火種と日常は裏返し
新章「炎上編」開始です。
<配信が始まりました>
「こんにちは。影縫 ミナトです。今日は先程ツイートした通り某大手Vの闇をリークしていきます」
待機画面が閉じ、ひどく簡素な配信画面が現れる。
簡素というと白黒モノトーンを想像する人も多いだろう。だが、この配信はチャット欄も何もなく、黒一色で統一されていた。
その中心には一つのアバター———、影縫 ミナトが立っている。黒いパーカーを羽織った黒髪桃瞳の少年、と言った風貌だ。フードを目深に被っており、殆ど目を見る事は出来ない。
『来たか』
『結局大手ってどこだよ』
『トワイライト、AIKOKU、えとときだろ』
『影縫のことだ、どうせトワイライトだろ』
「何名か勘のいい方がいらっしゃるようで。そうです。今回も『ト』から始まる某大手企業について話します。まぁ、大手と言ってもV企業の中では三番目なんですけどね」
『やっぱりか』
『他企業にはそうでもないのにトワイライトにだけ毒吐くのなんなん?』
『知らね。・・・・・まぁ、憶測は上がってるけど』
『ふーん、ま、気が向いたら調べるわ』
彼の同時接続者は二桁と少ない。大抵の人がスレッドに伝える為だけに見ている。
「今日の議題は例の箱所属の二期生で最年少のVtuberです。陰陽師少女・・・・・と言うと誰でも分かるでしょう」
『神凪 ハマか』
『コラボ関係か?』
「はい、先日個人勢の方とコラボしてましたね。ですが今回はそちらではありません」
『コラボから安直に恋愛関係にすると思ったんだけどな』
『じゃあ何だ?』
「先に題名を出しましょう。"神凪 ○マ不正疑惑"です。彼女はどうやら二期生に受かる前に不正をしたと、ある筋から情報が入りました」
『ある筋(大体ソース無し)』
『不正ねぇ?』
「経緯から説明しましょう。トワイライトは四ヶ月前にライバーズ二期生をデビューさせました。その時の合格枠は三つ。そこでの最終選考には元トワイライト所属のストリーマーだった鞘形 トウとバレンタイン=シルフィ、一般での参加であった神凪 ハマと本来受かるはずだった人物がいました」
影縫は一息吐くと、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「本来受かるはずだった人は諸事情により居なくなったと公式にて発表されていますが本当にそうでしょうか?」
『ああはい成程ね』
『枕営業とか言いたいんだろどうせ』
「因みに元ストリーマーの御二方は"元々選ばれることは最初から決まってた"と配信内で供述しております。・・・・・もうお分かりでしょう。神凪 ハマはなんらかの不正を行い"受かるはずだった人"を蹴落としたのです」
大仰な語り口で話を閉じる。
<配信が終わりました>
影縫は最後まで喋るとコメントを読むこともせず枠を閉じた。
◆◇◆◇◆
翌日。
<配信が始まりました>
「ご機嫌いかが皆々様!延暦寺 小町です!」
「どうも、なんとか徹夜でマシュマロを厳選した本能寺 我炎です」
「今日はマシュマロを読みたいと思います!アンチとのバトルをしたいかー!」
「と、まぁこの馬鹿はアンチマシュマロにコメントをしたいと申しております」
「何か悪いか?」
「うん。悪い。俺のマシュマロ厳選が無駄になったよ?どうしてくれるの?」
「準備はいいかね?」
「ぜーんぜーんよーくなーい」
「聞こえないぞー?」
「耳が節穴なんじゃない?」
『相変わらずのテンション』
『草』
『本能寺お疲れさん』
『草』
『wwwww』
『耳 が 節 穴』
『随分と辛辣なスポ○ジボブだなw』
『アンチとバトルって・・・・・えぇ!?』
『かつてこれ程までイカれているVtuberがいただろうか?』
『アンチと戦うスタイル』
「安心してくれリスナーさん!俺はこいつ絶対に止める!」
「ふふふ・・・・・私を止める?笑止!やれるものならやってみろ!」
「はいじゃあ一つ目のマシュマロから行きますよー」
「ち ょ っ と 待 っ て」
『草』
『少年漫画みたいなノリかと思ったらギャグ漫画だったかぁ・・・・・』
『華麗なスルーで草』
『wwwwwww』
『こなれてんなぁ』
俺の横でばたばたと暴れる美納葉を片手で押し込み、動きを封じる。気を少しでも抜くとこの幼馴染は碌なことをしないのだ。なんか上目遣いで「言うこときいて?」とか言ってくるが全く響かない。
今回の配信はマシュマロをランダムに読むことが出来るように、とあるサイトを利用している。所謂ルーレットのサイトだ。そして事前に"読んでもいいマシュマロ"と"読んではいけないマシュマロ"を分けておいた。これで事故を起こす確率は限りなく低いだろう。
「では一つ目のマシュマロです。"お二人は恋人なのですか?" 違います」
「バッサリいきやがったよこの旦那様・・・・・」
「いつの間にか結婚させられてるんだけど?・・・・・何度も言うがコイツを異性として見たことはないぞ?この際はっきり言わせてもらうがコイツは所謂、天の災い——、"天災"だ」
「"天才"なんてこの〜!やっぱり私のことが好きなんじゃない!」
「話聞いてた?」
『圧倒的拒否』
『延暦寺話聞く気ないやんw』
『人扱いされてないのほんと草』
『wwwwwwwwww』
「では次のマシュマロ行くぞー。"お二人の好きなアニメは?"」
「"桃太郎の海鷲"!」
「ど う し て こ う な っ た ?」
「動物が可愛いから!
