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夫婦の体温  作者: yukko
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金木犀の香り~その8~

夫婦とは何なのだろう……と考えることが何度もあった。

文子の母親が文子を置いてアメリカ兵と結婚してアメリカに行った時から、夫婦とは何なのだろうと思うようになった。


父母も、兄夫婦も、そして俺達夫婦も恋愛結婚ではなかった。

文子の両親も恋愛結婚ではなかったようだ。

同じような結婚をしても、俺の妻は俺を待ってくれた。

見合いした日に結婚式だったけれども、まさは俺の帰還を待ってくれた。

兄嫁も見合いで嫁いで来て、兄の戦死を告げられても帰還を待って、深く傷ついた兄の心に寄り添ってくれた。

父母も周囲が決めた結婚だったが、最期まで様々なことを夫婦で乗り越えて人生を終えた。


父母は9人の子宝に恵まれたが、その内の5人を亡くしている。

生後3か月ほどで亡くなった子どもが2人、戦死が2人、10歳で病死した子が1人。

次男にも戦死公報が届き人に知られないように悲しみを押し殺した。

その次男が帰還した時の父と母の喜びは大きかった。

俺の身近で唯一恋愛結婚だったかっちゃん夫婦。

その二人の心の結びつきは強かったと思う。

それぞれの夫婦が、それそれの「夫婦の体温」を冷やすことなく過ごせたのだと思う。

かっちゃんの所だけは上がったままの「夫婦の体温」だったのだろう。

だから、文子の母親が文子を置いて上京したと聞いた時は「あり得ない!」と思ってしまった。

上京したきり、婚家に子どもを置いたきり、婚家には音沙汰なく、実家には便りがある。

戦死した夫の子どもを捨てることが出来るほど、亡き夫との「夫婦の体温」は低かったのだろうと思った。

そして、アメリカで裕福な暮らしをしていて、その家族との写真を実家に送っているのだから、きっと今の夫とは冷えることない「夫婦の体温」なのだろう。



あの日から20年程経って、二人はそれぞれに伴侶を見つけた。

勿論、恋愛結婚だ。

文子が結婚したいと相手を連れてきた後で、俺は文子に聞いた。


「アメリカに住んでいるお母さんに伝えた方が良いと思うぞ。」

「私のお母さんは二人だけ…。

 乳飲み子だった私を『貰い乳』して育ててくれた叔母さん。

 そして、それから育ててくれたお母さん。

 二人だけ!

 アメリカにいる人は産んでくれたけど……

 ただ、それだけで……

 だから、叔母さんとお父さん、お母さんだけで良いの。」

「それでも…なぁ…。」

「もう、この話はお終いにして…ね。

 お父さん。」


アメリカにいる母親とは疎遠のまま、そして、その事情を理解してくださった嫁ぎ先のお陰で、文子は嫁いでいった。

ただ、俺としては……

母親に文子の花嫁姿を見せたかった。

結婚式の文金高島田、角隠しで鮮やかな打掛姿の文子を見て欲しかった。

文子には内緒でアメリカの母親に写真を送った。

文子の叔母からアメリカの母親のことは聞いていた。

連絡先も、今の家族のことも……。

アメリカで女の子を一人授かって、3人家族で幸せに暮らしているようだった。

驚くほど大きな綺麗な家の庭で3人で写っている写真を、文子の叔母から貰っていた。

その写真を文子に渡したが、文子はそれを嫁ぐ時に持って行かなかった。

アメリカの母親からは感謝の言葉が綴られた手紙を受け取ったが、その手紙の文面は「育ててくださってありがとうございました」だけで、文子のことを聞くような言葉は全くなかった。

文子は母親に捨てられたのだと俺は改めて感じた。

それは、まさも同じであった。

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