ボク土左衛門
因みに、
『このハゲー』騒動は2017年
令和の年号発表は2019年
作中は2018年です。
クラス会議。
この単語を聞いてどんなイメージをするだろうか?
わちゃわちゃとした穏やかな議論?それとも鬼気迫る口論?
後者のようなものは、基本的にいじめだったり事故だったり、そんな感じの大事が発生した時にしか見られない。
今回の会議の議題は『文化祭の出し物について』だ。
羽瀬山高校の学園祭は文化祭と体育祭がくっ付いた形で構成されている。それぞれのクラスは色団というものでまとめられ、一色ごとに一つの模擬店を開催できる仕様になっている。今回のクラス会議ではそこで出店するお店の案を出し合うわけだ。
そんな内容なのだから、『わちゃわちゃとした穏やかな議論』を多くの人は想起するだろう。
しかし、である。
現実は後者であった。
たった今、俺の目の前に広がるのは二人の生徒が議論を繰り広げている、そんな様子なのだ。
片方は野球部の青田丸くんで、もう片方は茶道部の矢音子さんだ。なんでこの二人なのか、それは二人がうちのクラスの色のリーダーだからである。
ことの発端は、クラスの中で取った「模擬店についてのアンケート」を集計している最中、青田丸くんが突然「飲食店やろうぜ!」と言い出し、クラスの一部のメンバーがそれに同調したことから始まる。
議論は••••いや、最早口論のような勢いになっているそれは非常に白熱していた。
青田丸くんが両腕をばっと突き出して言う。
「やっぱり飲食店がいいだろ!?」
「それじゃあ保健所に手続きしなきゃいけないから時間的に無理って生徒会が言ってたでしょーが!」
冷ややかではあるが語気強く、その言葉を否定する矢音子さん。
それに彼は突き出した腕の拳を握りしめて反論した。
「何言ってんだ!んなもん青春の前じゃ塵芥だ!」
「バカヤロォー!このハゲー!」
彼がルール無視のゴリ押しをしていることにプッツンと来たのか、彼女は割とライン越えな罵倒を放つ。
そこから完全に決別、双方はムキになって論争の「論」という字を失った。
「てめぇ!?地味にタイムリーな罵倒しやがって!?あと俺ハゲじゃねーし!野球部なだけだし!」
「野球部が全員頭丸めるとか今日日聞かねーよ!価値観を平成にアップデートしろや!」
「うるせぇ顧問の方針なんじゃ!それに平成もどうせすぐ終わるだろうがよ!」
「んだと!?じゃあいつ次の年号が分かるってんだよ!預言者みてーなことほざきやがって!」
「あ?どうせあと一年ぐらいじゃねーですかね?2019年!?お分かり!?」
「おーおーあと一年だな?もし嘘だったらわかってんよなぁ!?」
「おーいいぜ!?代わりにもし当たったら文化祭の模擬店は俺らが決めてやらぁ!」
「一年過ぎたら文化祭終わってんだろうがよバカがぁ!」
目の前で繰り広げられている舌戦は最早手がつけられようがない。
••••というか、なんで文化祭の模擬店の話でこんなに白熱できんの?あと、年号の話はどっから出てきた?
俺は呆気に取られながら、矢鱈に濃ゆいそれを観戦するのであった。
◆◇◆◇◆
結局敗北を喫したのは青田丸くんだった。まぁ、普通に料理店の出店は禁じられているから当たり前である。
因みに現在、彼はルールをひっくり返すためだけに、授業中にも関わらず生徒会室に向かって全力疾走している。••••今授業中なんだから生徒会の人いないだろ。
対して、勝利を手にした矢音子さんは片手を天に突き上げて喜びを噛み締めている。
長年に渡る戦いを制したような清々しい顔をしているが、たかが文化祭の出し物決めである。
そんな彼女に向かって傍観に回っていた先生が声をかける。おいティーチャー、制止ぐらい入れろや。
「あ、終わった?それじゃあ何の出店にするか決めようね」
「はい!でも、もう決まってるんですよね!」
「へぇ〜どんなのなんだい?」
問いかける先生に、矢音子さんはにっこりと微笑んで返す。
「たい焼き屋です!」
瞬間、俺の脳内に無数のクエスチョンマークと宇宙が浮かび上がった。
俗に言う宇宙猫状態である。
さっきの論戦はなんだったんだよ。食品店やりたい青田丸くんと、ルールだからダメって言う矢音子さんの構図じゃなかったの?
そして結論、出店するのはたい焼き屋。
え、頭に蛆虫湧いてる?
