入学編 3
幻実館高校専門学校の今年度の新入生がやっと揃います。
曲がりくねった廊下やたくさんの階段の先にやっと、教室にたどり着いた。この学校は校舎の構造がいびつでありながら、聖堂のような神聖さが印象的だが、教室は一般的な学校と似ている。
「自分の氏名が書かれた紙が置かれた机に着席しなさい。」
四人は黙って、さっさと着席した。
「さて、早速、ホームルームをはじめましょう。まず、簡単に自己紹介をしてもらいましょうか。改めまして、私はあなた方の担任の清水 芽衣咲と申します。あなた方の座学を担当します。よろしくお願いします。」
「俺は洞 髄斗。お前らの実技を担当する。よろしくな。」
「では、右から自己紹介をお願いします。項目は氏名、出身地、異世界転移経験の有無、他に何か言いたい事があればご勝手に。では、岸 美雪さん。」
その女子はゆっくり上品に立ち上がり、教壇に上がった。
「岸 美雪と申します。えーっと。沖縄出身です。異世界転移経験有りですわ。都市伝説とかが大好きで、ここでいろんなことを学べることを心待ちにしておりました。よろしくお願いたします。」
長いスカートを持ち、上品に深く礼をし、自分の机に戻った。創は口をポカーンとし、固まっていた。心の中では、中世の貴族のような白い薔薇のオーラが創の米粒サイズのオーラを押し除けた。
「よろしくお願いします。岸 美雪さん。では次!」
千鳥は、ざっと椅子から立ち上がり、スキップしながら教壇に上がった。
「俺は、笑原 千鳥。大阪生まれ大阪育ちの生粋の大阪人!異世界転移経験はあり!こんなレアな学校に入れてめっちゃ嬉しい!これからよろしくな!」
ウインクしながら、グッジョブサインをし、自己紹介を終え、教壇からジャンプして降り、スキップして自分の机に戻った。その明るい姿は創には眩し過ぎたようだ。
「よろしくお願いします。笑原 千鳥くん。では次!」
次は、創の番だ。
「・・・・・・・・。」
返事がない。ただの屍のようだ。
清水に呼ばれたが、創はさっきまでの二人のキラキラした自己紹介に心がやられていた。清水は再度、厳しい声で言った。
「次!」
創は、生き返り、両手で椅子を引き、猫背でノロノロ教壇に上がった。
「ぼ、僕は、真琴 創で、です。京都府出身です。い、異世界せ、生活、あ違う、転移経験は、あ、ありません。よ、よろしくお願いします。」
小さく礼をして、そそくさと自分の机に戻った。
「よろしくお願いします。真琴 創くん。最後、お願いします。」
メガネの男子が眼鏡を押さえながら、ロボットのようなカクカクした歩き方で教壇に上がった。そして、いきなり目を血走らせ、大きな声で話し出した。
「おれぇは、双葉!茨城出身!異世界」
創、美雪、千鳥は見た目の真面目そうな雰囲気とヤンキー風の話し方のギャップに驚いた。
清水が大きな咳払いをし、双葉にニコッと微笑んだが、目は睨んでいた。その視線に双葉は申し訳なさそうな顔をして、冷静に話し始めた。
「い、いや。清水先生、失礼しました。僕は、双葉 天馬。」
創は開いた口が閉まらなかった。美雪は目をパチパチさせ、千鳥は吹き出してしまった。しかし、それを気にせずに天馬は自己紹介を続けた。
「茨城県出身だ。異世界転移経験は有り。よろしく。」
「よろしくお願いします。双葉 ペガサスくん。本日はここまでにして、これから皆さんには寮に行って荷解きをして頂き、休んでもらいます。」
「え!?もう終わりなんすか?今日は。」
千鳥は四人全員が思っていたことを聞いた。
「ええ。その通りです。明日は皆さん一人一人との面談を予定していますので、ゆっくり休んでください。では、男子は洞先生が、女子は私が寮まで案内します。」
四人はお互いの顔を見合わせながら、なかなか立ち上がらなかった。予想以上に入学式とホームルームが早く終わったことと明日の面談に対して、四人は困惑していた。それを見た洞は頭を抱えた。清水は大きなため息をついた。
「今年の一年生は行動するのが遅過ぎます。このまま寮に向かう気がないのなら、早速授業をして、夜中に荷解きをしていただくことになりますよ。いいのですか。」
「いいえ!」
「はい!」
男子3人は否定し、美雪だけが肯定した。肯定した美雪の目はキラキラしていた。洞は教室の後ろで声を殺して笑っていた。それに対し、清水は口をぽかんと開けていた。
「ま、まあ。では、早速寮に向かいましょうか。」
男子さんは一斉に立ち上がり、早足で教室を出て、洞の後についていった。
「ほーい!男子たち、こっちだよ〜。ついてきてね〜。」
「はーい!」
千鳥は手をあげて元気に返事した。その後ろに天馬が静かについていき、猫背でおどおどしながら創もついていった。
「寮に事前に送ってもらった君たちの荷物が部屋に置いてあるから、部屋の内装は自分の好きなようにしてくれていいから。ちなみに、僕の部屋にはカラオケマシン置いてるから!歌いたくなったら僕の部屋にきてね!」
「か、カラオケ マシンがあ、あるんですか?」
創が小さい声で反応した。
「え!?創は歌うの?」
「す、すいません。」
「なんで、謝るんだよ。真琴はなんも悪いこと言ってねえだろ。」
天馬はどすの利いた声だが、優しく言った。
「い、いや。なんか。」
天馬の声にビビったのか、、まだおどおどしているようだ。
「洞みたいな音痴が謎の自信を持って、カラオケマシンを自慢してることの方が罪だと思うけどな。」
洞は吹き出してしまった。
「え!?ペガサス!そんなこと思ってたのか!」
そんなことを話していると、廊下の向こうから何かがすごい勢いでこっちに向かってきていた。
教室に残された清水は困っていた。美雪は目を輝かせたまま、着席したままなのだ。
「あ、あの。岸 美雪さん?授業は明後日から存分に受けられるので、今日はもう寮に行きませんか?」
「明後日!?もう、私はここの生徒ですの。さあ!早速、学ばせてくださいませ!せ ん せ い!」
美雪はその圧で清水の心をへし折りそうになった。
「岸 美雪さん。実はあなたを寮に案内した後に研究室に行かないといけませんので・・・」
清水は困った表情で恐る恐る言ったが、
「け ん き ゅ う し つ!!!荷造りなんてどうでもいいですわ!先生! 是!非!研究室を見学させてくださいまし!」
美雪は諦めなさそうだ。清水は、無表情で着席している美雪に近づき、美雪の手を取った。
「ごめんなさいね。」
「へ?」
清水は美雪の手を引いて、音速以上の速さで廊下を走り出した。
「先生!止まってくださいまし!」
美雪は人生一最速の移動に恐怖なんて感じなかった。興味と興奮と風を感じながら、寮に連れてこられた。
次回は、寮に案内され、明日の個人面談に向けて準備をします。ちょっと変わった寮のシステムに困惑する創を応援してあげてください。