家と女子(おなご)~其の肆~
雪絵は子宝に恵まれましたが、次男を亡くしてしまいました。
雪絵が3度目の妊娠をした頃、幸助が隣町に家を建てました。
その家に入ったのは舅・姑ではなく、雪絵でもなく、花絵でもありませんでした。
この頃の日本は乳幼児の死亡率が高く、10人子どもを産んでも何人かは育たないことも少なくありませんでした。
「貧乏人の子だくさん」も、「多数の妾に子どもを産ませる金持ち」も、そのどちらも子どもが病気で失う可能性が高かったからとも言えなくはありません。
雪絵の最初の子は男子、長男は幸いなことに無事に健やかです。
「次の子がすぐに欲しい。」と幸助は言いました。
「子どもは何人いても良いわなぁ。」と舅も姑も幸絵に期待しました。
「花絵。明子だけではなく、雪絵が産む子ども皆をお前に育ててほしい。」と幸助に言われた時、花絵は「私の役目です。」と言い切りました。
「産めなくても育てて、この家の役に立ちたい。」と思ったのは、そうでないと居場所がなくなるからです。
雪絵は「奥様。よろしくお願いいたします。」と花絵に向かって三つ指ついたのです。
すぐに雪絵は身籠り、二番目の子を産みました。
またもや幸助待望の男子でしたが、次男は生後3か月で高熱が続き逝ってしまいました。
その時の幸助の落胆は大きく…。
子どもを育てていた花絵は幸助と舅、姑に詫びるしかありませんでした。
「なんとお詫びしても許されないことと存じます。
…本当に至らないことでございました。
申し訳ありませんでした。」
ひれ伏すように詫び続ける花絵でした。
雪絵は失った子への想いが深く…。
「私が育てていたら…。」
その想いに取りつかれているようでした。
幼すぎる子が亡くなった後の葬儀で、改めて幸助は思ったのです。
「小さな棺桶だな…。」
母である雪絵の想いも同じでした。
幸助の足は雪絵の部屋よりも花絵の部屋に向かう日が多くなりました。
子ども達に会うためと、涙にくれる雪絵の姿を見たくなかったからです。
雪絵は幸助に会いたかったのです。
そして、3か月が過ぎた頃には…
「あの子を取り戻したい。」
「今度、男子を産んだら、
その子は、あの子の生まれ変わり…。
産みたい。
旦那様のお子を…。」
そう思えるようになったのです。
家族が揃っている場で雪絵が言ったのです。
「奥様。次も男子を産みます。
どうかお心安くお暮しくださいませ。」
「雪絵。良う言うた。今度も男子を産んでくれ。」
「はい。旦那様。」
雪絵を見る幸助の眼差しが優しく、雪絵は幸助の言葉に頬を染めていました。
花絵はその場にいることさえ苦しい想いでした。
「立派な跡取りに育てなければ…。」
そう思い詰める花絵でした。
雪絵は3度目の子を身籠りましたが、その頃から幸助が家を購入したのです。
その新居には芸者だったハツが囲まれていました。
花絵が気づいたのは、新居の近くを通った弟・隆正からの手紙でした。
「姉上様
先日、隣町で義兄上様をお見掛けいたしました。
義兄上様が入られた家から御新造さんと思われる女子が出てきました。
姉上様から伺っていた隣町の新居ではないかと思われます。
もしかしたら、妾を囲うため建てられたのではないかと思います。
もし、その女子が子を授かっても、姉上様が正妻であることには
変わりがありません。
姉上様には無用な文だったと思っております。
分かっていても文をしたためてしまった愚かな弟でございます。
お笑いください。」
そう書かれていました。
雪絵が妾として来た時に、思ったことを、己に思い聞かせたことを再度思い出した花絵でした。




