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夫婦の体温  作者: yukko
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金木犀の香り~その5~

幼馴染の克矩かつのりの妻・厚子の死に際して、残された子を育てると決意した。

前にかっちゃんの奥様に会いに行って帰宅した時に、どんな話をしたのかは妻に話していた。

話していたから電報を受け取って、行くことを妻に告げたら、妻は一緒に行くと言った。

俺も一人では不安だったので、妻が同行してくれることは心強かった。

かっちゃんの奥様に会ってから、俺は妻の気持ちを知りたかったが、聞く勇気はなかった。

そんなことを思いながら、妻とかっちゃんの奥様の家に向かった。

時々、隣にいる妻の顔を見た。

目が合うと妻は微笑み、「何?」と聞いて、俺は「なんでもない。」と答えた。

そして、「一緒に来てくれて、ありがとう。」と一度だけ言った。

妻は「夫婦だから当たり前。」と言いながら、はにかんだように見えた。

そんな時間を、かっちゃんと奥様はどれだけ持てたのだろうか…、奥様は子どもを残して、かっちゃんの所へ行くのか…と、想いを巡らせていた。


かっちゃんの奥様は俺たちの姿を目にすることなく息を引き取った。

俺たちが着いた頃には意識がなかった。


「厚子さん、子どものことは任せてください。

 安心できないだろうけど、二人で育てます。」

「私も頼りないけど、任せてね。

 厚子さん。」


そう息を引き取る前の厚子さんに誓った。

そして、俺は流れる涙を止められないまま、真っ青な空を仰ぎ見て、かっちゃんに言った。


「かっちゃん、やっと二人一緒に暮らせるね。

 子どものことは任せろよ…な。

 俺には子が無いから、子育ては不安だぞ。

 でも、家内と一緒に育てるから…

 俺は頼りないかもしれないけど

 家内は頼れるぞ。

 かっちゃん、任せてくれよな。」



俺たち夫婦の初めての子育てが始まった。

俺たち夫婦にとって初めて育てる子は、男子でその見目は戦死した幼馴染にそっくりだった。

覚えている幼馴染の幼い頃にそっくりなのだ。

それが悲しく…そして嬉しかった。。

幼馴染の妻を俺たち夫婦だけで荼毘に伏してから連れ帰る途中で俺は妻に言った。


「かっちゃんに……そっくりなんだ…。」

「そう……。」

「小さい時のかっちゃん……そのものなんだ……。

 俺が覚えている一番小さなかっちゃんに似てるんだ。」

「そうなのね……。」

「まさ……すまない……。」

「なにが?」

「この子を連れて帰って…

 俺は幼馴染の息子を放って置けなかった…

 お前には無縁の人の子だ…

 この子を一緒に育てて欲しい…というのは俺の我儘だ…

 すまない……一緒に育ててくれないか……。」

「何をいまさら!

 そのつもりで私は付いてきたのに…

 分かってなかったの?

 失礼だわ…ね。」


そう言って妻は幼子に優しく微笑んだ。

泣き疲れて眠ってしまった幼子に……。


戦後間もない日本は食糧難が続いていた。

そんな状態でも農家は食べていくことが出来た。

だから、連れて帰ったのだ。

帰ると両親には呆れられたが、兄夫婦は違っていた。

特に兄は「本当に良くやってくれた。俺も出来る限り協力する。」と言ってくれた。

兄は戦地での悪夢に悩まされる日々を送っていた。

兄も俺と同じで「どうして……今……生きているのか……。どうして戦友と共に死ねなかったのか……。」という想いに囚われていた。


俺の我儘を聞いてくれて一緒に育ててくれる妻に頭が上がらない。

この子を育てる前に、かっちゃんの実家に行かねばならなかった。

電報を受けた時は大急ぎで行ったので、俺はかっちゃんのご両親に何も言わずに向かったから……。

厚子さんには「俺たち夫婦が育てる。」と言ったものの、かっちゃんのご両親の意向を全く考えていなかったからだ。

ただ……「俺が育てないと誰も育てない。」とも思っていた。

それは……俺が電報を受ける前に厚子さんのご近所の人が電話を架けたそうだ。

かっちゃんの実家に電話をしてくれたのは、病気で乳の出が悪くなった厚子さんの代わりに乳を与えてくれていた人だった。

その人の話によると……


「電話をしたんだけどね。

 来ないって…

 そっちで荼毘に伏して欲しい…って……

 孫なのに…ね…

 この子に会いたくないし、孫じゃないって言ったのよ。

 出征直前のことなのよ。

 出征する克矩かつのりさんから貴方のこと聞いてたのよ。

 何かあったら貴方を頼って欲しいって…

 住所を書いた紙を貰ってて……

 …ほら…これ…

 それでね。電報したのよ。

 うちの人が電報した方が良いって…言うもんだから…。」


かっちゃんのご両親は会いたくないということだったけれども、俺は筋を通そうと思った。

かっちゃんの実家は俺の家と違って資産家だが、何故だか俺はそんな家の御曹司と幼いころから仲良かった。

よく遊んだ。

あの日々は、もう戻らない。


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