えととき
その後、一期生が発表をして、ライバーズ全体の演奏を締め括った。
これにて全てのライブが終わった俺達一行は、撮影のスタジオから自分たちにあてがわれている楽屋へと繋がる廊下を歩いていた。
「にしても、あんなに早く追い出さなくてもいいのに〜!もうちょっと感想戦させてよ〜!」
そうぼやくのはバレンタイン=シルフィ先輩で、彼女は両腕を頭の後ろで組み、名残惜しいのか一行の最後尾を歩いている。
そんな彼女に向かって、鞘形 トウ先輩が声をかける。
「未練がましいぞーバレンタイン。サッサっと歩けー」
「酷い!?私の扱いが酷い!?」
「そりゃそうだろ。お前が会場でちんたらやってるから恥かいたんだぞ」
「別にいいじゃん!みんなで記念撮影ぐらいさぁ!」
「いやあの状況でするもんじゃねーだろ。皆出口にスタンバイしてたわ」
鞘形先輩の言う『恥をかいた』というのは、ついさっき起きた出来事のことを指している。
雑にまとめると、すぐに会場から撤収せねばならない状況でバレンタイン先輩が写真撮影をしたいとゴネて、スタッフさんに廊下へボッシュートされたというものだ。
企業Vtuberが集団でライブすることの出来る大きさの部屋は少ない。そこでゴネられてはVOMKのプログラムに影響があるのは至極当然だし、スタッフさんの対応は真っ当だったと言えよう。
「まぁまぁ!ライブは無事皆成功できたし、二人とも抑えて、ね?」
「「はーい!」」
そんな二人に夕が宥めるように言う。廊下で騒ぐのはまずいと思ったのだろう。
それから俺達が幾分か歩き、廊下の曲がり角に差し掛かった時だった。
どたどたどたどたどた!!!!
そんなけたたましい足音が複数聞こえてくる。
『ん?』
俺達がその音に気付き、視線を音へ向けた時にはもう遅かった。
視線の先には大量の人、人、人。
およそ十数人の人々が廊下を爆走していた。
そして————、
どしゃああ!!!!
二つの集団は綺麗にぶつかり、大きな土煙を上げた。
「痛ったぁ••••!?なんか既視感あるぞこれ••••!?」
俺が頭を掻きながら立ち上がり辺りを見渡すと、そこにはライバーズの皆と激突した集団がごちゃごちゃと混ざり合うという、なかなかにカオスな状況となっていた。
やがて、俺達とぶつかった集団は起き上がると、仲間内で口々に話し始める。
「なんか今日ぶつかってばかりじゃない!?」
「重い••••暑い••••」
「今日2回目の地震だぁ••••!?」
「地震な訳ねぇだろ子時さんや?」
「さっすがガキンチョ」
「だーかーらー!ガキンチョじゃないって!」
「そんなことより早く動いてよー!」
やっぱりどこか既視感があるその会話に俺は首を捻った。
その間に集団はぶつかった俺達の存在に気付き、びょん!とバネのよう飛び上がると頭を一斉に下げた。
「すみません!よそ見してました!」
どこかで聞いたことあるその台詞に俺は「はっ!」と、既視感の正体を思い出した。
俺はぶつかった彼ら彼女等に向かって指を差し、「あーっ!」と叫んだ。
その声に反応してか、ぶつかった相手もこちらを見つめた。そしてすぐ俺と同じように「あーっ!」と驚きの声を上げた。
「さっきもぶつかった子だ!?縁があるねー!」
「いえいえ俺は別に気にしてませんから••••」
「いやでも本当ごめんね!またぶつかっちゃって!」
彼ら彼女らの言う「またぶつかった」といえのは正しい。彼ら彼女らは俺と美納葉が会場に着いたばかりの時、俺達に割り当てられた部屋に向かうべく二人で廊下を歩いていた際にぶつかった人達だ。何だか前回と全く同じシチュエーションのような気がする。••••まぁ今回はライバーズのメンバーも一緒だけど。
そうこうしているうちに、未だ後ろに倒れていたライバーズの面々が地面より起き上がる。
「いったた••••何が起こったんだ?」
「理科室が爆破した時ぐらいびっくりした••••」
「バレンタインさん!?なんか今ものすごい比喩聞いた気がするんですけど••••!?」
「いやはやびっくりびっくり!••••っておや?」
そして、かぐやま先輩はぶつかった集団の顔を見るなり表情を変え、にかりと笑った。
彼女はその集団に急接近すると「久しぶり〜!」とスキンシップを交えながら声をかけ始める。
「子時ちゃん〜!やっぱりちっちゃくて可愛い〜!」
「やめっ••••苦しい••••!あとちっちゃいって言わないで••••!」
「なんで〜?可愛いじゃん!」
「もうちょっと!もうちょっとで発表だから!離して〜!?」
特に「子時」と呼ばれた集団の中でも人一倍小さい女性に対しては思いっきり抱きついて頭を撫で回している。
その女性はあからさまに嫌そうな顔でかぐやま先輩を押し除けようとしたけれど、体格差が大きくそれは叶わなかった。
それからかぐやま先輩が集団と絡み、ある程度の時間が過ぎたのち、彼ら彼女らは頭を下げながら猛烈な速度でまたどこかへ向かっていった。
それを見送りながら、俺はかぐやま先輩に問い掛ける。
「あの人達誰です?」
「ん〜?本能寺くんはあの人達のこと知らない感じ?」
「多分知らないですね••••VOMKに来たばかりの時に美納葉と一緒にぶつかった人達という認識です」
「ん?もしかして今日あの子達とぶつかったの二度目?」
先輩がそう訊いてくる。
頷くと、彼女は腹を抱えて笑い出した。
「あはははははっ!あの子達何してんのさ!あー駄目だこれツボに入る!あははははっ!」
なんかめちゃくちゃ笑いの琴線に触れたようで、ひくひくひくとお腹を痙攣させながら先輩はうずくまり、バシバシと床を叩く。
俺は若干引きながら彼女に問いかけた。
「あの人達本当に誰なんです?」
その質問に先輩は、少し経って「あー面白かった!」と笑いが収まってから答えた。
「あの子達はね、この業界のVtuber企業、現在トップを独走中の『えととき』のライバーだよ」
最後まで読んでいただき、感謝です!




