入学編 4
明日は、個人面談!と、その前に寮でゆっくり休もうか。
寮にたどり着いた男子三人は洞に案内された。寮といっても、建物ではなく、校舎内の廊下にドアがポツンとある感じだ。男子と書かれた表札がかかっている玄関から入ると、天井の高い大きな広間があった。
「ここが寮の共有スペースだよ。男子寮と女子寮が唯一くっついてるとこ。ほーい。次は、君らの部屋行くっよ!」
広間の広さに千鳥はぴょんぴょんしながらはしゃぎ、創は周りを見渡していた。一方、天馬は洞とともにそそくさとエレベーターの方に向かった。ずっと、広間の広さに圧倒されて、洞についてこない千鳥と創に洞はニヤニヤしながら、清水の真似をしながらいった。
「今年の一年生は行動するのが遅過ぎます。このまま私についてくる気がないのなら、早速授業をして、夜中に荷解きをしていただくことになりますよ。いいのですか。」
その瞬間、その場がシーンとなった。そして、男子三人と洞の大きな笑い声が広間に響いた。創は、同級生たちと一緒に腹を抱えて笑ったことなんてなかった。
「やっと、笑ったね。創。」
洞は、爆笑する創を見て、安心したようだ。しかし、男子三人はすぐに笑いをやめた。それに気づかずに、笑い続ける洞の肩に誰かが手を置いた。
「どうしたんだい?芽衣咲にそっくりだったでしょ?」
洞はにやけながら、言ったが、目の前の男子三人は必死に横に振っていた。そして、視界の端にいた美雪を捉えた。それを見た洞は、「美雪?っていうことは・・・。」と小声で呟き、ゆっくり振り向いた。
そこには、真顔の清水がいた。
「うっわ!芽衣咲!?さっきのは、ぜーんぜん似てなかったよね。うん。似てない似てない。芽衣咲の方が威厳があったよね。」
洞はへっぴり腰になりながら、冷や汗をかき、ゆっくり後退した。清水はそれを見下すような顔で見続けた。
「ごめん!」
そう言って、洞は指を鳴らし、姿を消して逃げた。
「あ! もう!!」
清水は、洞が消えた方を睨みつけたが、すぐに表情を戻した。
「私は、岸 美雪さんに部屋まで案内しますので、双葉 ペガサス君、あなたが真琴 創くん、笑原 千鳥君の二名を部屋まで案内してください。」
「わかりました。真琴、笑原。行くぞ。」
天馬はエレベーターに乗り込み、創と千鳥をエレベーターに乗せた。
「双葉。あんたがなんで案内してくれんねん。別にええねんけど。」
千鳥は不思議そうに天馬に尋ねた。
「まあ、僕は中二の時からここに住んでるから。そんなことよりも、ここを見てくれ。」
天馬はエレベーターのボタンを指さした。ボタンは58まであった。
「ここって、58階まであるの?」
創はボソッといった。天馬は落ちてきたメガネをおさえ、説明し出した。
「別にここが58階まであるわけじゃなくて、これは個人の部屋の番号だ。僕は、56番だから、56のボタンを押す。」
そうして、天馬は56のボタンを押した。すると、エレベーターは上下左右の方向に動き出した。10秒ぐらい経つと、エレベーターはピタッと止まり、ドアが空いた。暗い照明の元、学ランやハチマキ、大量のメガネなどが壁に飾られた長い廊下があった。長い廊下の先に、小さくドアが見えた。
「ここが僕の部屋。」
創と千鳥は珍しそうにエレベーターからその廊下をジロジロみた。
「へ〜。廊下から自分の部屋なんや。すごいな。」
「まあね。ここって元々は真っ白な何もない空間だから、本当に自分の好きなようにしていいんだぜ。廊下からその人の性格とかわかるから、面白いぜ。」
「ほんまにえらいおもろいとこやなここは。」
千鳥はワクワクしていた。
「二人の部屋の番号を清水先生とかに聞かないといけないし、時間かかるから、とりあえず僕の廊下で待っててくれ。」
三人はエレベーターから降りた。天馬は、スマホを取り出し、清水に電話をかけていた。
「もしもし。双葉です。真琴と笑原の番号、僕知らないんですけど。・・・」
電話をしながら廊下をぐるぐる歩いている天馬の後ろで、千鳥は壁に飾ってあるメガネをかけて、鏡で自分の姿を見て一人で爆笑していた。一方、はじめは壁の学ランやハチマキをじっくり見ていた。
「な、なんでこんなのを、か、飾ってるんだろう。」
創が小さな声で言うと、千鳥が創の耳元で大きな声を出して驚かせた。
「笑原くん。び、びっくりした よ。」
千鳥の方を見ると、大量のメガネを重ねて着けて、ひょっとこの顔のように口を曲げて、必死でメガネが落ちないようにしていた。その変顔に創は笑ってしまった。
「わ、笑原くん。な、何してるの?す、すごく、変な顔!」
「そうか!?」
普通に話し出すと、眼鏡が全部床に落ちてしまった。それになぜかツボってしまった創は笑いが止まらなくなった。それを見た千鳥は誇らしげな顔をしていた。
「わかりました。伝えておきます。」
「えっと。笑原が58。真琴が59だったけな。」
天馬が電話を切り、振り向くと、腹を抱えて爆笑している創とそれ見て誇らしげな顔をしている千鳥、床に散らばった大量のメガネがあった。
「おい!お前ら!せっかく綺麗に並べたメガネを床に落としてんじゃねーぞ!」
天馬は鬼のような形相で創と千鳥を追いかけた。千鳥は爆笑し続けている創の手を引っ張って、エレベーターの方へ走った。
「ギャハハははははははあああああああ!!」
「何がそんなにおもろいねん。」
「だ、だって。初めて見たんだもん。あ、あんなに、メガネかけれる人!ギャハハ!」
「あはははははははは!」
創と千鳥は笑いながら、エレベーターに乗り込んだ。エレベーターのドアが閉まろうとする時に、天馬は大きな声で叫んだ。
「自分の番号もわからんやつがどこに行くんだ!」
爆笑しながら、千鳥が手を振った。
「俺は58。真琴が59やろ?これでも地獄耳やねんで〜。バイバ〜〜い!」
エレベーターのドアが閉まると、天馬は「クッソ!」と言い捨て、床を蹴った。そこに、洞がいきなり何もないところから現れた。
「よかったね〜。君に同級生ができて。くだらないことに怒り、笑える。そんなの同級生としかできないよ。」
洞のその言葉に、さっきまでの怒りを忘れた天馬は、小さくにこっと笑った。「ていうか、メガネが床に落とされただけで怒るって!君も、器がちっさいね〜〜。」
「さっきまでの教師面はなんだったんだよ!」天馬は、イラッとしたが、それを顔には出さなかった。顔に出したら、負けな気がしたからだ。床のメガネをコツコツと集め並べた。
「そうだ。聞いてよ〜、ペガサス〜。さっき、芽衣咲の部屋に謝りに行ったの!その時に、芽衣咲の廊下の時計を壊しちゃったんだよ。」
その時!洞は、天馬のメガネを踏んだ。
「で、芽衣咲はどうしたと思う?」
バチン!
天馬は洞の頬にビンタを喰らわした。
「あ、それそれ。全く同じことされたよ。」
そういって、洞はビンタされた頬に手をあて、しょぼんとしながら、エレベーターに乗り込んだ。
清水先生との個人面談の前に、個性的な同級生と交流しましょうか。。