家と女子(おなご)~其の漆~
雪絵は3度目の出産を終えましたが、産後の肥立ちが悪く寝付いてしまいました。
春まだ浅い日の午後に雪絵は男子を出産しました。
男子出生を心から願っていた幸助、何よりも男子に恵まれなかった舅と姑の喜びは大きかったのです。
最初の男子の名前を幸助が付けたかったのですが、舅が考えていた名前にしました。
次男とこの春産まれた三男の名前を考えたのは幸助でした。
三男の名前は治男です。
三か月で亡くなった次男の名前も治郎でした。
明治の治から付けられた名前でした。
治郎の生まれ変わりだと思いたくて同じ治を名前に使ったのです。
今度こそ早逝してほしくないと幸助は願っています。
勿論、舅も姑も幸絵も、そして花絵も…。
ただ、出産後の雪絵は産後の肥立ちが悪くて起き上がれない日が続いていました。
「雪絵は男腹だなぁ。
また、身籠ったら男子に決まっているなぁ。
また男子を産んでもらわいと…。
雪絵には早く良くなって貰わないと困る。
医者に診てもらったのか。
産婆では埒が明かん。
なるべく良い医者に…。」
「お父さん、もう医者に診てもらっています。」
「そうか…それなら安心だな。
ところで、あっちはどうなんだ?
生まれそうか?」
「まだのようです。
まだ月も満ちていませんし…。」
父親と話していた幸助が花絵に向き直して…
「花絵、治男も頼む。
それから、隣町へ一緒に行ってくれ。
生まれる前に一度会って欲しい。
生まれたら君に迎えに行って欲しい。」
「はい。分かりました。」
「すまんな。」
「いいえ。」
幸助の「すまんな。」は小さな声で傍にいる花絵にしか聞こえないくらいでした。
花絵も小さな声で「いいえ。」と応えたのです。
花絵が一女二男を差建て始めた日に、乳母がやって来ました。
幸太郎の時の乳母です。
「また、お願いしますね。」
「はい。奥様。よろしくお願いします。」
乳母は幸助の会社の社員の妻から選ばれていました。
明子の時は乳母と決めずに、社員の妻から貰い乳をしていました。
会社が大きくなって乳母を一人に決めることが出来るようになったのです。
花絵の部屋がとても賑やかになりました。




