困惑する中、ーnoーが口を開いた。
≪まー、話したいことは色々あるけどねー。DMを無視した件とかさー≫
「それに関しては本当に申し訳なく思ってます・・・・」
≪私、毎日送ってた気がするんだけどー?≫
「ごめん・・・・なさい」
≪いいよーもうー。・・・・で、何でそんなことしたのー?≫
影縫は少し逡巡すると、重い口を開いた。
「・・・・あの時はーnoーママに合わせる顔がなかったから」
≪合わせる顔ー?あるじゃんー?別に君は悪くないんだからー≫
「いや、俺が悪かったんだ。勝手に絶望して、勝手にリーク系になって、つまりは自己本位だったんだ」
自嘲するように笑う影縫。
それに対し、ーnoーはあっけらかんといった様子で言う。
≪別に悪くないじゃんー。あのバカやろーがバカやらかして炎上して、それで起こった"大引退"に巻き込まれただけじゃんー≫
「けどっ、俺は!≪もっと自己本位になってもいーんだよー≫
影縫の言葉を遮るように、ーnoーが口を開く。
≪君は悪くないんだからさー『俺は被害者だ。慰めろよ』ぐらいには開き直ってもいいんじゃないー?≫
「・・・・俺なんかが本当に図々しくしてもいいの?」
≪いいじゃんー。若者だものー≫
「俺はママより歳上です」
≪いいじゃんー。若者だものー≫
「あ、はぐらかした」
『毎日は多くね?』
『ちょ、多い多い多い多いw』
『ーnoーママもしかしてヤンデレ?』
『ーnoーママ・・・・ヤンデレ・・・・閃いた!』
『↑おいやめろ』
『このコメントは削除されました』
『急に会話が重くなった』
『このコメントは削除されました』
『あー"大引退"か・・・・』
『悲しい・・・・事件だったね』
『せやせや、ミナトくんはもっと自己中になりな』
『このコメントは削除されました』
『ママァ・・・・』
『ーnoーママァ・・・・』
『草』
『wwwww』
『速報 影縫、ーnoーママより歳上だった』
『ーnoーママは確か22歳だっけ?』
『↑何で知ってんだよw』
『↑ちょくちょくライブ配信してるんだよ。そこで言ってた。因みにだがーnoーママはくっそ美人やぞ』
『↑まじかアーカイブみてくりゅ』
≪まーとにかくー、君はなにも気にしなくていいのー!≫
「わ、分かった、分かったから興奮しないで」
≪じゃーねー≫
「あ、ちょっ」
そこまで言い切ると、ーnoーは通話から退出した。
◆◇◆◇◆
しばらくして、俺は様子見のために配信部屋の扉を開けた。
「調子はどう?」
ドアの隙間から覗き込みながら、小声で声を掛ける。
影縫くんは半ば茫然とした様相で背もたれに身を任せていた。
スタッフの方を見やる。スタッフはタブレットの画面を見せてきた。映っているのは待機画面。どうやら配信は一時的に待機画面にしてあるようだ。
俺は彼に近づくと、顔を近づけた。
「どうしたんだ?」
影縫はうわごとのように返す。
「・・・・ちょっと考えてたんだ」
「何を?」
「ママに『開き直れ』って言われた」
そこまで言うと、彼は視線を宙に向ける。
ーnoー先生がそう言うのも納得だ。俺の目から見ても彼は卑屈過ぎる。正直なところ彼はもっと我を出した方がいい。
それを一体どう伝えたものか。
考えている内に少しの間が空いた。
「影縫くんはもっと我を出したほうがいいと思う」
結果。"そのまま言うことにした"。
いや、別に考えるのが面倒臭くなった訳じゃない。断じてない。そうに決まってる。
ふざけるのはここまでにしてだ。俺がこんな時に回りくどい言い方をしてしまったら、話が余計にこんがらがると思ったからである。
「そっか」
何か思うことがあったのだろうか、影縫くんは今度は下を向き、掌を見る。
少し経ち、彼は憑き物が落ちたような顔で俺の方を向いた。
「ちょっと聞いてもらっていい?」
「断る理由が俺にあると思う?」
「ふふ、ありがとう」
少し笑って、影縫くんは話し始めた。
ぽつりぽつり、言葉が綴られる。
「俺はさ、さっきまでトワライに入ったのは贖罪のためと考えてたよ」
「さっきまで」
「そう、さっきまで。ママ——、ーnoー先生と千隼くんのお陰で目が覚めた気がするよ。・・・・過去は背負うべきだとは思うけどね」
そこまで言うと、彼はたははと笑った。
「なんでばれちゃうんだろーな?俺、結構自然だったと思うんだけど?」
「この配信の始まりのところ。モデレーターが仕事を始める前の時だ。君が出た叩きコメントを見た後に少し声が詰まってた」
「そっかー。気付かなかったなー」
その『気付かなかった』は何に対してなのかとは聞けなかった。
未来を向くと言っているのに、過去に縛られて卑屈になっている。
その歪さに彼は気が付いているのだろうか?
