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『転生勇者たちがメチャクチャすぎて一般市民は迷惑しています。』

作者: イマーノ

異世界転生が流行っているけど転生先の一般人はどう思っているのか?

という目線からなんとなく書いてみた作品です。

異常な程の強さを持ったら悪いことに使うやつも出てくるだろうな…。


ここはイセ=カイという星のフツウ国。

毎日の様に異世界転生者が現れ、街には転生勇者が溢れかえっている。

君たちの国、日本での概念的に言えば、『クソチーター共』がそこら中にうじゃうじゃ居るのだ。

こんな状態で一般人達がまともな生活を送れるはずもなく…。

俺はイッパン。イッパン・シ・ミンと言う。

フツウ国の一般市民だ。

街を歩いているだけでこんな声が聞こえてくる。


「おい、聞いたかよ…冒険者ギルドはとうとう異世界転生者だけの登録制になるとよぉ」

「うわっ、まじかよ…それで俺んとこのパーティに依頼が来なくなったって訳か…みんなで転職先探すかなぁ…」

「「はぁ〜〜〜」」


今度はこんな声。

「ここんとこさっぱり武具が売れねぇ…じいちゃんの代からやってきたけどここらで廃業の潮時かねぇ…」

「ウチもからっきしだよ、アイツらわけのわかんねぇイカれた武具を最初っから装備してたりするもんなぁ、おまけに壊れねぇみたいだしよぉ」

「「はぁ〜〜〜…」」


こんな感じで我が国はめちゃくちゃ不景気なのである。

今に比べれば、まだ数年前までは良かった。

我が国も転生勇者に頼っていたし、実際のところ国どころか星レベルで危機に陥っていたのだ。


この危機を打開する為に勇者召喚の儀を行ったのだ。

だが……今はもう…。


はじめに転生してきた勇者は良かった。

とても勇者らしい人物で、勇者そのものであった。

そのはじめの勇者に世界を救って貰った恩からか、我々が住む世界は異世界の日本というところで死んだ者で異世界への転生を望む者を、勇者としてこちらに呼び寄せると言う馬鹿げた決まり事が出来てしまったのだ。


「転生勇者とかもう要らねえよ…頼むからもう帰ってくれよ…」


かく言う俺も転生勇者のせいで職を失い路頭に迷う一人なのだ。

クソ勇者が自分の力を試す、だかなんだか知らないが

俺の農場の近くで魔法をぶっ放しやがった。

そりゃあどんなにクソ野郎でも勇者は勇者、魔法の方もとんでもない威力で農場一体を焼き尽くしたのだ。


俺はその時、街まで肉を卸しに来ていたから無事だったが…かわいがって育てていた動物たちも農作物も勇者に殺されたのだ。


そんな無茶苦茶しておいて、「オレ、またなんかやっちゃいました?笑」だとよ。ふざけんじゃねえよ!


「あいつら全員死んで元の世界に帰んねぇかな…」

そんな事ばかり考えてしまう。



そして今日もまた仕事を探して街を歩く。

最近は酒場にも顔を出していない。

酒を飲む気力もないからだ。

「はぁ……金が無いと生活できないしなぁ……どうすっかなぁ」

そんな事を呟きながら歩いていると、街の中央にある噴水広場に着いた。

この広場はいつも沢山の人々で賑わっていて活気があるのだが、この日は様子が違った。

人々がざわつき、何やら騒がしい。

「何かあったのか?」

騒ぎの中心に目を向けると、そこには見慣れた顔があった。

「あれは……まさか!」

転生勇者の一人だった。

「おーい!久しぶりじゃねーか!!元気にしてたか!?」

「えっと……どちら様ですか?」

「おいおい冗談キツイぜぇ!ほら、俺の農場に魔物が出たとき退治しに来てくれた事あったじゃねぇか!覚えてねえか!?」

「あはは…覚えてるわけ無いじゃないですか、NPCの事なんか。」


は?こいつ…俺達のことを生きている人間とすら見ていないのか…?


こいつらの言う事は異世界の言葉でわけわからんものが多かったが、今はもうそう言った概念はこの世界でも知れ渡っているのだ。


「なんだとこのっ…」

「ああ、すみませんモブの顔覚えてなくて…失礼でしたね。でもボクは勇者なんで辞めといたほうがいいですよ。」


ぐぬぬぬぬぬ…ほんとなんなんだよ勇者ってよぉ!

