わたしの人生返してよ!
『異世界で、人魚姫とか魔王の娘とか呼ばれていますが、わたしは魔族の家族が大好きなのでこれからも家族とプリンを食べて暮らします。~ルゥと幸せの島~』のアンジェリカが主役の物語です。
わたしはリコリス王国のアルストロメリア公爵家、公女アンジェリカ。
緑の瞳で、長い金の髪を縦巻きにした、十五歳。
厳格な両親と二人の兄と暮らしている。
上の兄は父の後継者として、下の兄は王室騎士団長として日々忙しく過ごしている。
わたしは今、淑女教育を受ける為にアカデミーに通いながら、リコリス王のお妃候補としてお妃教育にも励んでいる。
わたしには少し前まで違う婚約者がいた。
前リコリス王の第一王子だった人……
でも、今はもうこの世にはいない。
今日は、わたしの昔ばなしを聞いて欲しい。
あのろくでなしのクズ野郎……
あら、失礼。
淑女教育を受けているというのに、口を滑らせてしまったわ……
とにかく、あのクズ野郎……いや、第一王子だった人はとんでもない女好きで、見目麗しい女性を見る度に王子という肩書きを利用して、片っ端から手をつけていったの。
わたしという婚約者がいるのに……
わたしは幼い頃に前リコリス王に、無理矢理王子の婚約者にされてしまった。
その頃の王子は、生意気で自分中心に世界が回っていると勘違いしているクソガキ……
イヤだわ……
あまりにもクズだったから、つい本音が出てしまって……
淑女たるもの、このような乱暴な言葉づかいをしてはいけないわ……
とにかく、あの日からわたしの地獄の日々が始まった。
兄が二人という環境に育ったわたしは、物心が付く頃には活発な女の子になっていた。
おしとやかとは真逆をいくような、豪快な性格だった。
そんなわたしにとって型にはめ込まれるお妃教育は苦痛でしかなかった。
王子を好きなら話も違っただろうけれど……
どう頑張っても無理だった……
王子には婚約者はわたし一人だけだった。
わたしは公爵家の身分もあり、王にも王妃にも大切にされていた。
ただ、リコリス王国では富める者はどこまでも富み、貧しい者は見捨てられ、スラム街や過疎地では毎日かなりの数の死者が出ていた。
王も王妃もその事には目も向けず、日々贅沢に暮らしていた。
もちろん、王子も王女達も贅沢三昧。
貧しい者は初めからそこにはいないかのように、気にも留めなかった。
だから、わたしは地獄のようなお妃教育を死に物狂いで頑張っていた。
わたしがお妃になれば、貧しい人々が暮らしやすい世の中に変えられるのではないかと思ったから……
いつの間にか……わたしは笑う事を忘れていた。
常に眉間にシワを寄せて、遠くを見つめてはため息をつく日々を過ごすようになっていた。
その原因は……
そう、王子……
あのクズ……いや、王子は勉強もせずに毎日遊び回ったあげく、わたし以外の女との間に子供をつくりやがっ……あら、イヤだわ。
汚い言葉を使ってしまったわ……
とにかく、王子は最低だった。
あれは、王子と二人の王女に招待されたお茶会での事。
そのお茶会には、王子の子を身ごもったエミリアも来ていた。
「アンジェリカ? もう終わりにしよう? 初めからお前の事はタイプじゃないっていうか。はっきり言えば、キライなんだよね?」
は?
バカ王子、何言ってるの?
わたしもお前なんかキライだよ。
バーカ!
「お兄様ったらそんな事言ったらかわいそうよ? クスッ」
「オンジェリカだって、身ごもればこんな事にはならなかったのにねぇ? あぁ……触れられる事も無いから無理ね。ウフフ」
第一王女……
オンジェリカじゃなくてアンジェリカだって何回も言っているのに……
完全にわざとだ。
本当に性格が悪いわ……
でも……これで辛いお妃教育から逃げられるのか……
……いいのかな?
貧しい人々の為に頑張るって決めたのに……
「アンジェリカ様……ごめんなさい。わたしが殿下の寵愛を奪ってしまったばかりにこんな事に……」
エミリア……
わざとらしいね。
悪いなんて全く思っていないくせに……
顔がにやけているわよ?
笑っていられるのも今のうちだけどね。
すぐにお妃教育が始まって地獄を見るわよ。
自分の時間なんてほとんど無いんだから。
ずっと見張られていて、自分らしさなんて消えてしまうんだから。
「あぁ……エミリアのせいではないよ? 悪いのは、かわいげの無いアンジェリカなんだから。お腹の子に良くないから、もうこんな女の事は忘れよう?」
「はい。殿下」
バカらしい……
もう帰ろう。