蛆虫チーズで有名なカース・マルツゥでもそこまで腐ってねぇぞ。
全くもって訳のわからない矢音子さんの発言に、俺は内心でツッコミを入れる。
誰か他に疑念を抱くやつはいないのかと、周囲を見渡すが、どうやらいないらしい。大丈夫かこのクラス。
流石に訳がわからないため、俺は矢音子さんに近づくと、彼女に耳打ちする。
「矢音子さん、矢音子さんや」
「どうしたの?涼森くん?」
「たい焼き屋をするって言ったけど、どうやるんだ?食品店はダメなんだろ?」
「勿論。なんでそんなこと?」
矢音子さんは、当然でしょ、と言わんばかりのキョトン顔をしている。
俺は「ええと、」と口籠る。
さっきの舌戦を見た後で彼女に意見するのがとても怖い。
どう切り出すべきかと考えあぐねていると、彼女は「ああ!」と何かを察したかのように手をぽんと鳴らした。
「大丈夫大丈夫!保健所には届けなくていいタイプのたい焼き屋だから!」
「••••脱法?」
「脱法やめて!?」
ボソリと言うと、矢音子さんは目をひん剥いた。
そして彼女は「ちがうからね!?」と必死に弁明を始める。
「私達のやろうとしているやつは、既製品の販売だから特に届出はいらないの」
「?」
それから詳しく聞くと、どうやら本当に問題がないらしい。というのもだ。青田丸くんが言うような「生徒自身が食材に手を加えて提供する模擬店」とは違い、「パック詰めされている商品を提供する模擬店」に関しては届出が不要だという。
「へぇ〜」
目から鱗で、俺はそう息を吐いた。
矢音子さんは必死に説明をしたからか、若干ぜーはーと息切れしている。
「分かってくれた••••」
そんな時、クラスメイトの中から一つの質問が上がった。
「あ、でもなんでたい焼き屋なの?クッキーの方が嵩張らなくてよくない?」
矢音子さんは当然、という風に答えた。
「アンケートの結果、たい焼き屋をしたい人が9割だったからよ」
彼女の言葉にクラスのメンバーがうんうんと頷く。
耳をすませば「やっぱり文化祭といえばたい焼き屋だよね〜」といった声が聞こえて来た。
••••お前らはの中でたい焼きはなんなんだ。
俺は心底そう思った。
◆◇◆◇◆
週末。
<配信が始まりました>
「ご機嫌いかが皆々様!たい焼きは中身から啜る派の延暦寺 小町です!」
「どうも。幼馴染の食し方がチュパカブラでドン引きした本能寺 我炎です」
『たい焼きを••••中から啜る••••?』
『化け物で草』
『「頭から食べる派」と「尻尾から食べる派」はよく聞くけど、中身を啜る派••••?』
『さっすが延暦寺、視聴者の想像を軽く超えてくる。』
「チュパカブラってなにさ!」
「中身啜るは明らかにUMAの類いだろ」
『チュパカブラ•••名前の由来はスペイン語で「ヤギの血を吸う者」。その名の通り、家畜の血を啜る吸血UMA。因みに、家畜だけではなく人間の血も啜る。』
『↑知識人待ってた!』
『ふと思ったけど吸血UMAってなんかどこぞのゲームのモンスターの分類みてぇだな』
『チュパカブラ きゅうけつUMA きょういてきな ジャンプ力をもち かちくのちを すする』
『↑図鑑やめろw』
「さて、チュパカブラからは離れるとして、今回は何するんだ?今回も聞かされてないんだけど」
「今回はね••••!」
俺が美納葉に問いかけると、美納葉はぐへへと気色悪い笑みを浮かべた。
「笑ってないでさっさと答えんか」
「ちぇっ!もっとひたらせてよ〜!」
「尺の無駄」
「メタい!?••••まぁいいや!今回はなんと夏のホラー配信!夏の暑さをお化けで吹き飛ばそう!って企画です!」
美納葉が得意げに企画を説明する。俺はカレンダーにチラリと視線を送る。
そこには9月ももう終盤に差し掛かっている日付が丸をつけられていた。
「あの••••夏もう過ぎてるんですが••••?」
『この時期にホラー配信!?』
『もう秋なんよ』
『夏の暑さ••••どこ••••?ここ••••?』
『夏休み何してたんだこいつら』
『↑うたてブートキャンプ』
蛇梅塚 ムムム『ホラー!?』
『↑出たわね怪談専用ソナー』
視聴者がさまざまな反応を示す中、美納葉は「早速始めよう!」と怖い話を語り始めた。
「むかしの事です。
私が子供の頃に住んでいた村がありました。
そこで近所に住んでいたおじさんがいたのですが、ある日ふと、彼が姿を消したのです」
『あれ?おもったよりちゃんとしてる••••?』
『でも延暦寺だぞ••••?』
蛇梅塚 ムムム『期待』
「その村にはとある池がありました。
どうにもそこはいわく付きの場所らしく、沢山の人が身投げのために集まるともっぱらの噂でした。
村の人たちは『彼はあの池に身投げしたんだろう』、そう言って、捜索隊を送りました」
『おい待て結構こええぞ』
『え、延暦寺のくせに生意気だぞ••••!』