「お前らからしたら俺たちは取るに足らない存在かもしれないけどな、ここは俺達の国なんだよ、ここに住んでる人達はみんな生きてるんだよ!」

遮るように勇者が食って掛かる。

「でもボクたちが居ないと生きていけないじゃないですかぁ、魔物とか襲ってくるしぃ」


こんのクソガキ…なんでこう言う力を持った勘違い野郎みたいなのばっかりなんだ勇者ってやつは…

「あのなぁ、お前ら転生勇者のせいで…お前らから見たら異世界人である俺たちがどれだけひどい目にあってるのか知ってんのか!」


「何言ってるんですか?僕たちはあなた方を救ってあげてるんですよ?この強力な力で…!」

ドォン!!!

無詠唱魔法!ありきたりだ。でも町中でいきなり撃つかね?

メラメラメラ…パチッパチッ…焦げ臭い匂いが周囲に漂う。


「きゃあーっ!!!私の家が!!」

「中に子供が居るんです…誰か!誰か助けてぇ!!!」

燃やされている家の夫婦はパニック状態である。


「ふふふっ…面白いなぁ…ボクを怒らせたあなたのせいですよぉ?」


こいつ…狂ってやがる…


「確かにお前を怒らせたのは俺だが……家を燃やしたのはお前がやったんだ。それが勇者のすることなのか?」

「そんな口聞いていいのかなぁ、このボクに…無力なクセにお説教とは…偉そうにするなよ、NPC!」

シャキィン…クソ勇者は剣を抜いた。

(しめた、ターゲットは俺になったか…このまま引きつけて町の外に出るしか…!)


「守るべき対象に剣を抜くとは…随分とご立派なもんだな、勇者様よ!」

挑発しながら俺は壁門へと向かった。

「まて!クソNPCぃ!」

顔を真っ赤にしてこちらに向かってくる。だが、ヤツの性格からしてすぐにとどめを刺しに来る感じではなさそうだ。


俺はそのまま逃げの一手だ。

俺が逃げるのは想定外だったらしく、クソ勇者は戸惑っていたようだ。

「くそっ……逃がすかっ……」

やっとの思いで、俺は街の外へ出た。

「ここまで来ればもう大丈夫だろう……」

しかし、まだ油断はできない。

「さっきは舐めてかかって来たからなんとかなったが……次も上手く行くとは限らないからな」

そんなことを考えていると、後ろから声が聞こえてきた。

「ふぅん、思ったより賢いじゃないか、NPCさん。」

振り返るとそこには冷静を装いつつもキレ散らかしたクソ勇者が立っていた。

剣を持つ手がブルブルと震えている。


「これはどうも、お褒めに預かり光栄であります、クソ勇者殿。」

「ふんっ、減らず口もそこまでだ!今殺してやるからなぁ!」

剣を振りかぶられ、俺も覚悟を決めたのだが…クソ勇者はなにか思い出したようにニヤリと口元を歪ませた。

「フフフッ、いい事を教えてやるよ…お前の農場をぶっ壊したのはボクだ!どうだ、驚いたろう!」


!!

こいつが俺の農場を……!

勇者の悪事(被害というべきか。)は保護法とやらで顔や名前まではわからないのだ、やらかした事への反省文が渡されるのみである。

全然反省などしていなかったが。


「なぜ俺の農場を燃やした…!動物や作物の命まで奪いやがって…!」

「理由なんてありませんよ、強いて言えばくだらないお使いクエストをさせられたから、ですね」


転生勇者、それはいつからこうなってしまったのだろう。


ただ、力なき者への一方的な蹂躪と言った点では魔物へも人間へも平等であるように思えた。


「もういい、さっさと殺してくれ。俺はもうこんな世界にはうんざりだ、てめえらクソ勇者共にもな…」

「さっきまであんなに威勢が良かったのに…生きる気力も無くしちゃいましたか、なぁんだつまんない。醜く命乞いをしている所を嬲り殺しにしたかったのに。」


もう何も言う気にもならない。

心底、転生勇者と言うものを軽蔑してしまったからだ。


「じゃあ死ね!」

ザシュッ!

