影は凪へ、凪は時化へ
昨日、投稿の是非についてのツイートを失念しておりました••••。
本当にすみません••••。
影縫 ミナト。
それはVtuberとしての••••いや、俺の名前だ。
トワイライトプロダクション・ライバーズ。
色々とあって、俺はここに所属した。そして少し前には考えられなかったVOMKのステージの上にいる。
たった今立っているステージは、少し前の俺では考えられなかった場所だ。
ライバーズの面々を見やる。
俺をここまで連れてきてくれた、千隼くん、美納葉ちゃん、下凪さん、そして、先輩達が揃ってサムズアップしている。
色んな温かい感情が堪えきれなくて、笑みが溢れた。
俺はライブを始める。
◆◇◆◇◆
配信画面が司会者のいる場面から切り替わる。
そこに映っていたのは穏やかな海の底。
難破船の残骸、その木片が沈む砂の上。
かつて海を渡っていたであろう大型帆船は、魚達の住処になっていて、空から透けて見える光がやけに幻想的だ。
そんな風景の中、影縫 ミナトは降ってきた。
ゆらりゆらりと海流に身を任せ、砂の絨毯にぼやんと沈み込んだ。
その体勢のまま、彼は歌い出す。
「" "」
閑静な歌声が、静謐な空間に響く。
すると、曲のメロディが段々とフェードインしていった。
日常の音に朗らかな船出、そんな風な曲調は影縫ミナトの声と重なり、調和する。
ステージも画面が移動し、それは海の底に寝そべる影縫の視線へと変化した。
海の底に仰向けに寝そべり、水面という天蓋を彼は見つめる。
その先に映るは彼の過去。
デビューそして初配信から始まり、そこから始まる生活の情景。
「" "」
彼が歌う楽曲、それは彼が過去に作ったものに似ている。
彼の好きなこと、好きなもの、その全てをふんだんに混ぜこぜたその曲は、今の彼の気持ちを加え、新しく生まれ変わったのだ。
いや、生まれ変わったという表現は不適だろう。
どちらかと言えば、再び浮き上がったと言った方が正しい。
「" "」
曲調がふと、変化した。
重く、激しく変化した。
歌声も同じで、心なしか、息ができずにもがく、そんなものに聴こえる。
それと共にステージの空気も変わる。
穏やかであった水面が荒れ始めたのだ。
どんな船でも砕けてしまう様な大波が暴れ回り、澱んだ色へと移ろう。
そこから差し込んでいた光に照らされていた海の底は、電球が寿命を終えるようにぷつりと暗くなった。
やがて荒波は海の底までも到達し、ぐるぐると対流現象の如くその場をかき回す。
難破船が巻き上がる。
住処を失った魚が逃げ惑う。
そして、
影縫も砂のカーペットから身を離し、ぐわんぐわんと全身を振り乱した。
四肢がちぎれそうなほどの波に飲まれる。
彼は歌う、そんな中で。
「" "」
歌いながら、諦めた様に涙を流す。
激情という波に身を任せながら、それを続けた。
まだ、か細いながらも歌う。
助けを求めるように。
しばらくの間、それが続いた時だった。
暴れる波が、ふっ。と動きを止める。
再び光が差す。
濃紺の海底が、初めと同じ様に透き通っていく。
体を引き裂かんばかりの波の中にいた影縫は、緩やかな流れに沿って再び水底へ下っていく。
足元には巻き上がった難破船。
彼は微笑み、難破船へと手を伸ばした。
それに手が触れた時。
ぴかり!と水色の閃光が水中を満たす。
「" "」
彼は歌う。
喜びを全面に出して。
歌声に呼応する様に、難破船がまるで魔法の様にひとりでに動き、その形を取り戻していく。
水の流れが船の部品を集め、それぞれのある場所へと誘導する。
彼は組み上がった帆船の帆柱を握ると、船を浮上させた。
難破船はもはや難破船ではなくなった。
浮上する最中、魚達が彼の髪と頬を撫でる。
魚達はそのまま水面へ登っていく。
彼はそれらを笑みを浮かべながら見送ると、船の舵を切った。
「" "」
曲は今、最後の盛り上がり所。
涼やかでかつ澄んだ音色と共に、彼の声が遠く伸びていく。
船はとうとう水上へと出る。
穏やかな月が見えた。
船がマストを広げ、水面を滑る。
やがて、月を背に進む一つの帆船の影が映し出され、画面はフェードアウトしていく。
これは、彼の新しい航海、その船出の一幕である。
◆◇◆◇◆
影縫 ミナトの発表。
それを遡り、一番手である神凪 ハマの発表。
その直前。
◆◇◆◇◆
下凪 夕••••いや、神凪 ハマはVtuberだ。
得意としていることは特になく、ただ、受動的にこの場にいる、それが私だ。
なんということはない。
ただ、影縫 ミナトという人物の代わりだっただけである。
そんな風に自分を落ち着けて、ステージに上がる。
対面するカメラの奥に、ライバーズの面々が見える。
撮影するステージのある部屋の壁には、配信画面が映っていて、そこではアキレス 健、粟国 あなという名前のVtuberが私達の紹介をしている。
もう少しでそれも終わり、私が合図をすれば直ぐに私の番になる。
私はライバーズの一番手。その次に二人の先輩を挟んでから影縫くん、つまり2.5期生への流れになっている。
ばくんばくんと跳ねる心臓を無理矢理に押し込み、カメラを見つめた。
大丈夫。私は代わりだから。
息を吸う。吐く。
だから私は私らしく。好きなように。
また息を吸う。吐く。
緊張を、ほぐす。
••••••••。
これは緊張か?
私はカメラから目を背け、足元を見る。
簡素な床を視界に映しつつ、私は頭を回転させる。
私は違和感に詰まった。
何か分からないけれど、違和感に詰まった。
緊張の場は今まであったはずだ。
人生規模のイベントならば入学、卒業、受験。それより小さい規模ならば、音楽会、校外学習。
まだ十数年しか生きていなくとも、緊張の場は沢山あったはずだ。
けれど、この心のひりつきは今まで、感じたことのあるものだったろうか。
駄目だ。考え出したらキリがない。
ずっと忙しかったからか、考える暇が無かった。そのために今、一人でステージに立つ今、思考を揺らしているのだろう。
だからといって、こんなにも大切なタイミングで考え込むか?普通。
うん。少なくとも今考える事じゃあない。
顔を上げる。
カメラを見やる。
そうしていると、今し方考えていた事がくだらないことに思えてきて、薄れていった。
いける。
今なら歌える。
そう思って、私は「もう大丈夫です!」と声を発し、合図を出す。
そして、
カメラのレンズに、私が映った。
目と目が、合った。
最後まで読んでいただき、感謝です!
そして、再編集版も是非いらしてくださいね!
現在、激唱編の途中まで投稿しております!
再編集版URL▶︎ https://kakuyomu.jp/works/16818093076416811335




