超!エキサイティン!
夏休みが明け、最初の金曜日を迎えた羽瀬山高校。
季節的には処暑と称され、暑さが落ち着く季節とされているが、そんなことはもちろんなく、灼熱の日差しは未だ猛威を振るっていた。
「あづい〜••••!」
そう言って俺の机にもたれかかるのは俺の友達である野洲国 利憲であった。
机に顔を押し当てているせいで、なんとも情けなく頬が潰れている。俺はその頬を引っ掴んで持ち上げ、ついでにびょんと伸ばした。
「いたいいたい!?何すんだ千隼!?」
「何すんだも何も、人の机にアブラゼミみたいにくっつかれても困るんだよ••••」
「いいじゃねーか!お前の席、エアコンが直で当たるから涼しいんだよ!」
「だからと言って顔面を机に押し当てるやつがあるか!?」
「ひんやりして気持ちいいぞ!お前もどうだ?」
「なんて嫌なお誘いだ••••」
教室のど真ん中で二人の男子生徒が机に張り付いている絵面を想像してしまって身震いする。狂気以外の何者でもないだろ、その状況。
エアコンの風とはまた別種の寒気を感じる俺に野洲国は「そういえば」と口火を切る。
「考査どうだったよ?」
「あー休み明けの?」
「そうそう。結構難しくなかった?」
「いんや、別に••••?」
なんなら以前より点数は良くなっていた。特に国語科の『心情を答えよ』的な問題が取れるようになっていた。
今までこれらの問題の正答率は結構低めだったけれど、最近どうにも調子がいいのだ。
「ちぇっ••••羨ましいなぁ••••俺は数学が壊滅的でさ••••」
そういうと、野洲国は徐に懐を探ると一枚の紙を取り出して見せる。
そこにはでかでかと16点の文字が浮かんでいた。
「うわ••••ひど••••夏休み何してたんだよ」
「仕方ねぇじゃん!?俺、夏には弱いんだよ!?」
呆れてため息すらこぼさない俺に野洲国は弁明をする。
「夏に弱いねぇ••••?さっきの様子だと日中は完全にバテてたろ」
「おうよ!」
「少しは恥じろ」
指摘すると、野洲国はニッコニコの笑顔でサムズアップをする。
「そんな状態でよく課題終わらせられたな?」
「課題は日中じゃなくて夜に全部やった」
「ナチュラル昼夜逆転じゃねぇか」
「そのせいか、どうにも考査当日身体が怠くてだな••••」
「受けてる受けてる!もろに昼夜逆転の影響受けてる!」
夏に弱いとかの問題じゃなくて、野洲国の生活習慣の問題じゃねぇか、と内心ツッコミを入れた。
野洲国は「はぁ」とでかいため息を吐くと呟く。
「なんとか次の中間考査で挽回しないとなぁ••••」
「次って確か10月ぐらいだっけ?」
「そうそう!文化祭が終わって少ししてからだ」
「文化祭••••あーそんなのあったなぁ••••」
「そんなの、ってお前なぁ?一年の行事で三本の指に入るほど人気行事だぞ?」
「んなもん知るかよ」
文化祭。羽瀬山高校では二学期に催される行事で、体育祭と同時に行われる。二つまとめて学園祭と評されることもあるが、生徒からすると体育祭はオマケみたいなものなので、基本的には文化祭としか呼ばれない。一応、この学校特有の名称が付けられているらしいが••••俺は忘れた。
「文化祭っていっても、高校生のできるクオリティだぞ?そんなに期待するもんじゃないだろ」
野洲国が「ちっちっちっ••••!」と指を振り、否定を示す。
「クオリティなんてどうでもいい••••!文化祭の醍醐味といえば女子と出店を巡ることだろ!」
「うわ下衆••••!?」
なんとも男子高校生らしい考え方で俺はドン引きする。
「うるさい!俺は女子と文化祭を回って、あわよくば彼女が欲しいんだ!」
「諦めろ」
少なくともそんな考え方の人間には彼女は出来ない。
「あーもうやかましい!お前はどうせ天野宮さんと回るんだろ!?いいよな勝ち組は!」
「いや負け組だろ絶対」
文化祭なんてあいつがはっちゃける典型例すぎる。つまり俺の身に危険が迫りやすくなるということで••••あートラウマが蘇る。
中学の頃なんて、『文化祭』という字面に興奮した美納葉に全身の関節を外されたんだぞ。