ガキィン!

「なんだお前!」


そこに立っていたのは…

「イッパンさん、お久しぶりです!こんな形の再会になってしまってお恥ずかしいのですが…!」

なんと最初の転生勇者、初勇はじまりいさむであった!


「おっ…お前今までどこに…!」

「実は魔王を倒したあと引退していて…陰キャ…隠居していたんです…よっ!」

キイィン!

勇がクソ勇者の剣を弾き飛ばした。

「クソッ!こいつも勇者か!」

クソ勇者が無詠唱で火球を放とうとしたその時!


ヒュン!

風切り音とともにクソ勇者の服が切り刻まれた。

「ふっ服が…!」

クソ勇者はいっちょ前に恥ずかしがっている。恥じらいがあるとか…人の心とか残ってたのかコイツ。


ズンズンと威圧的に勇はクソ勇者に向かっていく。


「あのねぇ君、何やったかわかってんの?」

「は、はひぃ!」

「君は俺の恩人を傷付けただけじゃ無く街の人にも迷惑かけてんだよねぇ…こんな程度で本来済まないんだよね」

「ひいぃ!」

怖い笑顔だ、助けてもらった俺でさえ怖い。

勇はチラリと俺の方を見てコイツの処遇をどうするのか俺に委ねると顎で指図している。


「そうだな…取り敢えず本気で殴らせてもらう、それから決めよう。このままだと俺の気が済まん。」

勇はそうするのが当然であろうと思っていたのか、俺を止めなかった。「勇、お前は街に行ってコイツに壊された家に向かってくれ。騒ぎになってるからすぐ分かるはずだ。」

「わかりました、僕が居なくても大丈夫な様にコイツに拘束呪文掛けておきますね。」


手慣れた様子で勇は魔法を掛け、走り去った。


「さぁて、こっちはこっちで用事を済ませよう。」

「クソッ!どうして勇者のこのボクがっ!グボッ!」

ドゴォ!バキィ!

「こんな事をしても奪われたものは帰ってこないが…奪われた者の痛みを身を以て知るんだな」

俺はクソ勇者をボコボコにした。

殺しはしないだけマシだろう。

こんな事ぐらいで改心するような相手では無いだろうから次の策も考えてある。

拘束呪文が掛かっているクソ全裸男を持っていたロープで縛り上げ、街まで引きずり回した。

広場に戻ると勇が俺を見つけ手を振っていた。


「やあ、イッパンさんおかえりなさい。」

「あぁ、勇、この家の子は無事だったか?」

「ええ、煙に焼かれ死にかけていましたが…回復魔法が間に合いました。」

良かった…しかし勇が居なかったらと思うとゾッとする。

「ついでに家も直しておきましょう…時間魔法で…」

うーん勇…なんでもありだな…

「新築状態に戻しておきました。家具なんかも新品同様ですよ。」


「ありがとうございます勇者様!」

「なんとお礼を言ったらいいか…」

俺が見たかったのこれ〜〜〜っ!!

勇者とはこうあって欲しいものだ…。

「おい、クソ全裸男、見てるか?これが勇者だ。」

「………」

「おい、返事しろよ…あっ。」

忘れていた、コイツの歯と顎の骨を折ってたんだった。


「ははは…スマンスマン、いつぞやの言葉を返すようだが…お前が悪いんだからな。」

「グゴゴゴゴ」

顔を真っ赤にしている、あれれ〜?恥ずかしいのかな?ゴンッ!

「ブゴッ!」

クソ全裸男は大人しくなった。連れてきた時点で大人しかったが。


「イッパンさん、コイツどうするつもりなんですか?」

「うん、その事なんだが…勇、お前から国に掛け合ってくれないか?」

「えっ、僕からですか?一体何を?」

「召喚することが可能なら送り返す事もできるだろう、多分。」

「なるほど…そういう事ですか…わかりました。」

「この世界に勇者を送り付けてきた神にコイツがどんな悪事をしたか洗い浚い話してユニークデバフスキル付与させて送り返してやるわ!」

「はははは!そりゃあ良いや!」


こうして俺たちは迷惑転生勇者を元の世界へ送り返すサービスを始めたのであった!


〜完〜

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