金木犀の香り~その3~
戦後、戦死した特攻隊員の遺族の元を訪問する。
俺は家に帰った。
無事に帰れたことを父母は喜んでくれた。
ただ、兄が生きているのかどうか…分からなかった。
出征して南洋に居るであろう兄…。
俺は兄の帰還を神仏に祈願するしかなかった。
秋になって、かっちゃんの奥様は玉のような男の子を産んだ。
かっちゃんのお父さんが来て、「克矩の子どもだそうだが、克矩との結婚を許していないことは知っているね。この子どもを我が家の子と認めることはしない。一切縁がないと思ってくれ。勿論、金銭の援助は無い。」それだけ言って帰って行った。
俺は悔しかった。
居候だということで辛かったのか…
次の夏を過ぎたある日、かっちゃんの奥様は子どもを連れて家を出ると言った。
俺は大反対したが、心は定まっていたようで止められなかった。
ただ、行先だけは教えて欲しいと懇願した。
終戦後2年経って、兄が無事に帰ってきた。
父母、何といっても兄嫁の喜びは大きかった。
帰還した兄は瘦せ細って見る影もなかった。
兄は夜中に悪夢を見るようで毎晩うなされていたそうだ。
その度に兄嫁は「どうすれば良いのか。」と…。
兄も兄嫁も苦しそうだった。
太平洋の激戦地にいたそうで……生き残った苦しみを兄は抱えていた。
それは、俺も同じだった。
俺は出来るだけ多くの遺族に特攻機に乗って逝った戦友たちの最後の日々を伝えたいと思っていたので、農閑期に分かっているだけの遺族のお宅を訪問することにした。
妻がそんな俺の気持ちを分かってくれて後押ししてくれた。
最初に訪れたのは、かっちゃんのご両親の所だった。
かっちゃんのご両親は会うことを拒まれたが、奥様と子どものことではなく知覧でのかっちゃんとの会話を伝えたいと申し出たら会ってくれた。
かっちゃんの奥様への想いを伝えた。
それを伝えても、どうなるものでもないと思ったが、伝えたかった。
それから、2人の特攻隊員のご遺族の元を訪れた。
線香を上げさせてもらえるだけで俺は「会いに来たよ。」と話せているように思った。
ご遺族は、お父上、お母上は話を聞けたことを大変喜んでくださった。
そして、俺は最後にかっちゃんの奥様の所へ行った。