俺が元に戻すの苦労したなぁ••••としみじみしている横で、野洲国が叫ぶ。
「とにかくだ!俺は!文化祭!全力で取り組む!」
「あーはいはい••••拳を握りしめて宣言してるとこ悪いけど、そろそろ予鈴だぞ〜」
俺は時計をチラリと見て、野洲国を自分の席へと追いやった。
◆◇◆◇◆
学校が終わって、休日。
俺と美納葉はいつものようにパソコンの前に座り配信開始のスイッチを押した。
<配信が始まりました>
「ご機嫌いかが皆々様!延暦寺 小町です!」
「どうも。夏休みが明けたので配信頻度も前と同じに戻ります。本能寺 我炎です」
『おー夏休み終わったんか!』
『夏休み••••?知らない子ですね••••』
『社会人にとっては、もはや幻••••』
『↑あれなぁに?』
『↑社会という畜産場に飼われた悲しき獣じゃよ』
『配信頻度が元に戻るってことは土日メインの活動になるわけか』
「そうそう!土日に配信するよ〜!」
「そんで今日はゲーム実況をする予定なんだけど。••••延暦寺。なんのゲームをするのか知らされてないんだけど?」
「教えてないよ?その方が楽しそうだし」
「この野郎!?心の準備ぐらいさせてくれよ!?」
「因みに負けたら罰ゲームね!」
「この腐れ外道が!」
『い つ も の』
『もう安心感すら感じる』
『突発的な事象を浴びる本能寺からしらえられない栄養がある』
『↑鬼畜か?』
『負けたら罰ゲームってことは少なくとも勝ち負けがあるゲームなのか』
『そういえば今日3D配信だけど、それと関係するゲームなのか?』
「おっ!察しがいい視聴者さんがいるね!今日やるゲームはね〜••••でん!」
美納葉は視聴者のコメントを拾いつつ、机の横に置いてあった馬鹿でかい箱を持ち上げた。
がたんと音を鳴らしながら、それを俺の部屋の中心に位置するちゃぶ台に配置した。
「何それ?」
「今日やるゲーム!」
「待ってもしかして実写?」
「勿論だとも!ゲーム画面だけ実写で映す予定!」
『ホビーゲームってこと?』
『実写ってことはカードゲームとかボードゲームか』
『ベ○ブレード?』
『↑何かスポーツでもやっているのかな?』
『↑伝説の迷言やめろw』
コメント欄が盛り上がっている間に、美納葉は箱からそのゲームとやらを取り出す。
俺はそれを見るなり目を見開いた。
「ファッ!?延暦寺!?なんでそれ!?」
「いいでしょー!おばあちゃんの家で見つけたの!」
「なんて貴重なものを!?」
『貴重?』
『そんなにレアなゲームなのか?』
『ということはカードゲームとかは無いか••••?』
『ええいまどろっこしいぞ本能寺!早く見せろ!』
美納葉はコメントに応え、カメラでそのゲームを配信画面へと写した。
そこに現れたのは四つ足のゲーム機であった。上に傘のようなものが付いており、その部分からボールが落ちてくる仕組みになっている。遊びかたは単純で、上から落ちてくるボールを弾き、対戦相手の陣地へと入れるという、所謂ピンボールゲームである。
つまり。
「バト○ドーム!!!!」
である。
『バトル○ーム!?』
『おばあちゃんの家ってことは当時の!?』
『1994年版じゃねーか!?貴重どころの騒ぎじゃねーぞ!?』
『ボールを相手のゴールにシュゥゥゥーッ!』
『超!エキサイティン!!』
それが画面に映り込んだ瞬間、コメント欄がざわめき出す。
予想通り過ぎる騒ぎように、どう反応したらいいかわからない。
そんな中、俺は一つのコメントを見つけた。
『でもこれって、四人プレイのゲームじゃなかった?』
「確かに!?おい延暦寺。どうやってこれプレイすんだよ?」
美納葉に問いかけると、奴は「決まってるじゃん!」とばかりに言う。
「一人で二人分プレイすればいいんだよ!」
「脳筋にも程があるぞ!?」
「やればできる!」
「ダメだ聞いちゃいねぇ!?」
かくして俺は、ある意味伝説のゲームを普通より二倍の仕事量でプレイする事になるのであった。
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