家と女子(おなご)~其の陸~
幸助が囲った女の存在は、雪絵の女心を、そして花絵の女心を揺さぶりました。
年が明けたある日のこと…。
明子と幸太郎の寝顔を見ながら、幸助が花絵に話しかけました。
「雪絵が隣町へ行ったらしい…。」
「…えっ。…雪絵さんが…。」
「見に行っただけ…らしいけど…な…。」
「君の妹だから、そんなことをするとは思わなかった。」
「申し訳ありません。私から話します。」
「『もうしない。』と言ってたから、何もしなくて良いからな。」
「ただ、一度に乳飲み子を二人育てるようになる花絵には悪いと思ってるんだ。
でも、子どもをしっかり育てられるのは花絵しか居ないと思ってる。」
「旦那様、ありがとうございます。」
しばらくして、ぽつりと幸助が言いました。
「花絵が子どもを産んでくれてたら….]
その言葉を花絵がどんなに嬉しく聞いたことか、幸助は知る由もありませんでした。
雪絵の部屋でお腹の赤子のこと、雪絵の身体のことなどを聞き、幸太郎のことを色々話した花絵でした。
雪絵と話していて、その大きなお腹を見ると、「そんな身体で隣町まで行ってきたのか。」と思い、花絵は雪絵が無事に帰ってきてくれて「本当に良かった。」と心から思いました。
隣町で何か身体に異変があったら…と思うと、花絵はぞっとしたのです。
「お姉さま…。」
「雪絵さん、『奥様』と…。」
「一度だけ…これで本当に最後です。
だから、お願い。お姉さま。」
「もう、お止めなさい…ね。」
「聞いて、お姉さま。
私、隣町へ行ってきました。
どんな方か知りたかった。見たかった。」
「…お会いしたのですか。」
「玄関を出たあの方を見ました。
旦那様が出られた後にお見送りされていたあの方を…。」
「旦那様に雪絵のその姿を見られたのですか?」
「…はい…。」
「その身体で、もし何かあったら…とは思わなかったのですか?!
身体のことを一番に考えてほしいのです。
お願い。」
「…申し訳ありません…。
でも、悔やんでいません。良かったと思っています。」
「…。」
「私と時を同じくして旦那様の子を授かった方です。
姿だけでも見ることが出来て私は良かったです。」
「…そうですか。」
「はい。旦那様がご自分のお心のままに求められた方です。
私とは違うのです。
だから、知りたかった…。」
「…分かりました。でも、二度としないでください。」
「はい。二度とこのような…はしたないことは致しません。
どうしても私の口からお話ししたかったのです。
問い詰めたりせずに聞いてくださり、本当にありがとうございます。
…お姉さま。」
「…辛かったでしょう。
どういう経緯であれ、貴女も旦那様をお慕いしている…。」
「…ううっ…。」
雪絵は姉の胸の中で声を殺して泣きました。
一頻り(ひとしきり)泣いた後、雪絵は花絵の前で三つ指ついて言いました。
「奥様、もう二度とこのようなことは致しません。
我儘をお許しいただき誠にありがとうございました。
幸太郎さんのことをどうかよろしくお願い致します。」
花絵を妻にと願ったのも、雪絵を妾にと願ったのも舅だったと聞いたのはいつだったのでしょうか。
花絵を幸助の妻にと舅が決めたことは嫁いで来る前から分かっていた花絵でしたが、雪絵を妾にと願ったのは幸助だったと思っていたのです。
雪絵も舅が願ったと花絵が姑から聞いたのは雪絵が来ると知った日だったのでしょうか。
まんじりともせずに朝を迎えた日が続いたのは、幸助が妾を求めたことが辛かったのでしょうか。
それが、妹だと知ったことが辛かったのでしょうか。
「旦那様が心から求められたのは、ヨシさんと…。
お二人だけなのね。」
その事実が花絵と雪絵の心を平静にしてくれなかったのです。




