虹のステージ 2
シング&ライドのライバー達に連れられて舞台の上に登場した一人。
ライバー達から『社長』と呼ばれた彼の名前は、一 環太。
自作の3Dアバターの姿でステージに乗せられた彼はおろおろと首を左右に回す。
「やっぱり俺はここにいるべきじゃないって••••」
彼がシング&ライドの面々に向かってそう言うと、ライバー達は「まだ言ってる••••」と呆れたように顔を見合わせた。
その中の一人の男性ライバーが声を上げる。
「あのなぁ••••いい加減前のことに拘んなよ••••」
そんな台詞に彼はなおも口籠る。
「いや別に••••いやそうかもだけどさ」
一 環太はある一件の後、シング&ライドを以前以上に立て直した。
しかし、その一件を作った要因が自分にある事から、未だ多少の遠慮を持っていた。
彼はなんとか逃れる言い訳を探そうと思考を巡らした。
「あ••••えーっと••••ほら!だって俺の作ったアバター、まだまだ未熟だろ!?」
「ウチの技術者が泣くぞ」
その言い訳はスッパリと切り捨てられる。
そう。彼は崩壊したシング&ライドを立て直す際、自身の知識不足をなんとかしようと自作でモデルを作成したのだ。それも2Dモデルや3Dモデル両方である。
そのクオリティはとても高く、「最早そっちでご飯を食べれるのでは?」と視聴者からツッコミを入れられるほどである。
言い訳を失った彼はら開き直り、「俺、皆に迷惑かけたし」や「それに皆と一緒にアピールできる強みないし」などの後ろ向きな発言を続ける。
そんな時、どしん!
彼の背中に衝撃が走った。
彼は咄嗟に振り返る。
その先にはラリアー・ルルディリア、群雀蘭 マイの二人のライバーがいた。
彼女らはそれぞれ片手を出して、それををピンと伸ばしていた。
どうやらその手で彼の背は叩かれたらしい。
何が起こったか分からないと言った様子で目を回す一 環太であったが、そんなのは知りもせず、その二人のライバーはくしゃりと笑いかけた。
「なーにが迷惑ですか!社長のおかげで良くなった部分も沢山あるんです!」
「貴方が築いた笑顔。社長がいなくちゃ始まらない。それに貴方にも強みはある」
「いや••••でも••••」
彼女らの言葉で一 環太は何も言えなくなる。
そんな彼の手を二人は掴み、ライバー達が集まるステージの中央へ放り投げ、こう言った。
「あ〜!もう!まどろっこしい!マイ!曲流して曲!」
「おっけー。強引にでも参加させればその気になるでしょ」
少しの間が開き、曲が流れ出した。
各々のライバー達はそれぞれのポジションへ移動していく。
35人もの移動の流れから一 環太が逃れることは最早できなくて、そのまま曲が始まっていった。
◆◇◆◇◆
曲が始まると、先程まで青空の下にあったステージが再び燦然と煌めく。
スピーカーから流れ出した曲のメロディーは、ついさっきシング&ライドのライバー達がステージ上で発表したそれであった。
視聴者は『全く同じ曲?』などと困惑のコメントを流す。
しかし、二度目の曲は先のものとは多少異なる。
曲調こそ同じではあるが、歌詞などのちょっとした部分が違うのだ。
数名のライバーが歌い出す。
「" "」
歌詞が違う。
これは他者からすると訳がわからない行動ではあるが、彼ら彼女らにとってはとても大切なことだ。
その訳は至極単純で、この曲を演じる者達が違うからだ。
先程歌った一曲目、それはシング&ライドのライバー達のための歌詞である。
これは彼ら彼女らがより生き生きと楽しむためのもの。
しかし今回は違う。シング&ライドのライバー達だけでない。彼ら彼女らを含めたシング&ライドに属するすべての者のための歌詞なのだ。
この『すべての者』とは文字通りシング&ライドの社員すべてである。
ライバーも、営業も、技術者も••••そして勿論、社長もだ。
そのすべての人間達が生き生きと輝くための宣言。それこそが二つ目の歌詞だった。
そう。これは、これからのシング&ライドの象徴となる曲だ。
先程と同じように、ライバー達は歌う者は歌い、語る者は語り、踊る者は踊る。
それぞれ笑顔をたたえて。
そして彼ら彼女らはとあるタイミングで、一斉にある一点に視線をやる。
そこには社長、一 環太が立っている。
彼が持つこの曲での役割。それは旗印。
シング&ライドの全ての面々を繋ぎ止めるピースとなる存在だ。
そのやり方は彼に委ねられ、彼の好きな、彼の得意なやり方へと向かう。
彼は「ええいままよ!」そう心の中で叫び、動き出した。
彼の全身は大きく跳ね上がり、アクロバティックな運動を始めた。
彼の選択した方法は『運動』。彼の生き生きとしたものを一番効果的に見せられるものだ。
その瞬間。場の空気が変わる。
彼は曲に合わせて曲芸師のようにくるくると宙を暴れ回る。
ある程度そのパフォーマンスを続けた後、彼は自身が笑っている事に気付いた。
どうしてだろう。
そんな風に考えるが、すぐにその理由はわかった。
楽しい。
そんな三文字の単純なものではあるが、人間が笑うのに他に理由なんていらない。
彼のそんな姿を見て、ライバー達は釣られて笑う。
歌。語り。ダンス。アクロバット。
側から見るとカオス極まりない絵面ではあるが、それぞれが楽しそうにアピールをしている。
そんな発表は確かにこれからのシング&ライドに相応しい演技だろう。
そう彼は思った。
◆◇◆◇◆
シング&ライドの演奏が終わったという連絡が自身の撮影部屋に届く。
ライバーズの面々はそれを確認すると、それぞれの順番に合わせて準備を始めた。
あらかたそれが終わると、全員で集合する。
「とうとう次は私だね・・・・!あー緊張が」
「大丈夫大丈夫!夕ちゃんはできるって!心配なのは鞘形」
「おう待てバレンタイン喧嘩売ってんのか」
「その次は俺達の番で」
「それで最後は私達一期生が締めくくる」
わちゃわちゃとしながら、軽く順番をおさらいをすると全員で頷く。
他のVtuberにも引けを取らない、いやそれを超える演技をやってやる。そんな気持ちを燃やしながら。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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