恐らく分かっていないだろう。けれど、これは彼自身が見つけ出すべきものだ。俺がとやかく言うわけにはいかない。
そう思っていると、
「・・・・俺がこんなにぐちゃぐちゃだったとはなぁ」
驚いた。てっきり何も分かっていないと思っていたのに。
それなら俺から言うべき言葉は一つだ。
「影縫くんはこれからどうしたい?」
その質問を聞くと、彼は躊躇なく答えた。
「まだ少し歪んでいるかもしれないけど、前を向くよ。卑屈はやめた。過去に縛られるのはまだ少し続きそうだけどね?けど、今度のはポジティブな縛られ方、のつもりでいくよ」
そこまで固まっているのならもう大丈夫だろう。
「うん」
◆◇◆◇◆
影縫くんとの話がひと段落して少しした頃。
ドガン!というけたたましい音と共に美納葉が配信部屋に入ってきた。
「んー」
「こいつ・・・・!?椅子に縛り付けて置いたはずなのに・・・・!?・・・・まさか、引きちぎったのか!?」
俺が影縫くんのところに行く際、美納葉には動けないように、鉄製の椅子にガムテープと結束バンド、ロープを用いて縛り付けていたのだ。それを解くとかどんな化け物だ。
そう思って美納葉を見ていると、どうやら違うらしい。美納葉は解いたわけではなく、強引に引きちぎったようだ。それも椅子も一緒に。
その証拠に、美納葉の手足には鉄の塊がガムテープでくっついている。そろそろ化け物という単語で表すことも限界に近くなってきた気がする。
「んんんんんん!んんん!んんっんんー!」
得意なって喚く美納葉を俺は再度簀巻きにして転がしておいた。
それからの配信は何事もなく進み、締めの時間となった。
「はい!ではではこれで二度目の初配信は終わりだよ!それではまた今度の船着場でね!」
「次回は「させねぇぞ!」
◆◇◆◇◆
余談。
影縫くんを一人にした後、俺は再度ソハルさんと通話をつないだ。
どうしても聞きたいことがあったからだ。
「一つ質問いいですか?」
≪なんでも聞いてよ!≫
「何で延暦寺がーnoー先生の電話番号知ってるんです?」
≪・・・・そんなことどうでも良いじゃない!≫
「犯人あんたか」
≪・・・・延暦寺ちゃんに頼まれて≫
「成程。おい、後で石棺な」
「うん!」
≪なんか過程を何個かすっ飛ばしてない?そこは普通、折檻じゃないの?あと延暦寺ちゃん?何で若干嬉しそうなの?≫
「ああ、コイツ、コンクリート粉砕出来るんですよ。大方、マジックの脱出ショーみたいに考えてるんじゃないですかね?」
≪本当に人間なのかい?≫
炎上編、企業編を跨いだ、影縫くん復活の章にやっと区切りがつきました。
最後まで読んでいただき、感謝です!