『↑ビビり過ぎてどっかのガキ大将みたいになってて草』
蛇梅塚 ムムム『まだまだテンプレートのままだね』
「しかし、池の底をさらってもさらっても、死体はおろか、一尾の魚すら引っかかりません。
そのうち夕暮れになり、ここらで捜索もお開きにしようとなったその時です。
『ぴちぴち』そう音がしました。
捜索隊の面々が音を不思議に思い振り返ると、そこには二、三匹の小魚が地面で暴れていました。
おかしい。彼らは直感的にそう思いました。
何しろ、何時間も川をさらってなお、魚は居なかったのですから。」
『こわい』
『••••え、普通に怖くね?』
『びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピア!』
『↑や め ろ』
『びっくりするほどユートピア•••ネットで広まった除霊方法。全裸になった状態で白目を剥き、自分の尻を叩きながら「びっくりするほどユートピア!」と連呼しつつベットを昇り降りする。妙な脱力感に襲われる。』
「捜索隊の面々は『早く帰ろう』と目配せをして、その場から急足で離れようとしました。
その時、また異変が起こります。
背後からペタペタという足音が聞こえて来たのです。それは水に濡れた人間のそれとそっくりで、捜索隊は恐怖から背筋に冷や汗が流れました。
足音はたくさんありました。
捜索隊は恐る恐る振り返ります。
すると、そこには濡れ鼠な人々がずらりと立って、恨めしそうにこちらを見ているではありませんか。
そして人々の先頭には、見知った顔がありました。そう。私の近所に住んでいたおじさんでした。
おじさんも人々と同様、濡れ鼠で、池のどす黒い水の色を吸った服から、水滴をポタポタ落としていました。
生者じゃない。捜索隊の皆がそう思った時、おじさんが口を開きました」
そこまで言うと、美納葉はすぅと息を吸い••••
「『ボク、土左衛門』
そう言いました」
と締めた。
その声音は明らかに某国民的アニメのロボットに寄せに来ていて、視聴者は勿論それに反応する。
『草』
『馬鹿野郎w』
『公式から怒られろ!』
『やったぜそれでこそ延暦寺だ!』
『とっても大好き!土左衛門〜!』
『↑ネクロフィリアやめな?』
『スタンドバイミー土左衛門』
『↑和訳すると「私のそばにいて、土左衛門」ですね』
『↑嫌すぎるw』
蛇梅塚 ムムム『こんなのホラーじゃな〜い!』
どうやら美納葉はホラー配信と言いつつ、ネタ配信をしたかったみたいだ。
まぁ、美納葉らしいっちゃらしい。
正直なところ、俺も真面目なホラーは想像できなかったし。
それからもホラー配信とは名ばかりのネタ配信が続き、締めの時間となった。
「はい!それではホラー配信を終わりにします!どう?涼しくなった?」
「生憎もう秋だから十分涼しいんだわ」
『ツッコミで熱くなったよ』
『ホラーとは(哲学)』
『ホラーというよりホラ話の部類よね』
『↑ホラーなんて大体ホラ話やろ』
蛇梅塚 ムムム『↑ほぅ••••?戦争がお望みか』
「こわい」
「それではまたね〜!」
<配信が終わりました>
◆◇◆◇◆
パソコンを落として、俺と美納葉はぐーっと背伸びをする。
やはり配信をした後は身体が凝る。
首と肩をぐるりぐるりと回す。
そうしていると、美納葉が「ねぇねぇ!」と声をかけて来た。
「ちょっといいこと思いついたんだけど!」
ずい、と距離を近づけてくる美納葉。俺はバックステップでそれを避けながら返した。
「どうせ碌でもねぇことだろ。いつもと同じ」
「いつも碌でもないとは心外だなぁ••••ま、いっか!千隼、今学校では先文化祭の準備してるじゃん?」
「ん?Vtuberとしての話だよな?なんで文化祭?」
話が見えない。俺はそう思って言うと、美納葉はキラキラとした目で言った。
「私たちでもやらない?」
「やるって••••文化祭?」
「そうそう!先輩も、うたてさん達とかコラボしたことある人とかも呼んでさ!3Dとかも使って、ばーって!」
「うーん••••規模感にもよるけどさ、それ結構難しくない?」
「そうかなぁ••••学力テストと同じ感じで行けばいいと思うけど••••?」
美納葉が俺の言葉に首を傾けた。
「さっきお前『3Dも使う』つったろ?そうなると絶対に撮影会場も抑えないといけないし、色々大変だぜ?」
「そこはうちの事務所に協力要請すればいいじゃん!」
美納葉のその台詞にハッとする。
そうだった。事務所のことすっかり忘れてた。
確かに事務所に協力を要請すればなんとかなるかもしれない。
俺がそう考えていると、美納葉が俺にさらに詰め寄る。
「楽しそうじゃん!やってみようぜ!相棒!」
俺はそれに頷くと。
「よしっ!やるか!」
と言った。
最後まで読んでいただき、感謝です!




