これはもう……ざまあとかいうレベルじゃないよ?
「では、王様と王妃様にお別れを……」
イスから立ち上がると、王子が慌て始める。
「母上に……挨拶?」
「はい。もうお会いする事も無くなりますので、最後のご挨拶を」
「待て! いや、何と言うつもりだ? まさか、全てわたしのせいだと告げ口するつもりか!?」
は?
まさか……
王様に婚約破棄の事、許可を得ていないの?
そこまで愚かだなんて……
婚姻は家と家との結び付きを何よりも優先するもの。
当事者同士の気持ちなんて関係ない。
今回の婚約だって公爵家の家柄で決まったようなものだし。
王妃様が自身の立場を盤石にする為に、公女のわたしを利用したいのはわかりきっている。
「必要ないわ? アンジェリカ……ごめんなさいね。悪いのは全てこの女よ?」
王妃様が怒りを隠しきれない表情で現れる。
うわぁ……
かなり怒っている。
王妃様は家柄を大切にするから……
エミリアは男爵家だから、家柄的に気に入らないのかな?
でも……
正直、この性格の悪い王女や王子と縁が切れるなら……
リコリス王国の人々の為にできる事は、別のやり方を探そう。
「王妃様……わたしは、殿下に婚約破棄を言い渡されました。これでお別れです。王妃様にはいつも大切にしていただき感謝の気持ちでいっぱいです」
「アンジェリカ……それはダメよ? 全てこの女が悪いの。だいたい、このリコリス王家に卑しい男爵家の血が混じる事は許されないわ? ねぇ? エミリア……だったかしら? そう思わない?」
「王妃様……それはどういう……? 我が国の法では堕胎は許されていません。この子はどうしろと……?」
エミリアがガタガタと震えている。
「お前……王妃であるわたくしに口答えするとは。これだから卑しい者は……」
王妃様……?
今までわたしに見せていた優しい笑顔とは違う。
冷酷な表情……
怖い……
体が震える……
「王族を誘惑し、王室を煩わせた罪で処刑する。……やれ」
え?
王妃様……?
今なんて?
王妃様付きの騎士がエミリアに剣を振り下ろす。
「「きゃああぁ!」」
王女達の悲鳴が響く。
「あぁ……エミリア……」
王子がエミリアにゆっくり近づく。
さすがにこれは酷い……
エミリアは性格は最悪だったけど、これはやりすぎだ……
「痛い……痛い……殿下……助け……」
「エミリア! 母上、医師を……」
「……なぜあなたがまだ王太子になれないか、わかりますか?」
「母上……? 今はそんな事を……」
「そんな事? 一番大切な事よ? 他にも王子はいるの。あなたがいつまでもそんな風だと……わかるわね?」
王妃様……
怖い……
体が動かない……
「……! はい。母上……」
王子の表情が恐怖で固まっている。
「殿下……痛い……助けて……」
「エミリア……すまない。お前が悪いんだ……お前が男爵家だから……」
「殿……下……」
エミリアの瞳から生気が無くなるのがわかる。
あぁ……
なんて事を。
王子……いつもあなたは他人のせいにして、逃げるんだね……
こんな人の婚約者なんて絶対にイヤだよ。
「王妃様……なんて事……」
第一王女が震えながら、エミリアを見つめている。
王女はエミリアと仲が良かったから……
「お前……今わたくしに何と言った?」
「え? 王妃様……違います! わたくしは……」
「力の無い側室の子のお前を生かしてやっているというのに……やれ」
「王妃様! 違います! お兄様! 助けて!」
「……全部お前が悪いんだ……」
王子……
また、人のせいに……
「お兄様! きゃああぁ!」
騎士が剣を振り下ろす。
あぁ……
王妃様……
もう誰も王妃様を止められない。
下手に口を開けば、次はわたしがやられる。