転換の曲
影縫の発表が終わると、海の背景が流れていた場面が、二人の司会者が立つ劇場の背景へと移る。
燕尾服とドレス姿の司会者———アキレス 健と粟国 あなはその画面に並ぶと拍手を鳴らす。
「すっごい発表だった!」
「ですね!何というか••••あの!••••あー駄目だ語彙力が足りない!」
「粟国さん。わかる。わかるぞその気持ち」
『確かに!影縫くんの発表よかった!』
『あいつあんな演奏できたんだ••••』
『↑失礼で草』
『元アナウンサーが語彙力足りないっていうの相当じゃない?』
「とにかく、映像も音声も本当にハイクオリティで凄く良かったですね!」
「だな!因みに補足情報だけど、この発表で使われた映像はイラストレーターのーnoーさんが描いたものを、影縫さんが編集したものらしいよ」
「へぇ〜!」
アキレス 健が発表についての補足情報を解説すると、粟国 あなは「ぽん」と手を叩いてみせた。
それからある程度の解説をした後、司会者たちは「そういえば」と話題を転換した。
「さて、次もライバーズさんの発表が続きます。健さん、紹介お願いできますか?」
粟国が首を傾げそう問いかけると、アキレス 健は親指を持ち上げ「勿論!」とサムズアップし、口を開く。
「次に歌うのは、先程発表をした影縫 ミナトくんと同じ2.5期生の方達です。新進気鋭の狂気で有名な人達で、どんな演奏をしてくれるのが楽しみです!」
「いや、『新進気鋭の狂気』って何なんですか」
アキレス 健の紹介に対して、粟国のツッコミが突き刺さる。
彼は頭をかきながら弁明をし始めた。
「いやぁ••••自分にもよく分からない••••。でも俺、この方達を調べてみたんですけど、やっぱりこの表現が適切だと思います」
「ええ••••?次の方ってこの業界でも珍しい男女コンビですよね?そこの所とかピックアップできないんですか?」
若干困惑した様子で粟国がそう言うと、アキレス 健は「そうだった!?」と思い出したように頭を抱える。
「ほんとだ••••すっかり忘れてた!?」
「何やってんですか健さん!?••••ああもう!ポカする健さんは放っておいて••••っと、そろそろ発表者のお二人の準備ができたようなので、始めてもらいましょうか」
アキレス 健とやりとりをしつつ、会場の用意が整ったことを確認すると、粟国は話題を切り上げた。
そして中継に移るためにアキレス 健と目配せをし、声を揃えて口上を述べる。
「「登録ネーム『二人のライバー』の演奏の始まりです!」」
「「いってらっしゃい!」」
◆◇◆◇◆
画面が暗転して、次に映ったのは俺たち。
最近手にした3D衣装を身にまとい、他のライバーと比べると非常に簡素な白いスタジオの中で立っていた。
そんな中で隣にいる幼馴染が叫ぶ。
「延暦寺 小町!」
自身の名前を高らかに宣言した美納葉は「次はお前だ」と目配せをしてくる。
俺は頷くと、美納葉に続いて叫ぶ。
「本能寺 我炎!」
そして今度は二人同時に息を吸い、同時にに言う。
「「今から歌うのは、俺(私)達の転換の曲です!」」
そう。今から歌うのは俺達が人として転換を迎えることのできた、その時に得た曲。
うたてさんの手によって作られた俺達の曲である。
俺達はカメラに向き合って、息を吸い込む。
◆◇◆◇◆
ギターを中心とした爽やかなイントロが流れる。
この曲は「二体の化け物が人と出会い、成長する」、その過程を描いた物語性のある曲である。
明るい曲調が俺達を取り巻き、周囲を照らす。
曲調だけなら「夏のように青い」と形容することができる程に青臭い。
けれどどこか的外れな響きなのは、初期の俺と美納葉を表しているのだろう。
曲の歌詞もどこか「人と違う化け物」という風な様相を見せている。
暫くイントロが流れ、歌のパートに入り、俺達は同時に歌い出す。
「「" "」」
曲の一番は俺と美納葉全く同じパートだ。それを真っ直ぐ進むことがこのパートの肝要である。
未だ曲調は明るくも、どこか抜けていて、首を捻るようなものになっている。
そのうちに一度目の盛り上がり所となるサビに移った。
「「" "!」」
サビは勿論盛り上がるものであるが、それよりも歌詞の中に散りばめられた「化け物の成長」が確かに描かれている。
あのバーベキューの日のことを想起されるそのワンシーンを俺達は歌った。
いや、歌うと言うよりは叫ぶだろうか?
成長に戸惑って、喜んで、涙する。それ以外にも様々なものが含まれた「化け物」の叫びのように思えた。
一つ目のサビが終わり、曲の二番に入った。
「「" "」」
二番からは最初に感じてような的外れな部分が払拭されていた。
そして曲中で描かれるのは「成長した化け物の日常」へと移り変わる。
今までと違う、つまり価値観が転換したことによる不思議な感覚、しかし爽やかなそれに身を任せるそんな様子だ。
歌い方も最初とは姿を変え、一番では俺と美納葉の二人とも同じパートだけだったものが、二番では所々ハモるようになっていく。
その内二番のサビに入った。
「「" "!」」
二番のサビを終えるとついにラストのサビだ。
今まで以上に力が籠る。
それはやはり、ラスサビがこの曲全体の集大成となる部分だからなのか、詳しいことは分からない。
けれどどうしてか力が入る。
そういったものだと思う。
「「" "!!」」
歌いながら、隣の美納葉をチラリと見る。
美納葉も俺と同じく、いやそれ以上に必死に歌っているようで、額には前髪が張り付き、汗が伝っていた。
美納葉にとってもこの曲は『転換の曲』なのだろう。そう思うと、俺も尚更力が入った。
曲も、ラスサビも、あと最後のフレーズだけ。
俺達はそれぞれぐちゃぐちゃながらも思いを込めて叫んだ。
「「" "—————ッ!」」
最後の一言を告げると、曲もフェードアウトしていく。
これで俺達の発表は終了だ。
俺が美納葉の方を向くと、美納葉も俺を見ていた。
俺は滴る汗を手の甲で拭い、美納葉に向けて手を頭上にあげて差し出す。
美納葉は俺の行動の意図が分かったようで、こっちに手を向けてきた。
そして『パンッ!』と乾いた音がスタジオで響く。
それは俺と美納葉がハイタッチをした音だった。
俺と美納葉は双方顔を綻ばせると、その表情のままカメラに向かって頭を下げた。
「「ありがとうございました!!!!」」
『嬉しい』。
そう心底思えた。
最後まで読んでいただき、感謝です!
それにしても、やっとここまで来れました••••。