「確かに可愛いけど何故にプロパガンダアニメ!?」
「AIKOKU所属の大和 ムサシさんが紹介してた!」
「oh・・・・・」
『大和の配信見てんのかよw』
『何そのアニメ?』
『俺も知らねーな』
大和 ムサシ『大日本帝国が藝術映画社に依頼して作ったアニメで真珠湾攻撃がモデルだ!』
あきつ 隼『日本初の長編アニメと呼ばれているぞ!作画もとても良い!』
『AIKOKU日本組やんけぇ!?』
『何 で 居 る の ?』
『ヤメロー!極右が移る』
『思想の塊が来たぞ!?』
『AIKOKUさん達もよう見とる』
ルガー トグル『Ich bin auch hier!(私も居るぞ!)』
『トグルやんけ!?』
『AIKOKUドイツ組(日本人)じゃん!?』
『あんた日本人ダルォ!?』
『あ ん た も か』
『大物しかいないなこのコメ欄・・・・・!?』
『↑大物(狂人)』
「わわっ!?凄い本物居る!?スパナつけますね!コラボしてください!」
「ちょっ・・・・・馴れ馴れしいぞお前!?・・・・・あ、因みに俺の好きなアニメは"さよなら銀河○道999"です」
『なんでそのチョイスなんだよwwwww』
『お前生まれてないだろうがw』
『草』
『おじいちゃんかな?』
「ミャ○ダーと老パルチザンの死は悲しかったよな」
「○ャウダー好きだから私泣いちゃったよー」
『延暦寺も観てたのかよw』
『こいつらのセンスちょっとずれてんなぁw』
『草』
「早く次のマシュマロ行こー!」
「はいはい。では次のマシュマロは"最近ハマっているものは?"です」
「キャッサバのデンプンを固めた物!」
「うんタピオカだね?そんな健康に悪そうな言い方するな?」
「紙の強度を上げるんだ!」
「おっとまさかの使い方。食べ物じゃなかった」
タピオカは紙の強度を上げる為の薬剤に用いられる事もあるのだが、まさかそっちがくるとは思わなかった。
『食べないのかよw』
『とうとう製紙業まで手を伸ばしたかw』
『草』
「はいでは次の質問"今まで壊した扉の数は?"数え切れるかこん畜生」
「本能寺はねー!毎回私が飛び蹴りして壊した扉を直してくれるんだー!もうプロ職人よ!」
「そんな職人なりとうない」
「因みに修理している姿を見たくて飛び蹴りしている節がある」
「マジで?衝撃の事実なんだけど」
「うん!」
「畜生めぇ!!!!!」
『これは草』
『新たな肩書きがついたじゃないか、喜べ』
『↑無理やろw』
『プロ扉修理士系Vtuber本能寺 我炎』
『草』
『wwwwwwwwww』
「はい次"日本はこれからどうすべきだと思いますか?"そういうのはAIKOKUさんのところに送ってくれない?なんで俺達?」
「このマシュマロ見つけた時の本能寺面白かった!」
「表情"無"だったよね!」
「宇宙猫ならぬ宇宙寺状態だった」
『うwちwゅwうwでwら』
『どんな寺だよwwwww』
『wwwwwwwwww』
『草w』
『↑クサニクサヲハヤスナ』
『草』
その後も色々と質問マシュマロを読み、時々珍妙な文を読んだりとして時間が過ぎた。
「そろそろ最後にするか・・・・・ラストのマシュマロは・・・・・」
「最後ぐらいは選ばせろ!」
「痛ってぇ・・・・・」
文面を読もうとすると美納葉が横から強烈な体当たりをかまして来た。
俺が体勢を崩すや否や、美納葉がマウスを握り締め、現在開いてるファイルを閉じ、もう一つのファイルを開いた。"読んではいけないマシュマロ"を纏めたファイルだ。
そして美納葉はマシュマロをルーレットのサイトに入力すると、どこぞのカードバトラーのように高らかに叫んだ。
「私のターン!ドロー!」
「あっ!?お前何を!?」
「モンスターカード!」
「どこのデュエリスト!?」
『何が起こったんだよ!?』
