夏の終わり。新しい想い。
「この業界のVtuber企業、現在トップを独走中の『えととき』だよ」
かぐやま先輩はそう言うと、未だ笑いの波が収まらないのか、ひくつくお腹を押さえながら目尻の涙を軽く拭う。
彼女の言葉を聞いて、俺の口から思わず声が漏れた。
「あの常時前方不注意集団って、そんな凄い人たちだったんだ••••」
「ブッ••••!?」
また先輩が噴き出す。
治りかかっていたお腹の痙攣が再発したことで、彼女は地に伏し、さっきと同じように地面をしばいている。
まるでプロレスのカウントみたいだなぁ、と思いつつ俺はかぐやま先輩が落ち着くを待った。
ややあって先輩が立ち上がると、彼女はくすりと笑みが混ざった声で言った。
「いやぁ〜千隼くん結構言うね••••!企業の収益的ならあの子達私らの上位互換なのに!」
「上位互換って言われましても••••この業界に上も下もないでしょ」
「なかなか真理だね〜。けど収益以前に、あの子達のVtuberとしての実力はピカイチだよ。そうだ!丁度最後のライブはえとときだし、見ておいたらどうかな?••••あ!一応言っておくけど、私達ライバーズが負けてるとは思わないよ?」
「カオスさじゃライバーズがピカイチですもんね」
「酷〜い!その言葉、そこで伸びているうちの子に聞かせられるの?」
「いやもう皆とっくに起き上がってますよ••••」
「あれ!?」
先輩は廊下のライバーズの面々を指して言うが、そこにはついさっきまであった人影は皆目ない。
メンバーはとっくに起き上がって「さー帰ろ帰ろ」と自身の楽屋へ向かっていた。
かぐやま先輩は「ちょっと皆待って〜!」と皆を慌てて追いかける。
俺はそんな彼女の後ろをのんびりと歩いて行った。
◆◇◆◇◆
楽屋にて、パソコンの液晶パネルに映る配信を俺達ライバーズの面々が覗いていた。
一つの機器を皆で囲んでいるのだから画面の周りは鮨詰めで、冷房の効いた部屋だと言うのに恐ろしく暑苦しい。
パソコンの画面に一番近いところにバレンタイン先輩と鞘形先輩が、その後ろに美納葉と夕、そして影縫くんがぎゅうぎゅうとくっついている。
画面に顔をギリギリまで寄せに行く皆の少し後ろ、離れた場所に俺は居て、皆の様子、そして隙間から覗くことのできるパソコンをぼんやりと見つめていた。
「3Dの技術すご!ぬるっぬるだよ!ぬるっぬる!」
「全員が並んでも統一感があるようにキャラデザまで拘ってる!すげぇ!」
バレンタイン先輩と鞘形先輩が感嘆符をあげる。
それに反応して俺も画面を注視する。
••••見えない。
俺はパソコンで配信を見ることを諦めて、ポケットに手を伸ばしてスマートフォンを取り出した。
そうした後、俺達もよく使っている動画投稿サイトを開くと、VOMKの配信のサムネイルをタップする。
そして一つ二つ広告が流れて配信が映る。
それと同時に••••
俺は画面の中に引き込まれた。
◆◇◆◇◆
配信の世界の中では、十二人のライバーが歌い、踊っていた。
彼らの立つステージは時計をモチーフとした円盤であった。
十二人のライバーはその時計、つまりステージの文字盤となっている。
それぞれの定位置で彼らが歌い、踊ると、ステージにいるライバーの周辺が彼ら彼女らに染められたように錯覚する。
それほどまでにライバー一人一人の個性が強いのだ。
しかし、個性が強いとはいえ、それらが互いに喧嘩をしていれば世話はない。
けれど、このえとときという集団では、そういった現象はまるで起こっていない。
それぞれの魅力は目一杯に出されつつも、いずれも打ち消し合わないのだ。
歌や踊りの技量は大して高くない。それを専門にしていて、もっと上手い人物はこの業界にごまんといる。
しかし目が離せない。
そんな演技である。
カメラワーク?それぞれの立ち回り?••••考えるけれど、何が要因かはわからない。
しかし、画面のさまざまな部分へと視線が吸い付き、画面の外へと目線を逃すことができない。
兎に角分かることは、ライバー一人一人が『己の魅せ方』をよく分かっており、運営もまた『ライバーの魅せ方』を熟知しているということだ。
そうでもないと、この圧倒的な魅力に説明がつかない。
そして結局、俺は最後までスマートフォンの画面を食い入るように見つめていた。
◆◇◆◇◆
えとときのライブを持って、俺達が参加する分のVOMKは終幕した。
俺はだんまりとした様子で荷物をまとめている。
俺が口を噤んでいるのは、未だ自身の中でえとときのライブが反芻されている最中だからだろう。
そんな時に背を叩かれる。
「見事に衝撃受けてるね〜?」
かぐやま先輩だった。
彼女は何も返答しない俺ににやりと笑いながら、さらに言葉を投げる。
「参考になったようで何より何より!••••それじゃ!」
そう言うと、勝手に満足した様子で先輩は踵を返し、他のライバーズの面々へ向かった。
その背を見ながら俺は思った。
あそこまで違うのか、と。
Vtuberとはあそこまで違う次元へと行けるのか、と。
そう思った。
そして少し楽しくなった。
ワクワクした。
俺もあんなパフォーマンスをしたい。
素直にそう感じた。
今はまだ、先輩方とすら並べていない。
あの背中に追いつきたい。追い抜きたい。
そんな願望がふつふつと湧いて出てくる。
今まで俺がVtuberというものに興味を持っていた理由はその方向性の多様さ故だった。
しかし今回、別の興味が産まれた。
俺達で、俺達なりのやり方で、上へと行ってみたい。そんなものが。
俺は荷物と同時に気持ちを纏めた。
そして、
顔を上げて、頷いた。
『やってやる』と。
◆◇◆◇◆
長い夏が終わる。
うたてさんの特訓から始まって、VOMKで終わった、そんな長い夏が。
そして始まる、新しい季節が。
新しい、挑戦が。
最後まで読んでいただき、感謝です!
今回でVOMK編が終幕となります!
次回は箸休め回です。




