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夫婦の体温  作者: yukko
14/23

たった4か月の妻~その2~

夫が戦死してからの妻の心

お腹にいた子を失って、身体が癒えた頃、実父がやって来て「実家に戻ることになった。」と私に告げた。

夫の遺書通りにすると両家で決めたと言った。

私は拒絶した。


「ここで孝雄さんを待っています。」

「孝雄さんは……もう帰ってこられないから

 お前は家に帰って、別の方の元に嫁ぐように!」

「嫌です。孝雄さんの私は妻です。今も妻です。」


どうしても首を縦に振らない私に業を煮やした父は「もう決まっている。」とだけ言い残して帰って行った。


何度も舅、姑に実家に帰るよう説得されても私は帰る気にならなかった。

何度か両親が来ても断った。

両親は「親の言うことが聞けないのか!!」と激怒した。

父の怒鳴り声がどんなに響いても私は「帰りたくない。私は孝雄さんの妻です。」だけを繰り返した。

親に逆らうことなど一度もしたことがない私が初めて逆らったことに親は驚いていた。

数日、正岡家に滞在した両親は諦めた様子だった。


「今、来ている縁談を断らないといけないな…。

 間に入ってくださった方に申し訳ないけれども

 仕方ない…。」


そう言った父が舅に向き直して…


「すみません。

 こんな娘ですが、正岡家の嫁として

 こちらで暮らすことをお許しいただきたい。」

「どうか頭を上げてください。

 寿子さんをお預かりします。

 どうか安心してください。」


私は残りの人生を正岡家の嫁として生きていく。

それが決まって嬉しかった。


「孝雄さん、私、今もこれからも貴方の妻です。

 孝雄さんの遺言に逆らってごめんなさい。」



あれから、60年も経った。

舅も姑も看取った。

いつも私は孝雄さんに話しかけて暮らしていた。

姪も甥もいっぱい生まれて、私は「寿子おばちゃん」と呼ばれて幸せだった。


「…うっ…痛い…。

 苦しい…。

 孝雄さん……助けて…。」



―――≆――――≆――――≆――――≆――――≆――――≆――――≆―――



伯母は癌の末期でもう昏睡状態だった。


「孝雄さん……助けて…。」


昏睡状態の伯母の口から太平洋戦争で戦死した伯父の名前が出てきた。


「孝雄さんって…

 大好きだったんだね…

 戦死した伯父さんのこと…。」


その2日後、寿子伯母さんは亡くなった。

たった4か月の結婚生活だったのに、その結婚生活よりも遥かに長い時を寿子伯母さんは結婚せずに正岡家の嫁として暮らした。

その間、寿子伯母さんの心を占めていたのは、たった4か月の夫だった孝雄伯父さんだったのだ。

亡くなってからも長い時、寿子伯母さんは「夫婦の体温」を感じていたのだろうか。


「伯母さん、やっと大好きな伯父さんに会えるね。」

「二人でどんな話をしているのかな?」


寿子伯母さんの遺骨は孝雄伯父さんのお墓に入れた。

伯父さんの遺髪が入っているお墓に…。

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