『ドンって音がした!』
『お?事故か!?』
『大丈夫か』
『あっ』
『草』
『ドロー!モンスターカード!』
『ブルーアイズホワイトドラゴンッ!!!!』
『↑いやなんでやw』
『wwwww』
「俺の最後のマシュマロはこれだぜ!"本能寺のベッドの下を探って下さい!"!!!!!」
「や、やめろ⁉︎よ、よ、よせ!?というか何でよりによってそいつが出てくるかなぁ!?」
『誰がこの展開を予測出来ただろうか?』
『ベッドの下w』
『エロ本ある展開やんw』
『草』
『本能寺、諦めよ』
『めっちゃ焦ってて草』
水を得た魚の様にウキウキしながら俺のベッドの下をまさぐる美納葉。もう本当勘弁してくれよ。因みにだがベッドの下にそういった本はない。というかそういった本を買った記憶自体が無い。ただ、
(あれがバレるのか・・・・・正直困るなぁ)
ベッドの下に物を隠していたのは本当だったため、内心ビビっていると、
「おっ!なんかある!」
「あぁ・・・・・隠し場所変えなきゃな・・・・・」
『おっ!なんだなんだ?』
『wktk』
『一体どんなハードなやつなんだい?』
ゴトリ。
美納葉が腕に抱えてるそれを床に置いた。
それは、黒光りする細長い筒に包まれた白銀の金属だった。
「刀やんけェ!?」
「護身用だよ」
「本物!?」
「なわけねぇだろ模造刀だよ模造刀」
「何から身を守るのさ!?強盗なんて日本で滅多に見ないよ?」
「それより厄介な奴が近くにいるからな」
「誰?」
「お前だよ」
何でそんなもん持ってんのかと聞かれたら自らの身を守る以外ない。こいつはちょくちょく俺を拉致しに来るからだ。この馬鹿幼馴染が巨大ハンマーで自室の扉を粉砕した時は心臓が止まりかけた。因みにカーテンレールにかけられている布は防刃ベストで枕の下にはエアガンがある。
(てか、こんな会話面白いか?)
『oh・・・・・カターナ』
『模ww造ww刀』
『だ、誰がこの展開を予測出来ただろうか?』
『↑動揺バレてますよ?』
『悲報 延暦寺、本能寺に強盗扱いされてた』
『草』
ソハル『ウチの子達、大丈夫かなぁ・・・・・?』
『ソハルママもよう見とる』
『強盗<延暦寺』
『くっそwwwww』
何故かはよく分からないがリスナーからは好評の様だ。・・・・・ほんと何で?
「最後のマシュマロも読んだ事だしそろそろ締めさせていただki「今週末に歌枠するぜ!!」
「ちょっ!?」
「じゃあ本能寺曲の許可取りは任せた!」
「ちょっとおおおォォォォォォォ!!!!?」
<配信が終わりました>
(ったく・・・・・権利系統は大変なんだぞ⁉︎どうしてくれる!)
配信を終了するや否やダダダっと俺の部屋から駆け出した美納葉に一言文句をぶつけてやろうと思い腰を持ち上げる。
その刹那、玄関の方向からドスンと何かがぶつかる様な音と「ぎゃっ!!!!!」という声が聞こえてきた。
どうせ美納葉がまた何かやらかしたのだろう。
ため息を吐きながらトトンと階段を降りて行く。
降りた先の突き当たりに見える玄関に視線を送ると、夕が美納葉に抱きついた状態でフローリングに倒れていた。いやどういう状況?多分だけど『あら^〜』『キマシタワー』といったコメントが流れる絵面だ。正直これらのコメントの意味はあまり分からない。
二人とも俺が来た事に気付いたようで、顔を上げて俺の方に向いた。
「・・・・・ち、千隼くぅん」
夕は半泣き状態だった。どんな状況かは分からないが何かが起こったのは確実だろう。
はちゃめちゃな事には巻き込まれ慣れている俺だが、このようなことには慣れていない。
だから、
「詳しくは分からないけどさ、話ぐらいは聞くぞ?」
当て障りない言葉しか掛けられなかった。
最後まで読んでいただき、感謝です!




